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1:1■キジ×クロム■名無し姫の不始末・番外編~○○はつらいよ~★25分

作者: 七菜 かずは

名無し姫の不始末・番外編~○○はつらいよ~






出演

クロム・ロワーツ (名無し姫) ♀

・時代設定としては、ナナシ1よりも少し前、25歳くらい。

ヒロイン。昔、とある人物にクロム・ロワーツとあだ名づけられる。

日本名:黒凪くろなぎ ゆめ。女。弱い所もあるが、とにかく芯が強い。冷静に見えて、熱い心を持っている。

幼い頃(9才)は儚く、やや虚弱だったが。大人になってとてもしっかりした責任感の強い女性となる。

心を預けられる人間というのをどこか求めている。お姉さん。

基本的にしゃんとしているのだが、たまに見せる隙や余裕がとても女性らしく。少し色気を見せる。

数年前。ジョーカーに言われ無理やり、第三の地球と呼ばれる小惑星ケテラス・中央大陸アイゼルの宇宙民間船ナナシの船長をやらされていた経験がある。

現在は、数百年前に地震で沈んだ日本国の海底でメイド喫茶を運営しながら。滅びかけている地球の延命処置を施している。

黒髪長髪。仕事中はメイド服。仕事がある日は大体黒いパンツスーツで出勤する。

少しずつ、ジョーカーのことが好きだと気付き始めている頃。


カルク・キジュリュク・ゼット ♂

全銀河警察クゥドゥルシェ。クロムと同い歳。楽天家。たまに真面目。祖国を愛している。

全銀河警察クゥドゥルシェでもあるが、本当は水星にある医術大国ユンヴァリーの総理大臣。

全銀河警察クゥドゥルシェとしては、水星の、ウンディーネ海域を警備担当としている。が、不真面目で宇宙航海好きな為、宇宙全域をいつもフラフラとパトロールしている。

出身は水星。十代の頃ヤンキー、そして宇宙海賊だった。ジョーカーと同期。

二十代前半の頃は外科医兼整体師だった。と同時に、こそこそと海賊をやっていた。

口が悪く、正義の味方っぽさがない。お洒落。インディアンのような格好をしている。ジャラジャラした装飾品が好き。

ジョーカーとは昔からの知り合いで、犬猿の仲。クロムのことも、昔から知っている。

独身。宇宙航海術に長けているクロムの才能に惚れており、仲間にしたいと思っている。

戦闘術には長けているが、ほとんど真面目に航海術を学んでこなかった為、宇宙船乗りとしてはいつまでも半人前。

ジョーカーと同じような性格をしていると、色々な人に言われる為、そのことでかなり苛々している。

いつも、しぐれというインドランス(サイボーグのようなもの)と一緒に居る。本来、大臣という高い身分の為、何十人ものインドランスの護衛を付けなければならないのだが、しぐれが発する生命エネルギーが、他のインドランスやキャギラに機能障害バグを起こさせてしまう為、護衛はしぐれしかつけていない。

しぐれの高い戦闘能力は認めているが、頭の悪さ (※抜けている。ドジ)には、困っている。






役表

クロム :

キジ  :






■開幕


地球の地底都市。

夜。お風呂上がり。クロムは自室でカクテルを飲みながらぼーっとしていた。

少し、気が落ちているクロム。


クロム「はぁ……」


先刻まで、ジョーカーと通話をしていたクロム。

素っ気なくぶっきらぼうで攻撃的なジョーカーの態度に、毎回毎回、無駄に落ち込んでしまっていた。


キジ(プルルルルルルルルルル……)


電話が鳴る。


クロム「はい、もしもし」


キジ(おうっ! ご機嫌宜しく! 我がクロム姫)


クロム「ああ、キジ……。なんの用ですか?」


キジ(そうあからさまに嫌な態度とんなよ)


クロム「な、ん、で、す、か?」


キジ(俺と結婚しろっ――……)


クロム「しませんっ」(キジの台詞ほとんど喰って)


キジ(あんな男のどこがいいんだよ!)


