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満月少女 亜矢  作者: 黒瀬新吉
32/67

32.赤トカゲ

「そろそろ、脂ものは飽きた頃だ、トカゲの刺身をいただこうか」

「そううまくいくかな、さあ来い!」

「シャア!」

モンスターの両手が再び趙を襲った。今度は鱗とともに趙の血しぶきが床に飛び散る。


「趙、大丈夫?」

ラビがようやく戻ってきた。物音に亜矢は目を覚まし、その光景に失神してしまった。

「亜矢を安全なところへ連れて行け。早く」

頷くより早く、ラビは亜矢を抱きかかえ部屋の外に出た。

「安全な場所が、あればいいがな。ホウッ、ホウッ、ホウッ」

「タアッ」

右手をソードに変異させた趙は下方からモンスターを斬りあげた。確かな手応えとともに今度はモンスターがその腹を切り裂かれた。しかし木霊フクロウにはダメージはない。


趙に対抗して、右手の指を縒り合わせると両刃の刀に変え、今度は振り下ろされた趙の刀を難なくモンスターは受け止めた。

「刺身は薄く削ぎ落とした方が良いだろう」

薄ら笑いを浮かべ、趙の身体を蹴り飛ばした。趙は部屋の隅に転がった。

「あきらかにこいつの戦闘能力は上がっている。花粉から作られたとはいえ、相当手強いモンスターだ」

趙は自己の能力を高めるために、脊椎に体内の「ルナティ86」を集中させた。変異細胞が新たなシナプスを伸ばした。趙の背中の皮膚を突き破り、数本の背柱がまるで帆柱のように生える。その間を濃紺の膜がつないだ、そうまるで「ディメトロドン」のようだ。


「これは、驚きだ。変異細胞をこんな短時間で扱えるとは。さすがに『マスター・シード』だ、だからこそドクも俺に特別な能力を加えて作り上げた」

木霊フクロウはその「ディメトロドン」の姿を見ても、感心はしても微塵もひるみはしなかった。むしろ「好敵手」の存在に例えようのない高揚感を感じた。


ー ディメトロドンは、のちに地上に溢れた恐竜たちとは異なる。いわゆる「トカゲ」の最大のものだ。その特徴的な背にある「帆」は今日では、太陽の光を集め朝には体温を素早く上昇させ、昼間は放熱して体温を下げたのではないかと言われる。もちろん現存する「エリマキトカゲ」のように求愛や威嚇にも役立っていたのに違いない ー


趙はその帆をまだ痩せている月に向けた。そう、86を集めるために……。

「チャージ、完了。さあ行くぞ!」

再び背の(セイル)が体内に消えた。趙は真っ赤な身体のネオロイドに変異を終えた。


「レッド・スキンク(赤トカゲ)の趙か、なるほど、そのセイルはそのためのものか」

そう言いつつ、木霊フクロウは刀を袈裟掛けにした。それを肩で弾きとばし、趙はモンスターの顔を殴り飛ばした。

「グェツ」

短い悲鳴をあげて、床に転がった木霊フクロウは、趙が次に突いた刀を避けることが出来なかった。腹を切り裂かれたまま、それでもモンスターは立ち上がる。

「とどめた、イェヤア!」

趙は走りながら、刀の先に全体重を乗せて木霊フクロウの胸に飛び込んだ。

「パキッ」


趙は刀に確かな手応えを感じると、自らの腕を切り離した。

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