17.趙杢霖
マスコミはこぞって死体の無い「失踪事件」を取り上げたが、雄馬の行方はその日以来いっこうに解らないままだった。それもそのはずだ、彼は部屋にこもリっきりでマスター・シードのひとつを使い実験を繰り返していた。
「やはり、間違いない。シードは身の危険が迫った時だけ細胞を変異させる。そして他の生命体を食らうことなどしない。あの『シード・モンスター』はこのパラサイト・シードが寄生したものではない。誰かが創り出したものなんだ、しかしどこで? 誰が?」
あの日以来、世界中のマスコミにアクセスしているこのPCでも、似た事件はヒットしない。
「報道規制がされている訳でもあるまいが、おや?」
雄馬は小さな記事に目を奪われた。雪崩に巻き込まれた北欧の町の記事だ。その町はオロスから日本に向う途中にある。雄馬が目を止めたのはその見出し「冬眠していた人間」という言葉とその男が抱えていたと言う、アタッシュケースだった。
「見覚えがある、あの男だ」
その記事にはこうあった。趙杢霖という男は、雪崩に襲われたその村で掘り出された時、なんと息を吹き返したと書かれていた。にわかに信じがたいが、趙氏は空から落ちたてきたのだと言う。特筆すべきなのは体中には弾丸に撃たれた傷があり、しかも全ての弾丸が体内に残っているのだということである。そしてそれを手術で取り出そうとしてもメスが入らないということが書かれていたのである。もちろんそれは三流のローカル紙だった。
「シードが彼に寄生したのに違いない、確かめに行こう」
雄馬は地下室の「オート・ジャイロ」を屋上に移動させようとエレベーターに向った。その時テツからの電話が入った。
「おい、雄馬。無駄なことはするなよ、趙杢霖はとっくに行方不明だぞ」
「テツ、お前どこからかけてるんだ?」
「オロス、第六室の研究所からさ」
「研究所? 何をしてるそこには何も無いだろう」
「ああ、きれいさっぱり吹き飛んでいる。不思議なことにな」
「不思議なことに?」
「転送してやろう、そら見えるか? 中性子爆弾でも壊れないはずのシェルターの中がどんな様子かお前も見てみろ」
彼の送ったシェルターの中は、めちゃくちゃに吹き飛んでいた。研究員たちが到着した時は整然と片付いていたはずの実験機材は無惨に壊れていた。遺体を回収した後で大規模な爆発でも起こったのだろうか、しかしそんな報告は上がっていない、考えられるのは……。
「これで解ったろう、雄馬お前は動くなよ。俺がそっちへ向う、緊急コードを使ってこの研究所のオート・ジャイロをスタンバイしてくれ。そうそう、このことはまだ誰にも言うんじゃないぞ。もちろん由樹さんにもだ」
「解った、例のところで落ち合おう。テツ、それとな……」
連絡はそこで途絶えた。
「まったく、なんて奴だ」
「あなた、誰から?」
由樹がコーヒーを持って入ってきた。二人はあの日火葬場から、善三の古い研究所に直行して身を隠していた。由樹は新婚気分を味わったと満足げだったが、雄馬はそれどころではなかった。