 あんな男、というのは、ダークのこと。クロムが自身でキジにそのことを伝えた訳では無いが、そう勝手に思い込んでいる。


クロム「うるさいです。貴方には関係無いでしょう?」


キジ(関係無くはねえよ!)


クロム「はいはい……」


キジ(? なんっか)


クロム「え?」


キジ(どうした、お前)


クロム「はい?」


キジ(元気無ぇな)


クロム「ふ。……そんなことないですよ」


キジ(作り笑いきめえんだけど)


クロム「……っ。っ、そう言えば、この間の件どうなりました?」


キジ(どうもこうもねぇよ。話逸らすな)


クロム「しっかりやって頂かないと、此方も困ります」


キジ(お前のことが気になって手につかねぇなぁ!)


クロム「またそんなことばかり言って! 貴方それでも全銀河警察クゥドゥルシェですか?」


キジ(しょうがねえだろ?)


クロム「な、なんです?」


キジ(お前が魅力的過ぎて、俺ぁ仕事なんか手につかねえんだよ)


クロム「(しかと)オディラッドの修理、そんなに時間かかるんですか?」


キジ(修理?)


クロム「昨日修繕がどうのこうのって言ってたじゃないですか」


キジ(ああ! 出来たらいいなぁって話だ)


クロム「どこか船に不具合が?」


キジ(ちゃうちゃうちゃうちゃうちゃう!)


クロム「?」


キジ(しぐれ、の! 不具合)


クロム「しぐれ?」


キジ(あいつの頭、良くならねえかなぁって)


クロム「失礼ですよ。自分のオペレーションパートナーに向かって」


キジ(いいんだよあいつは……)


クロム「しぐれはしぐれで頑張っているんですから」


キジ(んなことより俺とお前の未来の話をしようぜ! なっ。何で落ち込んでんのか知らねえけどさ! 悪いほうにばっか考えても、面倒だろ!)


クロム「キジ。私、忙しいのでもう」


キジ(ちょっと待てって!)


クロム「なんですか」(イラッとして)


キジ(俺はお前が好きなんだっ! 誰よりもな!!)


クロム「そ……っ!」


キジ(あ?)


クロム「無駄に迫って来るからジョーカーみたいだなーと思っていたら、ジョーカーが絶対言わないようなこと言うんだから……っ!」(小声)


キジ(ああ゛!? 誰が誰みたいだって!?)


クロム「~おっお気になさらずっ」


キジ(クソが。ったく。……なあ。月から冥王星まで最速でどんぐれえかかる?)


クロム「えっ。月から冥王星、ですか? う~ん。今の乗船技術があっても、十日はかかると思いますけど……」


キジ(はぁ?)


クロム「はぁって」


キジ(なんっでだよ! 地球やケテラスからは、水星までは半日で着くんだぜ!?)


クロム「仕方ないじゃないですか。何十億キロ離れてると思ってるんですか? それに途中途中に関所があるんですよ?」


キジ(ダイブでも無理か?)


クロム「遠距離ダイブは、ダイブに慣れている個人のみを運ぶのなら……」


キジ(俺ダイブ恐怖症なんだよなぁ)


クロム「じゃあどっちにしろ無理じゃないですか!」


キジ(オディラッドごと冥王星に行きてぇんだよ)


クロム「船ごと!? 余計に無理な要素が増えましたね」


キジ(なんとかしろよ)


クロム「どれくらいお急ぎなんですか?」


キジ(お急ぎっつうか、航海待ちの時間ってキライなんだよ)


クロム「はぁ」


キジ(なんとか3分くらいで行けるようにだなぁ)


クロム「3分ってカップ麺じゃないんですから!」


キジ(怒んなよッ)


クロム「その面倒臭がりな性格、宇宙航海に向いてないんじゃないですか」


キジ(うっせえな。んなことより)


