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物語の背景 その3・・・および 登場人物(第三部)一覧

ここまでお読みいただきありがとうございます。


第二部でインカの時代の物語は終わりです。


ここで、記録書(クロニカ)に記されている

カパック・ユパンキという人物とその周囲の人々について

解説したいと思います。

クロニカについては、(その1)で解説していますので、ご覧ください。





1、巧みな征服者カパック


その1で書いたとおり、カパック・ユパンキという人物は、

(一部クロニカには、リョケ・ユパンキと記される)

当時の皇帝パチャクティのきょうだいであり、

まだ多くの大国に囲まれていたタワンティン・スーユ(インカ)を発展させるために

皇帝から各地の征服を命じられた将軍です。


西海岸に古くから存在した『チンチャ王国』。

将軍カパックはこの国の征服に乗り出します。

しかしその方法は、彼らから力づくで何かを奪うのではなく、

自身の国から持ってきた贈り物を与えて交渉することでした。

このことに好感を持ったチンチャの首長は快くインカと契約を結び、

その土地にインカの行政機関を作ることを承諾し、

そこで働く男女の労働力を差し出します。


やがて、かつて皇帝がチャンカ族から奪った土地に赴き、

アンコワリョ(アンコアヨ)という長が率いるチャンカの残党を従えます。


チャンカを従えた将軍は、

今度は、まだ未知の世界だった北方へと遠征していきます。


北の部族に対してもチンチャと同じようにクスコからの贈り物を送り、

友好関係を結ぶ提案をするのですが、

部族によってその反応は様々で、ときには激しく抵抗する部族もいました。

そうすると、今度は強大な軍事力を使って、徹底的に攻撃しました。


飴とむちの政策でこの将軍が手に入れた土地は北方の広範囲に及びました。

この遠征によってインカの同盟者は北にも増えていき、

やがて北西の海岸地帯に勢力を誇る大国ティムーや、

北方のいくつかの部族が集まって成り立つクイスマング(グスマンゴ)などに脅威を与えます。


この物語では逆にスーユの領土に侵入しようとする北方軍を食い止める戦いとしましたが、

実際には勢いをつけたインカ軍に恐れをなして北方軍が団結して兵を挙げたのでした。


結果は、カパック将軍の率いるインカ軍の圧勝でした。

ティムーの征服まではならなかったものの、

ティムーの王は傷を負って国に逃げ帰ります。


しかし、この結果が思わぬ悲劇を招きます。


あまりにもカパック将軍の戦績が良いことで、

逆にクスコの貴族たちはカパックの有能さを危惧します。

カパックがクスコに戻れば、彼らの地位を脅かすかもしれないと恐れ、

言いがかりをつけて彼に罪を着せます。


実は、この遠征の途中でチャンカ族が東の熱帯雨林に逃走を図りました。


そのことを持ち出し、

チャンカ族を逃した罪は大きいとして、

カパックと、彼とともに軍を率いていたワイナを

クスコで処刑するという判決を下したのです。


こうしてカパック・ユパンキという人物は、有能であったがために

身内によって滅ぼされるという哀しい運命を迎えたのです。


この跡を継いでティムーを征服したのが、トゥパック・インカ・ユパンキ。

パチャクティの次の皇帝になる人です。

トゥパックについては、カパックと一緒に遠征したという記録も一部にあります。






2、アンコワリョと黄金郷(エルドラド)


