23.侵入者
一方、由樹とラビは地下のガレージに向う、そこには2ドアの小型のクーペが停まっていた。それはNACのコマンドカーの試作品だ。それは形状記憶した炭素繊維で作られたもので状況により形状を変異して移動できる。水陸そして「ホバー・システム」で地上十メートル程度は浮き上がれるものだ。しかしそのプロトタイプを作るうちに「ZIG」に機密が漏れたために、ここで雄馬が一人で開発を続けていた。その機密を漏らしたのが、オロスにいた「伊織道長」だった。そのリークした情報で「ZIG」は兵器開発を進めて今の世界の武器市場を独占している。しかし本来のシステムの中心は「NAC」の「AI」でありその核心は「橘善三・雄馬」の手にあった。
コマンドカーのシステムが「橘由樹」を認証した。ガレージから「ホバー・システム」を使い、一直線で進んだ。もちろん追うものはいない。
「ママ、これってオートクルーズなのね」
ラビがサイドシードにちょこんと座った。緑の毛並みのロップ・イヤーに戻っていた。
「そうね、このまま15分で着くわ、でも雄馬たちは大丈夫かしら……」
「大丈夫、趙がいるから。それより亜矢ちゃんはどんな女の子かしら?」
「亜矢はね……」
橘の屋敷の中枢とつながっている、オートクルーズシステムでそれから15分、ラビは亜矢について由樹からいろいろと聞いた。その中で気がかりなのはやはり「香矢」のことだった。
「その『かたまり』はきっと香矢さんのものだわ、私たちに似ている、でもどうしてそんなことが起こったのかしら?」
由樹は思い当たることを言った。
「雄馬の父、橘善三が私に輸血をしてくれた事があったわ、妊娠中の私の命が危なかったとき。義父が私と同じ血液型だったの……」
ラビはそれを聞くと小さくつぶやいた。
「原因がそれだとすると、橘善三という人もおそらく……」
屋敷の門からコマンドカーを誘導するレーザー光が発射され、オートクルーズが終了した。コマンドカーは高度を落とし水銀で満たされたプールの上を滑りその先に空いた地下ガレージの入り口に吸い込まれていった。水銀の上をホバー・システムで進むうちに様々なスキャニングが行われる。地下ガレージに収納されていたタイヤを出したコマンドカーが軽いショックで停車した。モニターを見た善三はスキャン結果を確認した。
「コマンドカー、到着。由樹サマほか2生命体が搭乗されています」
それを聞く善三は顔がこわばっていた。モニターからは子ウサギを抱いた由樹しか降りてこなかったのだ。雄馬は少し遅れて到着するとの報告があったばかりだった。
「もうひとつ生体反応がある……?」
それは一体なんだ、そう言いかけた時、その正体がモニターに映し出された。
コマンドカーを停車させ、由樹がラビとともに車外に出た。背後に何かの気配があった。振り返った二人の目に、縦に細長い独特の瞳を持つ「怪物」が映った。
「シード・モンスター、こいつはまるでヤモリの怪物……」
由樹は間近に迫る危険に足が動かなかった。腕の中から緑色のロップ・イヤーが飛び降りた。
「ママ、ここは私に。早く離れて」
そう言うと、ラビは後方に宙返りをした。そして立ち上がったのはオーバーオールを身に着けた、緑の髪をした垂れ耳のバニー・レディーだった。
「オマエ、オレタチノ、ナカマカ?」
ヤモリの怪物は片言でそう言いながら紫色の舌を出した。




