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満月少女 亜矢  作者: 黒瀬新吉
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11.帰国

 ヘリのパイロットの「通信」が某所に届いた。片手には既に溶解した雄馬の靴がある。依頼主に男は残念そうに報告した。

「隠し持っていたものは、残念ながら溶解していました。ミスター・雄馬のヘリはオート・クルーズで無事です」

依頼主がその通信を切ったとたんに通信機が爆発を起こした。


 「それでいいのさ、この世に『シード』は多くは要らない。ミスター・雄馬は用心深い男だ、きっと何個かは隠しているはずだ。ご苦労、ゆっくり眠るがいい」

その通信機は「日高」が渡したものだった。某国の軍と彼はつながっていたのだ、彼は「シード」を日本に持ち込むために雄馬をオロスに呼んだのに過ぎなかった。NACのシステムを抜けてサンプルを持ち出せるのは、雄馬だけだった事を日高は逆には利用したのだった。しかし、利用された某国の軍は当然報復に出た。その数時間後、オロスの研究所はリモートコントロールされた「スノー・モービル」の攻撃にさらされ、小型高性能の爆薬で跡形もなく消し飛んだ。その事件は雄馬のヘリがNACに到着する前に、すでに日本では大きく報道されていた。


 職員が到着したヘリに乗り込み、雄馬のシールドのロックを解除した。由樹が雄馬の姿を見ると、泣き顔で喜んだ。

「あなた、無事だったのね。よかった」

「ああ、しかし、研究所の人たちは無事なんだろうか?」

「地下シェルターは、水爆にも耐える構造です。ただ、使われたのは中性子爆弾ではないかと思われますので、おそらくは……」

「そうか、残念だが」

「万一に備え、ご自宅のセキュリティーのレベルを引き上げております」

「八島、感謝する。明後日、オロスのサンプルについての会議を持つ。連絡を頼むぞ、もちろん役員は全て集めろ。早速で悪いが専用機の手配を頼むぞ」

「はい、明後日13時には必ず全員お呼びします」

八島というのは雄馬の秘書だ、もっとも信頼できる。迎えの車中で会議の指示を終え、やっと彼は由樹の夫の顔に戻った。


 「由樹、少し疲れた。亜矢の件は会議が終わってからにしよう。あの娘に変わりはないか?」

「はい、また背が伸びましたけど」

「ハハハッ、ほんの一週間でそれほど背が伸びたか? ハハハッ」

妻のジョークに雄馬は何度も助けられていた。

「日高が言った通り、本当に『シード』は、太古からこの地球に生息していたのだろうか? 彼のいう事が正しければ今もどこかに生き残っていてもおかしくはないが……」

左肩に軽い重みを感じた、それは夜中から彼のヘリを待っていた妻のものだ。大学時代のあの近寄りがたかった才媛も、今ではこうして無防備になっている事に、車中の雄馬は『幸せ』を感じた。


 「あくまでも、仮定ですが」

オロスの「第六室研究所」を出発前に、日高は雄馬にそう前置きして、自分の仮説をのべた。数々の「それ」を証明する資料は全て消滅し、雄馬が日本に持ち帰ったものは「シード」がほんの3粒だ。そして雄馬が自分で見聞きした事だけになった。明後日、役員を納得させるためには、実験を再現してみせるしかないだろう。

「いかに『シード』が凶暴で、恐るべき『最終兵器』になるものかを伝えなければならない。問題は「シード」がおそらく世界中にあるという事なんだ。NACは全力で対策法を練らねばならない、日高の仮説が正しいとしたら? いやおそらくそれは正しいだろう」


 科学は万能ではない、しかし人々の少しの気休めには十分なるだろう。雄馬は日高の仮説をまだ興奮しているその脳の中でひとつずつ、検証しながら、やがて眠りはじめた。

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