28.選ばれた娘
「亜矢は一卵性双生児として成長していた。すでに姉の名前も決めていた。しかし、由樹さんの体調が思わしくなく、ある日のこと大量の出血をして、危険な状態になった。雄馬はその時『オロス』にいた、連絡も取れない。雄馬と同じ血液型のわしは、急きょ由樹さんに輸血を行ったのだ」
「それは聞いていたよ、由樹からも父さんからも」
善三は、一度唇を噛んで言った。
「わしの輸血の際にそれは起こったのだろう……」
オロスから持ち帰った冷凍マンモスには「パラサイト・シード」が含まれていた。それは太古の「マスター・シード」の中で最も優れた「変異細胞」をもつ。切り取られたマンモスの足のミトコンドリアにやがて限界が訪れることを感知し、次の寄生先を待っていたのだ。
「そのシードについて知っていることを話そう。『シノ』と、そうわしに名乗った。シノは寄生した生き物と意思が通じる。しかしそれは永遠に続くものではない、『ルナティ86(エイトシックス)』が降り注ぐ間だけ、わしはシノと会話ができた。シノは最も優れたシードのため、スーパー・ムーンの際の86でしか活発に活動ができない。およそこの地球において、シノを殺すことはできない。なぜなら全ての生き物はシノのミトコンドリアと同じ遺伝子配列をなしている。人類の知能さえもかつてシノが与えたものだ、とわしに語った」
やはり、父はすでに「シード」に寄生されていたのか……。オロスから無事に父が戻れたのは、シードの力だったのかと雄馬は思った。それを察した善三はこう言って笑った。
「雄馬、わしにはシノは寄生しなかった。シノはお前たちの娘を選んだのだ。わしには、趙さんと同じ『ラグ』タイプのパラサイトが寄生したのだ」
「そのシノはどうやって、由樹の中に入ることができたんだ? 父さんの身体に寄生していたんじゃあないのか?」
雄馬の疑問はもっともだ、しかし善三は首を振った。
「マスター・シードとひとつに分類するが、彼らは『雌雄異体』なのだ。オスはお前たちの見た姿、それはラグというものだ。メスをシノという、成長が遅いため胎児に寄生しようとした。わしが由樹さんに輸血中、どうやって移動したものかわからない。だが輸血が終わり研究所にもどった時、冷凍マンモスから変異細胞『シノ』の反応は不思議なことに一切消えていた」
パラサイトのメス、シノはマンモスから離脱して善三に着床し、輸血の際に由樹の中に入った。しかしさすがにその時の事を誰も知らなかった。
「そして、双子の一方はある日のこと忽然と姿を消し、亜矢一人が産まれたということか」
「そうだ、わしはシノが亜矢の姉に寄生したものの、途中死滅したものだと思っていた」
それまで黙って二人の話を聞いていた由樹が口を開いた。
「香矢は死んでなどいなかったわ。お義父さん、きっと亜矢の身体の『ブラック・ボール』が香矢なのですね」
「おそらく……、ただシノが寄生した香矢が今、どんな状態なのかはわしにもわからない」