クロム「んなことって……」


キジ(まあ、いいんだ)


クロム「いいんですか?」


キジ(俺が今日知りてぇのは、…… (少しキリッとして)お前が死んだ理由だ)


クロム「えっ? は、はぁ……」


キジ(生温い返事しやがって)


クロム「そんなこと、貴方に教える義理はありません」


キジ(なんで)


クロム「なんでって……。関係ないことですから。それに」


キジ(んだよ)


クロム「何度も言いますが、私が本物のクロム・ロワーツだという証拠はないはずです。だから、」


キジ(背中のあざ)


クロム「っ!?」


キジ(それこそ、クロム、お前が名無しの姫である何よりの証拠だ。お前の数字、両親の名、王家の紋章! 全て、お前の背に刻まれてる)


クロム「……いつ、背中を……」


キジ(こないだな)


クロム「いい加減に……っ! 私のことを嗅ぎ回るの止めて下さい!」


キジ(俺には知る権利がある)


クロム「どうして!」


キジ(どうしてもだ)


クロム「っ! キジ、これでもですか!? っ!」


キジ(っああ?)


 クロム、モニターを映し。キジに自分の背中を見せる。


クロム「ほら。見てください。私の背には、貴方が言ったような紋章なんて、無いんです!」


キジ(なんで……。前は確かに)


クロム「これでわかったでしょう? 私はクロムじゃない」


キジ(いや。お前はクロムだ)


クロム「……」


キジ(“クロムじゃない!”と否定する所が益々怪しい。なぁ? そうだろ)


クロム「どうしてっ!」


キジ(この世に元々、クロム・ロワーツなんて人間は存在しねえからさ)


クロム「ッ!」


キジ(な? そうだろ。クロム。クロム・ロワーツのことを知っていなければ、ただ“知らない”と言い続けるはずだ)


クロム「そんなことっ」


キジ(綺麗な背中じゃねえか)


クロム「っ!! 見ないで下さいっ」(服をちゃんと着る)


キジ(あぁー……)


クロム「背中なんて、以前見せたかしら」


キジ(スフィアが言ってたんだよ。お前のこと)


クロム「スフィア……?」


キジ(忘れたのか? 薄情だな)


クロム「まっ……っ!」


キジ(お前の為に、死んだ女。俺は……あのカルク・スフィアの実兄だ)


クロム「っ!?」


キジ(な。言う気になったろ?)


クロム「スフィアは……っ!」


キジ(ああ、わかってる。お前の為に死んだかどうかは、本当の所はわからねえ。だがなぁ……)


クロム「待って下さい。先程からそちら、なんだか変な音がするんですが?」


キジ(ああ。そうなんだよやべえんだよッ! おい、航海を手伝ってくれ)


クロム「はいっ!?」


キジ(絶賛、大群キャギラに追い掛けられ中だッ! っと)


クロム「はあ!? キャギラに!?」


キジ(んでもって、しぐれは電源落ちでスリープモード中……)


クロム「それを先に言ってください! 今どこです!?」


キジ(そっちのモニタリングに映ってるだろ?)


クロム「これは……っ!」


キジ(やべぇ海域か? 悪ィ、今ここがどこかもわっかんねぇんだ!)


クロム「キジ、直ぐに船体を右斜め20度に傾け、北北西に向かって下さい!」


キジ(おっおうっ! っしゃあっ!!)


クロム「船体を立て直しつつ、全てのモニターをモストラして下さい!」


キジ(了解っ!!)


クロム「キジ!」


キジ(ああっ!)


クロム「貴方のレベルの低い航海術と、その方向音痴。絶対に宇宙飛行の船長には向いてませんよ!」


キジ(うえええええ!!?)


