30.木霊フクロウ
「全く、つかめない。あの日高という男といい、テツというヤツも……」
伊織は強くもない酒に手を伸ばし、ぼんやり部屋の外を見ていた。
「プルルル……」
ZIGからの通信が入った。伊織は聴くばかり、そしてこう繰り返すだけだった。
「イエス……」
日高の言う通り、テツに向かった者はことごとく裏をかかれてしまい、事もあろうにヘリまで奪われたのだ。そのヘリにZIGは搭載されていた武器に襲われたのだ。それは武器庫の大火災となり、ようやく落ち着いたのは三日後の今日だと言う。一刻も早く『マスター・シード』を手にし、そのクローン・モンスターを各国に売らねばならない。
「日高の処分は、任せる……」
赤らめた顔のまま、伊織は敬礼をすると最後にこう言った。
「イエス、ジーザス!」
灰色の「ヤモリ」が窓の外に張り付き、様子を覗いている事に伊織は気付かなかった。
「そうか、テツがZIGを潰してくれればちょうどいい。所詮人知を超えて『シノ』は存在するのだ。俺はそれを垣間見た人間のひとりなのだ……」
ドクは日高修一の『命日』を思い出した。しかし彼の回想する時間は、不粋な警報器のベルに遮られた。何者かが、アジトに攻撃をしてきたのだ。
アジトと名付けてはいるが、機材を搬入している部屋以外は普通の鉄骨だ、軍用ヘリに攻撃されて耐えられるはずもない。一瞬で赤茶けたコンテナだけが地上に取り残された。しかしヘリの攻撃は執拗に続く。そのヘリは国連軍のものだった、地下壕の天井のハッチが開きデータの転送が終わった杢原がシェルターに入ってきた。
「ドク、データの送信終わりました」
「ご苦労、うるさい奴らを始末しろ」
「行け!木霊フクロウ……」
「なんと、国連軍が一瞬で壊滅したのか。そのモンスターは空を飛ぶのか」
善三は国連軍の参謀「汀 純人」にそうつぶやいた。
「ああ、しかし何故か急に落下していったらしい。まるで力尽きたように、ゆっくりと円を描いて。しかし、地上に立つものは皆無だが、今一歩、地下までは破壊できなかった」
モニターの後ろで黒い人影が動く、それを見た雄馬が安心したように話しかけた。
「お前、やっと席に戻れたのか?」
「ああ、紹介する。趙の娘さんだ」
「初めましてサラと言います」
「ところでテツ、こっちにはいつ戻る?」
それは、まだ決まっていない。それに実は日高は……」
モニターの向こうが衝撃で激しく揺れ、通信が途絶えた。
「ZIGか、それともモンスターの攻撃か?」
雄馬の問いに答えるものはいない、遠い日本ではその詳細はつかめなかった。
一人娘サラが無事な知らせに趙は一安心した。何よりの知らせとなった。
「おそらく、そのモンスターは『ルナティ86』のエネルギーを使い果たしたのだろう。趙たちとはタイプが異なるようだ」
善三の言葉に少し憤慨したのだろう、ラビがふくれて言った。
「私たちは『モンスター』じゃあないわ。『新型』には違いないけれど」
「はははっ、新型はよかったなラビ」
趙はそう言うと、新たな「シード・モンスター」を迎え撃つ覚悟を決めた。