インカといえば、黄金の国。

インカ帝国を征服し、

最後の皇帝の保釈金として国中の黄金を集めさせたスペインの征服者たちは、

そのほとんどを金塊にして本国に送ってしまいました。


それでもなお、インカには黄金が眠っていると信じた征服者たちは、

新たに黄金都市(エルドラド)を求めて探検します。


その都市はアマゾンにあると信じられていました。


そこでスペイン人が目を付けたのが、

カパック将軍の軍から離脱したとされるチャンカの武将アンコワリョの伝説。

アンコワリョとチャンカ人は軍を離脱してアマゾンに逃げ、

そこで彼らだけの都市を築いたのではないかと考えたのです。


インカの黄金細工が発展したのは、

ティムーを征服した後のこと。

もともと黄金細工の優れた職人を多数抱えていたのはティムーでした。

ティムーを手に入れたことにより

多くの職人たちがクスコに連れてこられ、

クスコが黄金の街になったのです。


では、ティムーとの戦いの前に離脱したアンコワリョが

大量の黄金を持っているはずはない。

あるいは、アマゾンで新たな金鉱を発見しそこに都市を築いたと考えたのか。


当時のスペインの征服者たちは、理想郷を追い求めるあまり

現地の語り部から得たほんの些細な歴史の一説にも

手がかりを見出そうと躍起になっていたのでしょう。


しかし、そのスペイン人たちの執念が、

この悲劇の将軍の記録を残すきっかけになったのかもしれません。





クロニカの一部はこうした情報操作の道具にも使われました。

もちろん、インカの末裔が純粋にインカの歴史を伝えようと書いたものも多くあります。

そういった物の中にも、どの皇族の系統か、どの地方の出身かということで

伝えられる伝承に大きな違いがあり、記録が大きく異なっていることもあります。


クロニカは、それを書き留めた人物の背景などによって

ある部分が誇張されたり、歪められたり

理想や空想が盛り込まれてしまったりして

いくつも違った説が出来上がってしまったのです。


しかし、もしかしたら多くの一般的な歴史書にも

こうした背景が存在するのかもしれない。

歴史書がその記録者の文学作品のひとつだと考えれば

そこに思想や空想を盛り込んでいたとしても不思議はないわけです。



この物語はこれらのクロニカの記録を参考にしたファンタジーで、

その時間的経緯や人物の描き方は歴史に忠実ではありません。

しかし多くの説が存在するインカの歴史には、

もしかしたらこんな見方もできるのかもしれないな・・・。

そんな風に思って書いたものです。





その他のエピソード・・・



3、エルニーニョで滅びる街


南米の太平洋沖で海水温が上昇することでおきるエルニーニョ現象。

この現象は現在でも世界中に異常気象を巻き起こします。

ティムーの遺跡調査からは、

この国が周期的に津波や洪水の被害を受けていたことが分かってきています。

この物語の時代、15世紀にエルニーニョによる気象異常があったという記録はありませんが、

広範囲に及ぶ災害・・というのは、

エルニーニョの影響を最も受けやすいこの地域ではあり得ることです。

ティムーはそのたびに街を再建し、何世紀にも渡って繁栄してきたのでした。






4、パチャクティの別荘 マチュピチュ


物語の最後に出てきた『風の宮殿』はマチュピチュを表現したものです。


1911年にアメリカの考古学者ビンガムによって発見されたマチュピチュ遺跡は

発見後しばらくの間、スペインに抵抗したインカ軍の最後の要塞ではないかと考えられていました。


しかし最近になって、ここがパチャクティ皇帝の別邸であったというのが有力な説になりました。


マチュピチュにはパチャクティの時代、15世紀と、

それ以前、7世紀にも人が暮らしていたということが分かっています。

ここがインカの人々には、古い時代より聖地として知られていて、

そこを整備し、崇めるようにしたのがパチャクティであった。

とも考えられるかもしれません。


いずれにしても、この場所に

今も多くの人々を魅了するような荘厳な街を築き、

巡礼の目的か、避暑地なのかは分かりませんが、

この地と都を盛んに行き来していたのは、パチャクティ皇帝であり、

彼の死後もここはパチャクティの私有地であったようです。


マチュピチュに限らず、インカには高い山の上にある空中宮殿のような遺跡が

数多く存在します。


山とともに生きる部族が、

そこで生活するための知恵と努力を結集して築いた遺跡は

現代の人間の想像を絶するものがあります。


遠征先でカパックが築いていく畑や建造物は

自然を征する戦いの成果。

そんな風に解釈していただけたら・・と思います。




*************************


第三部・・・登場人物


花岡(はなおか) 小町(こまち) 


高校一年生。バスケ部で活躍する明るく活発な女の子。

しかし、毎晩おかしな夢に悩まされ、現実の生活にも影響が。

寝不足で練習中に足を捻挫。

転校生、宮由隆に何か不思議なものを感じて意識し始めるが、

評判の良くない由隆に警戒心もある。

足を痛めたまま参加してしまった合宿の登山中に

沢に転落してしまい、そのまま意識が途切れる。



(みや) 由隆(ゆたか)


奄美列島出身。

鹿児島の高校に進学してラグビー部に入り

才能を発揮し始めたとき、心臓の病気が分かり部活を続けられなくなる。

学校を辞め、自暴自棄に陥っていたときに、

姉の勧めで仕方なく東京に転校。

しかし、誰とも打ち解けようとせず、孤立。

ある事件で唯一味方をしてくれた小町には少し心を開く。

合宿の登山中、前を歩いていた小町が転落した事に気付き

それを追って自分も谷底へ。

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