クロム「そうでしょ!」


キジ(カカカカカカ! 知ってらぁ。まあまあ。いかんなよ)


クロム「オディラッドの敏捷びんしょうなスピードなら、このまま直進すれば振り切れます! 」


キジ(わあった! あっ。んでよお、さっきの話の続きなんだが……)


クロム「はい!? ちょっと、余所見は……っ! 小惑星に衝突しても知りませんよ!」


キジ(俺はスフィアのだなあ~)


クロム「信じませんっ! 貴方がスフィアの兄だなんてっ!」


キジ(本当のことなんだって~)


クロム「だってスフィアは……! もっと上品ですからっ!」


キジ(俺が下品だと?)


クロム「はい」


キジ(はっきり言うねぇ)


クロム「だって。キジ、貴方偉そうにはしていますが威厳が無いですし。どう見ても賊っぽさが勝ってます」


キジ(ひでえ)


クロム「身分証を見せて貰うまで、本当に宇宙海賊だと思ってましたよ」


キジ(一応一国の大臣な訳よ)


クロム「それっぽくして下さい」


キジ(ぐっへえ~)


クロム「はぁ……。もう」


キジ(なあ。あんたさ)


クロム「はい? っ軌道、大丈夫ですか?」


キジ(ああ。キャギラなら撒いた)


クロム「良かった。特殊なキャギラでは無かったようですね」


キジ(インドランスの暴走形態なんだから、存在するだけで特殊だろ)


クロム「ま、まあ、そうですね」


キジ(なぁなぁ)


クロム「はい?」


キジ(あんた、自分の正義を貫く為に、自殺の偽装なんかしたんだろ)


クロム「っ!」


キジ(ん。違うか?)

クロム「ちが……っ!」

キジ(いや! 違わねえ筈だ)


クロム「どうして……」


キジ(どうして? ははっ)


クロム「っ? ――……」


キジ(な。あんたが正義を貫いて、走り続ける限り。ディラ王女もダルダディアもあのクソジョーカーも、皆。お前を守る為にお前を追い掛ける)


クロム「……」


キジ(全員が、背伸びして無理をし続ければ、必ず誰かがいつかコケる。……特に、お前がもたねえはずだ)


クロム「何が言いたいの」


キジ(俺は止めてえんだ。お前がまた、妙な気を起こさねえように。なぁ。クロム・ロワーツ。お前はあいつらが必死こいてついてきてんのをこうして知っても)


クロム「……っ」


キジ(それでもお前は、一度も振り向かず自分の道だけ真っ直ぐ突き進むのか?)


クロム「キジ……」


キジ(ま、でも。俺の嫁になりゃ、多少の無理は許してやる)


クロム「は?」


キジ(水星の医療技術、舐めんなよ?)


クロム「ああ、そっちですか」


キジ(ッ。しつけえなあ)


クロム「ッ! キジ、新手です!」


キジ(ああっ! ったくよお。船体ギリッギリの所で姿現しやがって!)


クロム「数が多すぎる……。しぐれはまだ起きそうにありませんか?」


キジ(まだ充電が10%(じゅっぱー)しか終わってねえ)


クロム「一人では危険です! どこか近くの避難惑星にダイブ出来ませんか!」


キジ(だから俺はダイブが苦手だって……!)


クロム「使えない……」(相手に聞こえないように呟く)


キジ(っおい聞こえてんぞ!!)


クロム「うっ」


キジ(お前はダイブが得意なんだよな? じゃあお前が誘導してくれりゃあ済む話じゃあねえか!)


クロム「先日も何度も言いましたけど、同じダイブルートを通過出来るのは、80キロ以下の一つの個体のみです」


キジ(そこをなんとかしろっつってんだよ頭かてぇなぁ)


クロム「無理なものは無理ですっ!」


キジ(ああ!?)


