20.味方
男の顔がクニャリと歪む。雄馬は瞬きもせず、男の顔を見つめた。男は趙杢霖の顔になった。続けて電話から男の声が雄馬に聞こえた。
「オート・ジャイロは一人乗りだ、今一番重要なのは彼の身の安全を確保する事だろう? 雄馬」
電話の哲生の声は少し笑っていた。
「電話がなけりゃあ、一発ぶん殴っていたぞ。まったく」
「あっはっはっ、いくらお前の正拳でも彼を捉えるのは至難の業だと思うが? ところで何故解った。うまく俺に成り済ましていたのに……」
「コーヒーの好みさ、なあ由樹」
雄馬は由樹に言った。
「ええ、哲生さんならいつもお砂糖スプーン三杯も使うでしょう?」
「なるほど、コーヒーの好みまではコピーできないのか? でも彼はきっと頼りになるぞ、雄馬。まあ後は直接彼から聞けよ」
電話はまたそこで切られた。
「ミスター・雄馬、お久し振りです。趙杢霖です」
彼は自分のあごをひと撫でして、にっこり笑った。雄馬は彼に起こった出来事を聞かされた。
雄馬が見た通り、趙はヘリの機銃に狙い撃ちされた。それは一瞬のうちだ。「コブラ」からアタッシュケースに向けて一斉に弾丸が向う。彼が声を上げる間などない。
その時、粉々になったシャーレの中からほんの一粒の「マスター・シード」が弾丸の先に付着した。彼の心臓に撃ち込まれた弾丸にだ。その弾丸は心臓を貫通しなかった。人間の体温が最適だったのか、それとも「シード」が身の危険を感じたのかは解らないが、瞬時に発芽した「パラサイト」はまずその弾丸の貫通を止めた。彼の体内から血の一滴も流れなかったのはそう言う訳だ。
「私、あの不思議な『シード』にもう一度、命与えられた。ミスター・雄馬、感謝します」
趙はそう言って、立ち上がると「ラビ」のケージに近づいていった。とっくに小さな「ロップ・イヤー(垂れ耳うさぎ)」に戻っていたラビが、再び緑色のウサギに変わった。ふと雄馬が気付くと、ラビはケージから脱出して、趙の足下にすり寄っていた。それを見て由樹は笑った。
「あらあら、困った子ね。また変わっちゃったわ」
「ミスター・雄馬、それからこれを預かっています」
趙がブリーフケースから細い「ピル・ケース」を差し出した。それを受け取った雄馬は趙に尋ねた。
「これは?」
「それが、日高、伊織、杢。三人がオロスの「第六研究所」の地下シェルターで最後に作っていたもの、『シード・モンスター』の秘密を解く鍵です。それを『ZIG』は手に入れようとしていた様です」
「このために、地下シェルターを破壊したのか、一体どこにこれは隠してあったのだ?」
「あのアタッシュケースの中ですよ、ミスター・雄馬」
「それも、日高の仕業なのか。なんて男だ」
「でもそれはオリジナルではありません。日高の作ったオリジナルはたったひとつ、おそらくそれは私たちの様に体内に保存されているでしょう」
「ママ。おなかすいた」
突然、少女の声が部屋に響いた。驚いて辺りを見回す由樹に、その声の主はもう一度言った。
「ママ、ここよ。ここだって……」




