33.木霊
「ウギャアーッ……」
貫かれた胸を抱えたまま、モンスターはかがみ込んだ。趙はうずくまる相手の背にさらに肘打ちを食らわせた。そして今度は、素早く顔面を狙って蹴りあげた。
「うむ?」
しかしその足をモンスターはつかんで阻止した。片足を木霊フクロウにつかまれた趙は、ひっくり返されると、今度は床に二、三度たたきつけられた。
「クククッ、いつまでも調子にのるなよ。赤トカゲ」
木霊フクロウはそう言うと、肩から翼を伸ばし羽毛を空中にばらまいた。
「何のマネだ」
モンスターは、にやりと笑うと低く不気味な鳴き声を上げた。
「ホウッ、ホウッ、ホウッ、ホウッ……」
その鳴き声が撒き散らした羽毛のひとつずつに届くと、別の羽毛に向けて反射する。それは永遠に続くモンスターの鳴き声の木霊だ。
「この木霊が、ヘリや戦闘機を面白いくらい地面に叩きつけたのさ」
強力な音波により、ヘリの計器を狂わせただけではなく、その振動で組成する分子の構成まで破壊されかねない。趙は恐るべき相手だと木霊フクロウを見上げた。
趙はその耳を両手で塞ぎ、立ち上がったものの、なすすべがない。それを見て木霊フクロウは次の攻撃を開始した。
「ウゥッ……」
モンスターの降下と上昇の度に趙は皮膚を「薄く」削ぎ取られていく。執拗な攻撃は、趙の86を消費させるためのものだ。しかし、趙は両手を放すわけにはいかなかった。木霊フクロウの鳴き声がさらに大きくなり、ついに窓ガラスが粉微塵になった。
足元に散らばったガラスの破片が冷たい光を放った。
「このままでは、じわじわと86の力を減らしてしまう……」
その時、部屋のドアが開くとラビが飛び込んで来た。モンスターがその様子を見て言った。
「わざわざ殺されに来たのか?」
「はいっ……?」
ラビはその長い耳を器用に巻き込み、遮音をした姿だった。さらに念入りに「イヤー・ウォーマー」にまで長い耳を変異させていた。おかげで木霊フクロウの言った言葉は聞こえない、そのラビにモンスターは踊りかかった。
「えいっ!」
ラビはかけ声とともに側面の壁を駆け上がり、その一撃を交わしてすぐさま、敵の背後から三段蹴りをお見舞いした。木霊フクロウが崩れるのを確認して、ラビは後方に宙返りすると着地を決めた。
「どうよ、レディの三段蹴りの味は?」
「グフッ、なかなかやるな。しかしこれならどうだ!」
新たな羽毛がばらまかれ、それがゆっくりと渦を巻いた。ラビは羽毛に取り囲まれた、その羽にはしびれ粉が塗られていた。モンスターの羽に全身を包まれたラビは、やがて自由を奪われてしまい、その粉によって立つのもやっとの状態になった。
「レディー、交代だ!」
趙が木霊フクロウに斬りかかっていった。その耳はラビ程ではなかったが、鱗で入念に覆われていた。それを見たモンスターは舌打ちをしたものの、動じなかった。
「お前も床にひれ伏すがいい、このシビレ羽毛を食らえ!」
両翼を交互に振り、木霊フクロウはつむじ風を起こした。と、その時趙の赤い瞳が、一段と輝きを増した。床に散らばった鱗の一枚一枚が縁まで鋭く変異をして、一斉に上空のモンスターを狙った。たちまち、その羽毛は趙の鱗によって切り刻まれた。そしてすかさず趙は飛び上がり、木霊フクロウの両翼を掴むと渾身の力で引きちぎった。落下していくモンスターの叫び声が大きく響いた。
「ウギャーッッ」
落下する木霊フクロウを待ち受けていたラビの強烈な後ろ蹴りが見事に顔面に炸裂した。
「グギュルル……」
顔面の半分を吹っ飛ばされた木霊フクロウは、そう叫ぶと方から次の羽を伸ばし割れた窓から外に飛び上がった。
「おのれっ、今度は必ずお前たちを倒す。覚悟していろ」
「ベーだっ!」
ぺろりと舌を出すラビを見て、趙は笑った。その笑いは完全に癒えていない胸に嫌な痛みを伴った。
「急がねばならない、今度こそあいつを倒さなければ亜矢が……」
とうの亜矢は、ラビに添い寝をされて寝返りを打つと一つ小さなあくびをした。




