22.趙と雄馬
「ピー、ピー、ビー」
セキュリティー・センサーに何かが捉えられた。
「コード確認シマ……」
その音声が途絶えた。侵入者がシステムを破壊したらしい。即座荷台に慈恵会システムが動き始めた。付近に民家はないのだがさすがに弾丸を使うわけにはいかない。その変わりに発射されるのは「特殊ゴム弾」である。しかしそれが命中すればしばらくは動けないほどのショックを相手に与えるはずだ。雄馬は別のモニターに映る侵入者の姿をじっと見入っていた。
「奴に違いない、しかし……」
その怪物は半魚人のような姿をしていた。しかも一体で現れていた、そして両手を上げ体中にゴム弾を食らった。と、次の瞬間そのゴム弾は、はじかれる事もなく灰色の怪物の腹部にめり込んでいった。そして怪物は低く吠えた。
「ぐるるる」
言葉の学習を終えていない方の「シード・モンスター」だった。
悠々と玄関に近づくと、三本の指でドアノブを握った。ノブには数百ボルトの電圧が流れていた。辺りに魚の焦げた匂いが立ちこめたがゆっくりドアは外側に開いた。半魚人の怪物は研究所に使用していた古い別荘に侵入したのだ。
その目的は? 考えるまでもなかった、雄馬は皆に叫んだ。
「二手に分かれて逃げよう。由樹、ラビと先に行くんだ」
「あなた気をつけて、趙さん、雄馬をお願いね」
「ママ、私も戦えるよ」
「あなたは私と逃げるのよ、ラビ」
「つまんないなあ……」
「いや、きっともう一体は『橘』の屋敷に向っているに違いない。ここよりもセキュリティ・システムが強力だから心配はない。しかしもしもの場合は次には亜矢が狙われる。ラビ、娘を『亜矢』を守ってくれ」
ラビはその依頼を受けた。
「亜矢ちゃんを守るのね、承知しました」
そう言うと、ラビは「バニー・レディー」に変異したまま、由樹と一緒に地下のガレージに消えた。
趙と怪物の戦いは果てしなく続いていた。変異細胞は破損した部分をたちまち修復する、それは一見すると幼稚だが、しかし強力な「殴り合い」だ。腕が砕け散り、足はもぎ取られるただその度に衝撃波により彼等の周りは床も壁も壊されていく。実験機材など一瞬で粉々になった、雄馬は最後の「マスター・シード」を冷凍している「圧力冷凍庫」を抱えたまま机の下に隠れていた。雄馬はふと新たな疑問が思い浮かんだ。
「シード・モンスターは何故半魚人の姿に変異しているのだ? 寄り代を途中で変えることが可能なのか?」
趙が雄馬の心を察して言った。
「ミスター・雄馬、やはりこいつは我々と違う。戦ってみて解ったが戦闘能力は互角だが、知能レベルは低い」
趙はそう言うといつの間にか「キッチン」から手に入れていた携帯コンロ用のガスカートリッジをつかんだ。ボンベが彼の変異細胞に包まれ、それを凄まじい速度で怪物に投げつけた。もちろんそれは「ゴム弾」の様に怪物の灰色の腹の中に吸い込まれていった。彼はそれを見て取り出した拳銃でそれを打ち抜いた。
「バッ」
シード・モンスターの腹部のガスカートリッジが爆発した。怪物はその腹部に大きな穴があいた。しかしそこには肋骨は見えない、その代わりに気味の悪い長くくねるパラサイトの「鞭毛」の端が見えた。趙は素早くそれをつまみ体内のパラサイトを抜き出した。怪物はもう動かなくなった。
長い鞭毛は幾本も途中枝分かれをして「サナダムシ」の姿に見慣れていた「寄生虫」のイメージではない。雄馬はめちゃくちゃになった研究用の薬品ロッカーから「ホルマリン」の瓶を出しその中にその物体を押し込むとこう言った。
「趙よ、頼む。こいつを預かっていてくれ」
趙はそれを体内にすっかり取り込むと笑った。
「このサンプルは、私が運びましょう、ミスター・雄馬」




