10.狙われた「シード」
雄馬はこのヘリのパイロットの「腕」が一流な事に驚いた。「訓練」を受けている、兵士のものだと雄馬は思った。と同時にその横顔がひどく冷静な事に気付いた。
「さすがですね、NACのセキュティー・システムは。あなたの生体感知器はその腕時計かな? ミスター・雄馬」
パイロットは左手で拳銃を彼に向けた。もちろんNACのヘリにはその拳銃から弾が発射されたとたん1000万分の1秒で防御用のスクリーンが降りる。雄馬はパイロットに話した。
「何処の国のものか知らないが、無駄な事はしない事だ。それにアタッシュケースは既にない。俺を脅しても無駄だよ」
男はそれでも拳銃は下ろさない。そしてこう言った。
「あなたの事だ、隠している方をいただこうか、ミスター・雄馬」
彼は不覚にも、足下を見てしまった。
「その靴の中か、それを脱いでヘリの外へ落としてもらおう。そうすればお互い死なずにすむ」
「いやだと言ったらどうする、この機内で拳銃を撃つつもりか? 止めといた方がいいぞ、むだだ」
「なあに、断ればこっちに変えるだけだ」
男はジガー・ナイフに持ち替えて笑った。火薬にしかシステムは反応しない。雄馬は言われるまま、両方の靴を脱いだ。男は靴のかかとを開け、ピル・ケースの中を確認した。
「なるほど、これが『パラサイト・シード』というものか」
「お前、何故それを知っている?」
「それに応えたとしても、ミスター・雄馬、あなたは誰にも話す事はできない」
そう言いながら、男はそのお互いの靴ひも同士を結び、目印の黄色いひもで束ねるとヘリの外へ放った。そして拳銃を持ったまま操縦席から降りた。ヘリが不安定になったのが雄馬にも分かった。
「何をするつもりだ、シールドはそんな拳銃では破れないぞ」
「ふふふっ、ヘリの操縦は出来ないと聞いているが、念には念をいれてな」
「ガン、ガン、ガン……」
数発の弾丸が床に落ち、機内に火薬の臭いが充満した。その煙の向こうには男の姿はなかった。男は予備のパラシュートをすべて放り出し、残ったひとつをつけると笑顔でこう言った。
「ご自慢のNACセキュリティー・システムも操縦ミスの墜落までは助けてくれないだろうがな。グッド・バイ、ミスター・雄馬」
男はそう言い残すと、ヘリから自ら飛び降りた。
シールドに守られた雄馬は機内から炎症反応が消えるまで出れない、それを見越しての行動だ。
「あの靴には俺の体温を記憶させている。急激に気温が変化すると溶解する、残念だな。シールドの中で退屈だが、このヘリは間違っても墜落はしない……」
「パイロット不明、生命反応なし、雄馬様のみ搭乗。これよりオート・クルーズ。東京ベイエリアNACへリポート到着時間、19時25分。燃料、計器、異常なし。気圧……」
退屈だが、久し振りにオート・クルーズの中、雄馬は上着のボタンを右に回した。
ボタンが開き中から「シード」が入った5ミリ径のカプセルが出てきた。
「念には念を入れろと日高の言った通りだった。これが最後の「シード」になったか」
雄馬は、やっと日本に帰れる事が嬉しかった。
「亜矢の手術を由樹は悩んでいたが、休みの間に終わらせておく方がいい。亜矢は大事な娘なんだから」
雄馬は、そこで眠りに落ちた。真っ暗な海の上をGPSで誘導されたヘリが北上を続けた。




