2.安藤夕子(24歳)の元日
「幸ちゃん、おはよう。もう、そろそろ起きてよね。」
夕子はまだベッドの中にいた婚約者の幸一を揺り動かした。
「う〜ん・・・・、もうちょっとだけ寝かせてよ。」
「そんなぁ、今朝は初詣に連れて行ってくれるって約束でしょう?」
「う〜ん・・・、だったら、明日行こう。」
「だ、駄目よ、明日は。お仲人の加賀さんちへご挨拶に行くんだから。」
「そ、そうか・・・・。」
幸一と夕子はこの3月に結婚式を控えている。
明日は、仲人をお願いしている幸一の上司にあたる加賀副所長の自宅へご挨拶に伺うことになっていたのだ。
「ゆっこちゃんがキスしてくれたら起きるよ。」
幸一はそう言って唇を突き出す。
「駄目よ。キスしたら、それだけで終らないでしょう?」
「キスしてくれなきゃ起きられない。」
「だ〜め、何度も同じ手は食わないわよ。さっさと起きてよ。」
夕子はそう言ったかと思うと、幸一が抱きかかえるようにしていた布団を剥いだ。
そして、それを足元の方に三つ折にして畳む。
その時、少しだけ夕子の体重がベッドの上に掛かった。
その一瞬を幸一は逃さなかった。
「ああ〜ん、駄目、駄目よ・・・・。」
小柄な夕子の身体がベッドの上で小さく弾む。
気がついたら、既に幸一の身体が覆いかぶさっていた。
「ほ、ほら、もうこんなになってるじゃない。」
幸一の指が夕子の下半身に差し込まれている。
「この人が旦那様か・・・・。」
一戦を終えて、満足そうにまどろむ幸一の顔を横目に見て、夕子はふと先輩の美鈴が言った言葉を思い出していた。
「恋人と結婚相手は違うのよ。
そこを間違ったら、私の二の舞になるわよ。
よ〜く、考えてね。」
「じゃあ、初詣は3日なのね。」
1年の初めの日から、こうも計画が少しずつ崩れていくことに、どこかしら不安を感じる夕子だった。
「これが、マリッジブルーなのかしら。」
(完)