クロム「システム自体そういう縛りがあるんですから! いい加減宇宙航海する人間としてダイブの仕組みくらい理解して下さい!」


キジ(お前が俺の船に乗ってくれりゃあ航海も楽になるんだろうけどなぁ)


クロム「私はもう、宇宙には出ません……」


キジ(アッ。そういや、なあクロム。俺がこないだ送った宝石、気に入ってくれたかっ? お前の歳の数だけ詰め込んだ……)


クロム「ああ。あれなら売って良い値がついたので。募金しちゃいました」(けろっと)


キジ(はああ!? おんまえ!! 人が心込めて送ったもん売るか普通!?)


クロム「必要無いので」


キジ(女なのに宝石に興味ねえのかよ!?)


クロム「川原に落ちてる面白い形の石とか、海辺に落ちてる貝殻とかは嫌いじゃ無いですけど……。どうも人の手が加わっている装飾品って、魅力を感じないんですよね。特に宝石単体」


キジ(ありがたみがわからねえ奴め!)


クロム「ちょっと……。貴方がくれたもので、地球に居る何千人という命を救う為に私はマングローブ募金をしたんですよ!? ほら、見てください! 既に世界各地の子供たちから、ありがとうのメッセージが!!」


 クロム、自分のメールフォルダにある受信メールを数個開き、キジに見せる。


キジ(お、おお……)


クロム「ふん。貴方も医師のはしくれなら、もっと沢山の人の為になることにお金を使うべきです! 新薬開発、飢餓の国への援助、未開発惑星への補助も、色々やることはあるでしょう!?」


キジ(クッ。クククッ……! はっはっはっはっはっはっはっ! いっひっふっひっひっひっ!)


クロム「? キジ?」


キジ(流石は、俺の未来の嫁。やることが正義じゃあねえか! はーっはっはっはっはっは!!)


クロム「もう馬鹿とは話したくないです」


キジ(で。ダイブの話に戻っていいか?)


クロム「嫌です」


キジ(お前はなんでも否定的だな!)


クロム「もう切って寝てもいいですか?」


キジ(まあ待て。もう少しだけ! 質問させてくれ)


クロム「はぁ」


キジ(どうしても無理か?)


クロム「無理です」


キジ(オディラッドごと、ばびゅん! とどっかに飛ばすのは)


クロム「ロジカルではないんですよ」


キジ(ん?)


クロム「キジ。今貴方は宇宙服を着ていますか?」


キジ(は? 何言ってんだ。アホか? お前)


クロム「イラッ」


キジ(超古代の話じゃあるめえし。今時宇宙船の中で宇宙服着てる奴なんかいねーよ)


クロム「そう。私たちが惑星より出て、無重力空間のはずの宇宙で、船の中で呼吸が出来るのも、普通に歩けるのも。全て科学の力がそうさせているんです」


キジ(何が言いたい)


クロム「まるで、惑星の大地に立っているかのように生活が出来る。数ヶ月だって、何年だって、船の燃料さえあれば、私たちは生きていけますよね」


キジ(ああ、まあ、週に1回はどっかの星の大地には降り立つけどな?)


クロム「この世に、重力がある限り。この世に、無重力がある限り。人は光よりも速く動いてはならないんです」


キジ(なんで)


クロム「……っ~」(面倒臭くなってきた)


キジ(おい、待て。そんな顔するな)


クロム「もっと簡単に言いますね。バカにもわかるように!」


キジ(おい。言葉の暴力が凄まじいぞ!)


クロム「ケテラスでも、地球でも。まあ、環境が整った今となっては、水星でも構いません。人が生活をしている場所で、……えーと、例えば、ですよ。今キジが石を手に持っていたとして」


キジ(うん)


クロム「地面から1メートル以上はありますよね? 手を離すとどうなります?」


キジ(石が落ちるなぁ)


クロム「そう。地面に落ちる。重力があるからです」


キジ(うん)


クロム「もっと重たい石だったら、もっと速く落下しますよね」


キジ(そうだな)


クロム「そして地面に当たる衝撃も、大きくなります」


キジ(うんうん)


クロム「生身の人間が光よりも速い速度で、月から冥王星までジャンプすると。まず、その速度のせいで。どんな宇宙服を着ていようが、身体が潰れて死にます」


キジ(ええええええっ!?)


