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王子様の宝物

作者: 紫苑 鎌鼬

昔々あるところに、剣使いの王子様がいました。

王子は剣の才能があっていつも魔物を一人で倒します。


王子は“自分にできないことはない”と思っていました。

誰かに手伝ってもらうことすら邪魔に思うのです。

自分のほうが早くできるとーー。


「ヤーー!」


すらっとした高い木の枝に吊るされているいくつもの丸太を

刃の無い側で叩きつけて、襲いにかかる丸太を軽々とよけ払う。


「みえた!」


目が丸太の中心線を捉えた。


刃のある側の切っ先を勢いよく振り上げ、

ザンッと凪いだ。


パカッーーカタン、カタンッ


綺麗な切り口を見せて両断された丸太が地に落ちる。


「よしっいい出来だ」


そうやっていつものように剣の稽古に励んでいると


「ねえ、王子様ー、一緒にやろうよっ」


と、数人の騎士の子供が誘いをかけてきた。

王子と同じ年頃の男の子だった。


け・れ・ど


「イヤだね、僕は一人でやるんだ!」

そうとわかったらあっちへ行けっ


と、王子は人を寄せ付けませんでした。

何故かって?それは王子が一人のほうが楽だと思っているからです。


「ちぇっーいいよ、わかったよぉー

どうせ王子様は一人丸太相手に頑張ってればいいよ~だっ」


王子が追い払った騎士の子供達はそう嫌味ったらしく言葉を投げて

去っていきました。


王子から遠く離れた場所で、剣を片手に話しながら稽古をし始めるのです。


ちらちらと王子を見ながらひそひそと話す子供達。

王子はそれを横目に見てなんだかイライラしてきました。


「きっとあいつら、僕一人で強くなれないと思っているだ!

僕だって今のままで強いし魔物だって一人で倒せるんだぞ!

なのにバカにしやがって!!」


と地団太を踏んで呟き、プンプン怒ってお城の門に向かいました。

その途中、ちょうど門付近で、


「王子様ー、どこ行くの?」


と、幼馴染の魔女の子が声をかけてきました。


紫のローブに、黒星一つ付いてる紫のトンガリ帽子、蒼い髪に深緑の瞳・・。

そして魔法の杖を片手に持っています。


いかにも魔女らしい格好をした魔女の子でした。


「魔物退治に行くんだっ

けど、お前なんてつれていかないからなっ!」


イライラした口調で王子はそう宣言します。

魔女の子は、何故か小さい頃からずっと王子と一緒に行動したがるのです。

正直、邪魔としか王子は思っていませんでした。


「えーっっ私もつれていってよぉー!」


即座に断わられた魔女の子は案の定、駄々をこねてお願いをします。


このお願いに頷いたら、

なんのために魔物退治に行くのか分からなくなるのは明白でした。


「イヤだっていってるだろ!僕は一人でいく!!」


王子は苛立っていることも隠さず怒鳴り散らします。


そうやって魔女の子を振り切って

そのまま城から出ようとしたとき、


「王子よ、今日は魔女の子と共に行くのだ」


と背後から言われました。

すぐに振り返って声の主を確認するとーーー


「お父様!?」「王様!」


王子は驚きました。

この国の王様・・つまり王子の父親が現れたのです。


「命令だ。森の奥に我が宝を隠してある。

それを守る魔物を倒しお前の宝を手に入れてくるのだ」


王様は言いました。

言っていることは何か矛盾しているような気がしないでもないけれど、

その前に言われた“魔女の子と共に”が王子はどうも頭の中でひっかかります。


「宝・・?僕一人でできます、お父様!」


王子は訴えました。

魔女がいたら邪魔なんだ、一人で強くなれないーーっっ


一人でできることを証明したいのに。


それを訴えても、王様は聞いてくれませんでした。


「王子よ、命令だと言ったであろう?

お前はおろかだな。大事なものをまだ知らぬのだから。」


王様の言っていることは王子にはまだ理解できませんでした。

おろか?僕が?大事なもの??強さじゃないのか??


「今日だけでいい、二人で行ってくるのだ!!」


言い訳は聞かぬとそう告げて王様は、王子と魔女の子に命令しました。



一人でできるのにーーーそう内心不満で王子様はいました。

忌々しげに隣を見れば、


「王様が理解あるやさしい人でよかったぁー」


なんて言葉をほんわかにしながら紡いでる。


理解あるやさしい人??あの命令ばっかのお父様が??


王子は全くもって理解できていませんでした。


納得のいかない王子はそれでも

しぶしぶ森の奥に魔女の子と向かいました。


城から森はすぐ見えるところにありました。

意外と近くにあったのです。

これならお父様もお仕事の合間に宝を隠すことも簡単かもと思いました。


たくさんの大小さまざまな木々に囲まれた森。

その奥にズカズカ進んでいくと、


すぐに魔物が現れました。


「お前達!ここへ何しに来たっオレっちは宝を守る番人なりっ!

