18.ルナティー・86
その頃、橘善三は居間で「稲荷利雄」と実験映像をモニタリングしていた。利雄は善三の名付けた「ゴラゾーム」の変異のシステムに、ある法則があることを突き止めていた。今日は雄馬の実験を見るためにここへ訪れたのだった。
「これがあの時お前が持ち帰ったマンモスを変異させたものか?」
「ああ、不思議な生き物『パラサイト・シード』と言う。雄馬が持ち帰ったうちのひとつだ」
「シードか、雄馬君の話では、マウスくらいの大きさだと、成長途中でミトコンドリアが枯渇するということだが、今回は『寄り代』を変えているのか?」
「どうやらお前が発見した『スーパー・ムーン』の際の特殊な現象にヒントを得たらしい」
「おいおい、『ルナティー・86(エイト・シックス)』のことか? お前だぞ、オカルトだ非科学的だと馬鹿にしていたのは」
「雄馬はそうは言わなかったろう。確かに『スーパー・ムーン』の時には「86(エイト・シックス)」が地球に大量に降り注ぐ。そのとき生き物たちが異常な行動を起こすのは、太古から知られていることだ」
「地球の生き物は全て、それを現在でも細胞に記憶しているというのが俺の仮説だ」
「その『86』がミトコンドリアを刺激するのではないか、とあいつは考えたらしい」
「じゃあ、あのウサギには」
「そうだ利雄、『ルナティー・86』を照射している。そのため、あのウサギのミトコンドリアは活性化している、マウスではやはりパラサイト・シードの寄り代としては限界がある様だ」
「もっと大型の生き物が必要だというのか?」
「いや、大きさではない。マウスではその寿命が短すぎるのだ。パラサイト・シードは2年から20年でその一生を終えるらしい。そして最後にはマスター・シードと花粉を残して死ぬ」
「それほど、パラサイト・シードの一生は寄り代で変わるのか?」
「成長するのに寄り代の寿命の20パーセント程度が必要になる、という理由については不明だ。それに何故生き物でありながら種と花粉に別れて死ぬのかもな」
そこに、オロスの国境付近の『趙杢霖』の事件がモニターに映ったのだ。
「これは、パラサイト・シードが人間に寄生したということなのだろうか?」
利雄が考え込んだ。おそらく間違いないだろう。ただその男は冬眠していたということなのだ。
「どうだ、利雄、何か考えつくことがあるか? これが今のパラサイト・シードに関しての全ての情報だ。あの怪物たち『シード・モンスター』の正体を知る手がかりが少しでもありそうか?」
そう質問をすると、善三は、一階の美樹に連絡を入れた。
「ああ、私だ。お父さんにコーヒーを、私にはほうじ茶を頼む」
利雄がやっと口を開いた。
「確実に言えるのは、あの『シード・モンスター』は、人や動物にシードが寄生したものではあり得ない、『シード』が寄生したものではないということだ。ひょっとしたら花粉の寄生したものかも知れない。今言えるのは『シード』が寄生した生き物は決して他の生物を攻撃することはないということだ。防御のために細胞を特殊変異させることはあってもな」
それを聞くと善三は笑ってこう言った。
「そうだな、そしてポーレンも同じだ。他の生き物たちを殺したりはしない、むしろその能力を高めてくれる、その寿命と引き換えにな。このわしの様に……」
「……善三、やはりお前が持ち帰ったのはマンモスの腕だけではなかったのだな」
「おかげで大勢の人の命が救われた。20年の寿命なんて安すぎる対価だったよ、利雄」
ドアが開き、美樹が亜矢と一緒に二人の祖父に挨拶をした。
「おじい様、亜矢もお手伝いしたのよ」
「そうか、もう一年生だからな」
「お父さん亜矢ちゃんはね、クラスで一番かけっこが速いんだって」
「そうかそうか、すごいな亜矢は」
「ねえ、今夜は父さんも母さんも帰らないって。おじい様お願い、亜矢と一緒にお泊まりしてよ」
「ああ、解った。今日は泊まっていくよ」
「おねしょするなよ、亜矢」
善三がそう言うと亜矢がふくれて言った。
「そんなの、しないもーん」