クロム「それと同時に、因果律崩壊が起きて。宇宙の秩序が乱れてブラックホールが発生して飲み込まれ。死にます」


キジ(ひゃあああああああ)


クロム「後、出発した時点で、光よりも速いエネルギーの衝撃により目玉と内蔵が体内から飛び出て死にます」


キジ(なんとか死なずに3分で行きてえんだよ!)


クロム「だから無理言うてるじゃないですか話聞いてください! カップ麺じゃないんだから!」


キジ(じゃあじゃあ頑丈ですげえ宇宙服を、お前が作れ!)


クロム「なんでですか! 私は開発者じゃないんですよ!」


キジ(ブラックホールとやらを、ブチ壊しゃあいいんだな!?)


クロム「目に見えないものをどうやって壊すんですか!?」


キジ(なんとかしろよ!)


クロム「なんともなりませんっ」


キジ(ハァハァ)


クロム「諦めて下さい。キジ。そんな過酷な航海、まずしぐれがついてこれませんよ」


キジ(じゃあしぐれを置いてお前を連れて行く!)


クロム「しぐれは貴方の船のメインプロセッサコアでしょうが!」


キジ(ハッ。そうだったっ。うっかり!)


クロム「流石に、インドランスを一人も連れずに宇宙航海しようとするのは、宇宙連盟に嫌われている地球人ぐらいですよ」


キジ(なんで嫌われてんだ?)


クロム「大昔にケテラスに核兵器を送り込んだからです。風の噂ですけど。ってこの位知っておいて下さいッ!」


キジ(俺は風の噂なんか信じねえっ!)


クロム「はぁ……。疲れた」


キジ(ほんとだよな)


クロム「貴方のせいなんですけどね!」


キジ(で。なんで落ち込んでんの?)


クロム「えっ?」


キジ(風邪か? 医者に診て貰えよ)


クロム「っ。はいはい。貴方よりもいい医者にね!」


キジ(ハッ)


クロム「まったくもう」


キジ(なんでへこんでた?)


クロム「へこんでないです。しつこいな」


キジ(元気出せ)


クロム「キジと話してると余計に疲れます」


キジ(笑いすぎて?)


クロム「怒りすぎて!」


キジ(カカカカ……)


クロム「もう……」


キジ(そんなに気になるか)


クロム「私は……」


キジ(祖国のことが)


クロム「っ!」


キジ(なぁ。クロム姫。俺たち水星人は、何よりも歴史が浅い。月の人間が実験的に移住してまだたった500年だ)


クロム「そうですね。でも、水星の大地や気候、環境は、……。地球の地下生活アンダーグランドライフシステムを全く同じにコピーしたものなのに。人体に与える影響は不可思議なものばかり」


キジ(ああ。人も物も、変わるんだ)


クロム「変わらないものなんて、この世には……」


キジ(無い)


クロム「水星の医学は、本当に凄いと思います。整形技術は、少しやり過ぎな気もしますけれど」(ベッドに腰掛け、眠たそうに。枕を抱き抱え)


キジ(ハハッ。でも、まるで魔法みたいだろ?)


クロム「そうですね。それに、薬という概念を変えたのも、水星人の力だと思います」


キジ(ま、頑張ったのは俺の曾祖父さんだけどなっ)


クロム「沢山の歴史があって、それを宇宙は静かに見詰めてる……。時の流れは、残酷に、癒す……」


キジ(俺は……)


