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鎮痛剤のおかげで、いくらか痛みが和らいだものの、いつぶり返すかと心配で、気が気じゃなかった。それに、飲んだ量は適量の半分だ。薬の効き目も、半分の時間しか続かないかもしれない。すぐに歯医者に行けないのなら、せめて薬だけでも手元にあった方がいいだろう。
転入届の提出の際に、市役所でもらった町内の地図を、床の上に広げた。そこには、学校や公園、スーパーなど主だった施設の他、住居も書き込まれており、一軒一軒、ていねいに世帯主の名前まで入っている。
えーと。うちから、いちばん近いところは、と――。
自宅の周辺に注目した。
「あ、あった。あった」
自宅から西へ二百メートルほど行ったところにバス通りがある。そこなら、きっとコンビニかドラッグストアが何軒かやっているだろう。
幸い今夜は晴れて、月の明るい夜だ。春のあたたかさに誘われて、夜の散歩をするには、うってつけの空模様。まだ八時と、寝支度をするには早すぎるから、ちょっとぐらい外出しても平気だし。
押入れに作った簡易式クローゼットの中から、上着を一枚選んだ。春らしいミントグリーンの薄いカーディガンである。うん、これなら、さりげなくておしゃれだ。ちっとも大げさじゃない。誰かとすれ違って視線を浴びることがあったとしても、これならきっとだいじょうぶだろう。
カーディガンに袖を通し、お財布の入ったポシェットを斜め掛けした。玄関で、ヒールの低い靴を履く。
「行ってきます」
誰もいない空っぽの部屋に向かって、いつものように言ってみた。当たり前だけど、返事はかえって来なかった。