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満月少女 亜矢  作者: 黒瀬新吉
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19.記憶ディスク

「あなた『ラビ』がまたケージから出ちゃったわ」

由樹が逃げ回る実験用のウサギを追いかけている。とにかくすばしっこい、雄馬も手を焼いている。何しろケージの網の目から前足を出し、指を鍵に変異させて錠など簡単に開けてしまうのだ。

「これも、86の影響なんだろうな。照射を止めてもシードは、しばらくはまだミトコンドリアに指令を出す。だがそれもそろそろ終わりだ、また元のウサギに戻るさ」

 雄馬は由樹がこのウサギに「ラビ」と名付けて世話をしているのを見ると、美樹に預けたままの亜矢のことを思い出した。このウサギは亜矢の誕生日に渡すプレゼントだった。

「この別荘にそれまで置いておこうとしていたのにな、まだ生まれてひと月なのに……」

ようやく由樹につかまった「ラビ」はグレーの毛色に戻っていた。

「私はさっきのグリーンの『ラビ』のほうが可愛いと思うけど、仕方ないわね」

ケージに入れられたラビは子ウサギに戻っていた。


 彼が「ルナティー・86照射」の実験を開始して一週間になる。その間亜矢には、寂しい思いをさせているのが雄馬には辛かった。

「これで、シード・モンスターは人工的に作り出されたことが解った。変異細胞は全ての生命体に今も存在している。変異のきっかけは『スーパー・ムーン』の時に地上に放射される『ルナティー・86』だ。おそらくこのメカニズムに何らかの『プログラム』が追加されている。

「そんなことができるのは『日高』しかいない……」

そのとき屋上のモニターに白いオート・ジャイロの映像が映し出された。


「あら? お客様かしら?」

「由樹、ここへ案内しなさい。お前もよく知っている奴だ」

由樹がエレベーターに消えた。雄馬は日高が「ZIG」のエージェントを使い、オロスの研究所で作り上げたのが「シード・モンスター」だと結論づけた。手元の資料の中には、身元不明の二人「伊織道長(いおりみちなが)」と「杢原(もくはら)ノア」の経歴が詐称されていたとの報告書があった。


 エレベーターが開いた。日に焼けた「駿河哲生(するがてつお)」が由樹に案内されてきた。この別荘の研究室で、半年ぶりに既知の二人は会った。


「テツ、お前生きてたのか?」

雄馬は半年前、駿河哲生の身に何が起こったのか聞きたかった。しかし今はもっと優先することがあった。雄馬は早速、話を切り出した。

「早速だが、趙氏の事何か解ったのか?」

しかし、テツは黙って「ブリーフ・ケース」から記憶ディスクを取り出し雄馬に渡しただけだった。何か相当の事があったに違いない、由樹が雄馬からそれを受け取りスタンバイを終えた。


 テツからの電話の通り、オロスの研究所は破壊されていた。しかしそれは雄馬が創造していたものとは違っていた。それは人為的なもの、それは空き巣が物色した後の様に散らかっていた。何か探し物をしたあとで「カムフラージュ」でもしている様に雄馬は感じた。

 場面が変わった。雪崩に押しつぶされた村の人ごみの中で「冬眠している男」の写真が拡大された。記事の通りだとすると、傷ひとつないこの体の中に無数の弾丸が入っているということになる。どうやって入手したのか手術の場面の動画もあった。動画に映った医療道具は最新のものだ。しかし手術どころではない、彼は突然目を開けるとベッドから跳躍し院外に消えたのだ。その後に続く、レントゲン写真を確認した雄馬はうなった。

「これだけの弾丸が彼の体内にあると言うのか」

雄馬は写真を拡大して弾丸を確認した。その特異な形状はあの日の雄馬の乗ったヘリの下部に装着されていた銃器のものだ。GPSシステムからの遠隔操作で発射されたものに間違いない。

「やはり彼はあのときアタッシュケースを奪って飛び降りた男だ、しかし何故生きているのだ。パラシュートがずたずたにされたのを俺はこの目で確認した。あの高度から落ちればたとえ弾丸が致命傷にならなくとも即死するはずだ……」


 由樹が二人にコーヒーを運んできた。カップを受け取り、テツは口に運んだ。

「お前一体誰だ?」

突然立ち上がり身構えた雄馬の後ろのデスクで電話が鳴った。由樹がそれを雄馬に手渡した。その電話から聞こえる声はこう雄馬に言った。


「さすがだな、橘雄馬。よく見破ったな……」

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