クロム「?」


 キジ、クロムの背後に現れる。


キジ「お前のことだけ、いつも見てるけどな」


クロム「っ? キジ? ……ちょっと。どうやってここに!?」


キジ「地球周辺は、キャギラが多くて厄介だな、っと」


 キジもベッドに腰掛け。クロムに背を向ける。


クロム「幾つも障壁があったはずです! 私しか入ってこれない空間ですよ、ここ」


キジ「まあ。色々あんだよ。金さえありゃあ、この世は大体思うようになる」


クロム「っ……――」


キジ「クロム」


クロム「はい」


キジ「仕事、きついのか?」


クロム「……えーと」


キジ「少し診てやる。うつ伏せな」


クロム「……はい」


 ベッドにうつ伏せになるクロムの背に、両手を当てるキジ。


キジ「ッ!? 背骨が全部曲がってんぞ」(背骨のラインを全て、軽く押して)


クロム「ぐっ!」


キジ「お前姿勢悪過ぎ!」


クロム「っ!」


キジ「顎引け」

クロム「うっ」

キジ「両手は真横!」

クロム「うあっ」

キジ「面倒臭えっ! 服脱げ!」

クロム「ひゃっ!」

キジ「良くこんなんなるまでほっとくなあ!」

クロム「あ、あのう。いつも言ってますけど私」


キジ「はやく脱げ!! いいかクロム・ロワーツ。お前自分の身体が誰のもんかわかってねえのか俺のもんだ!!」


 無理やり脱がし。再びうつ伏せにさせ。クロムの背中と腕の施術をするキジ。遠くでジョーカーの怒り声が聞こえた気がした、クロム。


クロム「賊っぽい……っ。っ……痛いっ。そこ、痛いっ」


キジ「40代の身体だぞこりゃ……安定の45だな」


クロム「ぐう……っ」


キジ「毎回毎回酷使しやがって……」


クロム「うるさい、ですっ」


キジ「ちゃんとストレッチしろよ」


クロム「20秒以上ものばせません」


キジ「頑張れ」


クロム「うっ」


キジ「俺と結婚すれば、毎日こうしてケアしてやれるぜ?」


クロム「……」


キジ「嬉しい特典だろ?」


クロム「そうですね」


キジ「薄い反応だな」


クロム「好きになれたら楽なんでしょうけど」


キジ「手厳しいな」


クロム「ふふ」


キジ「ああっ、もお! どこもかしこも筋肉かた過ぎ! オラッ!」


クロム「ぐうっ!!?」


キジ「肩凝りはなんとかなるが、下腹部のやつはやっぱこりゃ時間かかるな……」


クロム「駆動が悪くて……」


キジ「だろうな! 何したって三日で悪く元に戻る身体じゃもうほんと、毎日誰かにやって貰えよ!」


クロム「そんな心優しい人居ませんって!」


キジ「じゃあ毎日ちゃんと整体通え!」


クロム「そんなにお金持ってませんっ」


キジ「じゃあ俺と結婚しろ!!」


クロム「いっイヤですっ」


キジ「強情だな」


クロム「貴方こそ」


キジ「肩甲骨指入んねええ!! ふざけてんのか!!」


クロム「ぎゃあっ」


キジ「肋骨も詰まってんな……」


クロム「はぁはぁ」


キジ「覚悟しろよ」


クロム「痛いのはイヤです……」


キジ「自分のことも守れない人間が、誰かの心配すんなよな」


クロム「……それ、自分に言ってます?」


キジ「お前にだよ!」


クロム「ふふふっ。あたたっ、そこ、痛いっ!」


キジ「ここは普通凝らねえから!」


クロム「えっ。そうなんですか?」


キジ「どんだけ力んだ生活してんだよ」


クロム「うぅ」


キジ「横っ腹も押すぞ」


クロム「ひゃっくっくすぐったっ」


キジ「!? こんなにガチガチの腹しててくすぐったいだ!? お前、神経系統がマヒしてんぞ!」


クロム「そ、そんな。インドランスじゃないんですから。あたっ」


キジ「人間でもありえることだ!」


クロム「へぇ」


キジ「自分に興味なさすぎ」


クロム「どうだっていいんですよ。自分なんて。二の次三の次、で」


キジ「困るな」


