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アパートの階段を下りて外に出たら、予想していたよりも街灯が暗く、道を歩くのが困難に思えた。自分の進む方向を確認すると、赤や黄色の小さな光が左右を流れている。おそらくバス通りを走る車の明かりだろう。まるで一瞬のように燃えて消え去る流れ星のようだ。
どうしよう……。夜のさびしい路地を目にしたとたん、心細くなってしまった。まるで銀河鉄道にたったひとりで乗り込んでいるみたいだ。
一人で知らない道を歩くなんて、ちょっと甘い考えだったかな。宇宙でなくてよかったかも。今にも正体不明の何かが、暗がりの中から飛び出して来そうで、けっこう怖かった。もし、変な人に会ったらと思うと……。足を踏み出すのをためらってしまう。
母親の忠告が脳裏によみがえってきた。
『ひとり暮らしするからには、もっと用心なさいよ。最近は何かと物騒なのよ。わかってるの?』
はい、わかってます。わかってますって、お母さま。
「こら、ユウカ!」
両頬をパシッと叩いて、自分自身に喝を入れた。懐中電灯のスイッチを入れる。明かりを手にしていることで、徐々に心細さが薄らいできた。
何を弱気になってるの。地図と懐中電灯は持ったし、防犯ブザーだってポケットの中。ダッシュで走って通りすぎれば、誰かに会ったとしても、声をかけられることはない。だいじょうぶ、だって。
よし!
勢いのままダダッと走り出し、アパートの敷地内を出た。うしろを振り返らずに、真っ直ぐ前だけを見て、ひたすら走る。懐中電灯の明かりが、何も障害物がないことをわたしに知らせた。
なあんだ。ほら、見たことか。怖いことなんか起こらない。やっぱり簡単じゃん。
目指す出口が、どんどん近づいて来た。バス通りまで、あとわずかだ。もう少し。
と、勝利を確信したとたん、ひょっこりと誰かが目の前に現れたのだ。
「えっ、なっ、なんで――」
車と同じく、人間も走り出したら、急に止まれまない。
「ひゃ、ひゃあ~!」
わたしは、そのまま人影に向かって突進し――次の瞬間、すごい衝撃がして、目の前を火花が散った。