そうとわかったら 出てけーっ!!」


目の前に立ちはだかり名乗りを上げたのは、バチバチと燃え盛る火の魔物でした。


緑に包む木々に少しでもあたれば

すぐに大火事になるほどの大きさです。


どうやらその火の魔物は王子の探す宝を守っているようでした。

うっすらと宝箱が火の魔物の中に見える。


王子は


「お前が魔物だなっ僕が相手だ!!」


と、立ち向かい、剣を構えて声を上げました。

そして


「お前は手を出すなよっ僕一人でできるんだからなっ」

と魔女の子を制して


「ヤーー!!」


と勢いよく剣を振り上げました。


「--王子様っっ」


魔女が心配そうに呼びかける声が王子の耳に届いたけれど、


「魔物、勝負だーーっ!」


とかまわずにそのまま剣で魔物を切りつけました。


ビュンーーーッーースカッ


「え・・?」


火の魔物は剣をよけませんでした。

それもそうです。剣はそのまま火を通り抜けてしまったのです。


王子の剣はなにも手ごたえがつかめませんでした。


「な、なにっ!?なんでーー」

なんで剣がーー他の魔物はいつも倒せるのに、なんでーー


剣は、魔物を滅びに導く破邪の剣。

大抵の魔物は一凪ぎすれば一刀両断できる代物でした。


しかしこの火の魔物には全く効いてないようでした。

火は遠慮を知らずにバチバチと火花を散らします。


「フンッそんな鈍ら刀じゃ、オレっちはびくともしないよっ」


王子の動揺に火の魔物は不敵に笑っています。


「そ、そんな、--僕の剣が効かないなんてーー」


王子は衝撃を受けました。

これまで負けたことなんて一切無い王子。

一人でできたはずなのにーーそう思っていた王子は窮地に陥りました。


こいつにはーーこの剣じゃーー・・っっ


そんな時、それを見かねた魔女の子が


「王子様、火はただの剣(・・・・)じゃ効かないみたい。

火だからーー、水がっ、・・水に弱いはず!!」


そう考えたことを言い出しました。


「そ、そうかっけどーー」

けど、僕は魔法は使えないーー、水なんて出せないーー。


王子はきゅっと唇をかみ締めました。

剣を持つ手が震えます。


「私がかけるよ!」


魔女の子は笑顔で何のためらいも無く言いました。


「!」


王子が何する暇もなく


「天の恵みである水よ、かの剣に水の加護をーー!」


と呪文を唱えて魔法を剣にかけてくれました。


すると、スシャァアアアーーーーと

青い水のように透き通った光が剣を包み、輝きはじめました。


剣の周囲が火に打ち勝って、ひんやりと冷たくなり、

水しぶきが立ちます。


「これならーーっ」


王子はこれなら勝てると自信が持てました。

さっきまでの絶望していた心に光が差します。


火の魔物の中にある宝箱でさえも、すぐ取れるような気がしました。


火に剣を構えると、


「オレっち、水は・・っっ」


と、逃げて距離をとろうと火が逃げ出しました。


「待てーーっ」


王子は走り、ダンッと地面を蹴ってジャンプしました。

そのまま、火の走る向こうに着地し、振り向きざまに


ザシュッッーーーシュワアアアアーーー


剣を振り下ろし、切り付けました。

すると、剣を覆う水が火の魔物を貫き、火と相殺して消えていきます。


「うぁああああああ”」


火も悲鳴を上げて

だんだんと小さくなっていきました。


そして、そのまま宝を置いてひゅーーと逃げていきました。



「ーーや、やった!勝てた!!」

「わーすごいっやったね、王子様っ!」


王子と魔女の子は喜びを分かち合いました。

そして宝箱に駆け寄ります。


宝箱を開けると、その中にはーー


「「・・手紙?」」


そこにはただ一通の手紙が入っていました。

それを手にした王子は、まじまじと手紙を見つめて封を開けます。


その手紙はなんども開けたかのように、すんなり封を開けられました。


手紙の封筒の中にあった紙には、ただ一文


『お前の宝は、お前のすぐそばに。』


と、書かれているだけでした。


思わず王子はすぐそばにいる魔女をみると、


「っ」「--っ」


ふと目が合って、ドキッとしました。


魔女の子が・・こいつが、宝??


王子はまだドキドキする鼓動に狼狽しながら

赤面して考えます。


・・そういえば、さっき、

自分ひとりでは倒すことも追い返すこともできなかった魔物を

一緒に追い返す手伝いをしてくれた。


一人では無理だったことだ。


自分にできなかったことを彼女の協力を得てできるようになったーー。


じゃあ、宝って、--仲間??


そう思い至ったとき、


「ねえ、王子様っ、これから

お稽古も、魔物退治も一緒にやっていい?」


と、魔女が王子を伺いながら聞いてきた。


「!」


王子はそれを聞いて確信を持ちました。


ーーお父様、僕はやはりおろかだったようです。

やっと、みつけました、僕の宝物ーー。


心の中で僕は、今までの自分は間違っていたのだと悟った。


「うん、一緒にやろう!!」


王子は魔女の誘いに笑顔で頷きました。


そして、王子を変えた王の宝物(手紙)を持って城に帰りました。


その後、他の騎士の子供達も誘って剣の稽古にはげみましたとさ。



のちに王子が聞いたことだが、昔 王も王子と同じ考えでいたらしく、

先代の王が、破邪の剣が効かない魔物と契約を交わして

王も、間違いを正され、真の宝物をみつけた という。



・・数十年後の未来に、王子の隣にいる者が

王子の宝物であることを、ひそかに王は願うのだった。



終わり


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