クロム「……すみません」


キジ「俺の花嫁がそんなんじゃ」


クロム「しませんよ」


キジ「じゃあ誰が好きなのか言ってみろ」


クロム「っ――!」


 何故が、ジョーカーの背が浮かぶ。


キジ「ん、ダルダディアじゃねえのか?」


クロム「う、うるさい、ですっ。どいて下さいっ! もういいですからっ」


キジ「運動出来ないなら、せめてもっと休息取りながら筋トレしろ」


クロム「はい」


キジ「返事だけ」


クロム「はいっ」


キジ「ったく」


クロム「……急に眠気が……」


キジ「ぁあ? 寝てろ寝てろっ。起きてちゃお前、指圧するとこ全部、力んでばっかでしょうがねえ!」


クロム「そう、ですか……」(寝入る)


キジ「ほんとに寝やがった」


クロム「すぅ、すぅ……」


キジ「ったく。無防備なんだよ」


クロム「……っ……」


キジ「……クロム……」


 キスをしようとする。


クロム「……」


 知らない音がする。


キジ「ん? なんだ、メール?」


 クロムの枕元、電子掲示板が青く光る。


キジ「げっ。ジョーカー!? 何なに……? “さっきは悪かった”……なんだよ、これだけ?」


クロム「……ん」


キジ「っ。落ち込む原因、コレか。あーあ」


 眠っているクロムの横に座り。煙草を吸う。


クロム「……すぅすぅ」


キジ「ったく。まさかできてねえよな?」


クロム「……」


キジ「ふぅ……」


クロム「……ん」


キジ「クロム……」


 キジがクロムの髪を撫で。抱き締めようとした瞬間。自分の胸が青く光り輝く。


キジ「ッ!? ……あい、もしもし?」


 通信を受ける。


キジ「ああ? っ! わあったわあった! すぐ戻るっ! じゃあなっ! クソッ!」


クロム「にゃ……キジ……? どうかしました……?」


キジ「俺帰るわ」


クロム「えっ。あ、はい。施術、ありがとうございました」


キジ「ちゃんと湯船入れよ」


 クロムを撫でる。


クロム「はい」


キジ「約束しろ」


クロム「はい」


キジ「こないだ教えたストレッチもしろ!」


クロム「あい」


キジ「呼吸が浅ぇんだよなぁ……」


クロム「きゅ、きゅうそくお、と、とり」


キジ「ます?」


クロム「ます……」


キジ「おうっ! …………っちゅ!」(クロムのほっぺにキスをする)


クロム「っ!?」


キジ「ひひっ。じゃーなっ!」


クロム「は、はぃ」


キジ「今度はもっと時間取って会いに来てやるから。な?」


クロム「別に来て下さらなくって、結構です」


キジ「はあ?」


クロム「お忙しいのに。私になんか……会いに来なくて、別に」


キジ「俺が好きなんだからっ。いーんだよっ! じゃなっ!」


クロム「あっ。まっ待ってっ! ねえ、どうしてキジは……っ!」


キジ「あン?」


クロム「どうして、私をクロムと呼ぶんです? 昔から」


キジ「はぁ? お前はクロムだろ? いい名じゃねえか。あのダルダディアと、くそジョーカーがつけた、お前の名前だ! 名無しの姫じゃ、俺の嫁として締まらねーぜ! っ。じゃーなっ! 俺のクロム・ロワーツ!」


 宇宙船に乗り込み。帰っていくキジ。


クロム「……勝手な人ばっかり。……ん? なにこれ?」


 手紙のようなものが残されていて。


キジ『追伸! 俺がいつも吸ってる、人体の腎にいい影響を与える煙草だ。俺だと思って吸っとけ! 喉にもイーゾ!』


クロム「たばこか……。これ、あっ。キャラメルの匂い……。キジの香りって、これだったのね。これって確か、すっごく高いやつ」


 煙草に火を点け、吸ってみる。


クロム「すぅ……………………。ウッ! ごほっごほっ!」






えんど!

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