3.間宮美鈴(31歳)の元日
美鈴は2年前に離婚をしていた。
短大を出て証券会社に勤めたが、そこで3歳年上の高木という男と社内恋愛をして、そのままゴールイン。俗に言う「寿退社」で家庭に収まった。
だが、姑との折り合いが悪く、それに我慢が出来ずにとうとう離婚に至った。
一人息子の雄太は協議のうえ、美鈴が引き取ることになった。
月7万円の養育料には不満もあったが、調停の結果だから、受け入れざるを得なかった。
今は、税理士事務所の事務員をしながら、子育てに懸命だ。
この正月は実家に戻っていた。
父親のいない家庭だから、少しでも賑やかな正月にしてやりたいからとの親心だった。
「雄太も大きくなったなぁ。」
半年振りの実家だったが、父は孫の成長に目を細める。
「どうだ?あれから考えてくれたか?」
父は雄太を膝に抱えたままでそう言った。
「う〜ん、考えるどころの話じゃないわ。もう、そんなこと頭に無いから。」
美鈴は母の手伝いをしながら、父の顔も見ないでそう答える。
「でもなぁ、このまま、お前一人で雄太を育てていくのはどうかな?」
「どうかな、って?」
「だからさ、わしらがこうして元気なうちはそれなりの支援もしてやれるが、これでどちらかが病気にでもなったら、なかなかそうも行かなくなるし。」
美鈴は、父が言っている意味は頭ではよく分かっているつもりだ。
今はまだ雄太も保育所通いだが、これから小学校、中学校と進学させなければならない。
懸命に働いてはいるが、税理士の個人事務所では貰える給料だって多寡が知れている。
毎月送られてくる養育費を加えても、食べていくだけで精一杯だ。
これからのことを考えると、確かに不安は大きい。
「なぁ、無理にとは言わんが、やっぱり女手ひとつで子供を育てるのは並大抵の事じゃないぞ。
今回の話が無理だとしてもだ、やはり再婚は考えたほうがいい。」
父は、娘と孫の将来が気がかりでならないのだ。
盛んに再婚を勧める。
「もう、結婚はこりごりよ。再婚をするつもりはないわ。」
「お前はそれでいいかも知れんが、これから育っていく雄太には、やはり父親が必要だろう。」
「雄太のために、私に我慢をしろと?」
「そんなことは言ってない。お前もまだ若いんだから、このまま子供のためだけに生きるのも辛いだろうと思うだけだ。
いい人が見つかれば、やはり再婚はしたほうがいい。
お前にも、そして雄太にも幸せになる権利があるんだから。」
父の大きな膝の中ではしゃぐ雄太の姿に、返す言葉が見つからない美鈴だった。
(完)