13.組織
「NACのシステムも、こうしてみるとわが命を守ってくれる神の様なものだ」
日高は起き上がった二人に言った。外部からの核攻撃にも耐えるシステムは、排除すべき男を皮肉にも守ってしまったのである。それは日高の計画通りだった。
「ハッキングは不可能だが、こうして一度中に入ってしまえば、不落の『アジト』だな、日高さん」
「これはまた、古い呼び方ですね。道長様は、革命家ですか?」
「はっはっは、名前からして伊織様は面白いなぁ、ネ。日高様」
「おいおい、『アジト』は変か? 杢」
杢は顔立ちはアジア系だが、すらりと背が高い。一見研究員だが、「Z研(ジグの研究機関)」からここに送リ込まれた「エージェント」だった。伊織は「NAC」のデータを某国の軍へ「リーク」していたのを突き止められ、半年前に会社を解雇されていた。そして日高は「シード」の研究を進めるうちに闇の組織「ZIG」に深く関わっていった。「ZIG」は潤沢な資金と、最新鋭の研究機材を彼に与え。日高は「ZIG」のために既に死んだ「シード」のクローンを創り上げていたのだった。
「こいつがその第一号のシード』ですか? ドクター・日高」
杢が冷凍庫の中の「シャーレ」を覗いた。
「気をつけろ、杢。そいつはオリジナルよりも凶暴だ。常温で近づけばひとたまりも無く寄生されるぞ」
杢はあわてて顔を話した。
「お、脅かさないでくださいよ、ドクター・日高」
先刻とは違い、至って意気地がない。それもそうだろう、彼は「ハムスター」が狂った様にステンレスのメスに噛みつき、遂にはそれをかみ砕いたのを目の当たりにした「生き残り」だからだ。他の研究員は横のすました顔の伊織が片付けてしまった。「人体モルモット」として五体を冷凍保存しているのを除けば、およそ先刻の爆風で死体は蒸発しているに違いない。
「さあ、貴重なこいつを使って最強の生物兵器を作り上げよう。中東の富豪たちは、幾らの値をつけるかな? くっくっくっ」
日高、伊織、杢。この三人はオロスの「第六研究所」の地下シェルターを改造し「ZIG」の為に「シード・モンスター」を作り上げようとしていた。
「デモンストレーションは何処でするつもりだ、ドクター・日高?」
「最初から決めている、NACの本部、標的は橘雄馬。俺の長年の恨みをはらしてやる。ついでに「マスター・シード」を取り戻そう。まあ、あれはわざと持ち出させたのだがな」
「さすが、ドクター・日高。この研究所からあれを持ち出せるのは、ミスター・雄馬だけだからな。ところで『シード・モンスター』はここからどうやって出すつもりだ」
伊織は、NACのGPSの精度を恐れていた。おそらくここから出た瞬間「セキュリティー・システム」は「シード・モンスター」を消し去るだろう。
「お迎えが来るさ、それまでに仕上げておくんだ。杢、一体にそれほど時間はかけられない。「人体モルモット」の「脳」に遠隔コントロールチップを埋め込む。きわめて細い脳神経だ、慎重に急いで確実に埋め込むんだ。さあ、手伝え」
日高は手術着を杢に渡した。外科医「杢原ノア」としての顔を持つ、彼なしでは到底不可能な手術だった。
日高の連絡を受け「防護服」に身を包んだNACの職員が、翌朝には変わり果てたオロスの「第六研究所」に着いた。
「ご無事で何よりです、日高さん。放射能は除去されています、シェルターから出られても安全です。他に生存者は?」
「彼等二人だけです、後研究員が数人力つき、冷凍庫で安置しています。後は爆風で吹き飛ばされました」
「そのようですね、しかし遺体でも残っているだけましですよ。ここ以外はなんの跡形もありません、遺族の身になったら……。では、ご遺体を運び出しましょう」
職員は指示をすると、遺体を運びだしはじめた。それを見た杢はこう思った。
「なるほど、俺が始末した研究員をこうやって使うのか。しかし、コントロールチップが金属探知器に反応するのではないのか?」
その心配は不要だった。運び出されようとする遺体に日高は真新しいNACの社章をつけてやったのだ。もちろん「シード」のカプセルが入ったものだ。
「これも一緒に天国へ持っていってくれ、今までありがとう……」
日高はそう言ってひとりひとりの名前を呼び、その襟元に社章をつけたのである。
言葉とは裏腹に、冷たい笑みさえ浮かべて。
「私たちは、データの回復を試してみます。『室長』は無事でしょうか?」
「ええ、そろそろ役員会が始まる頃です」
日高が雄馬の安否を尋ねると職員はそう答えた。




