風になって(1)
カパックとともに切り拓いてきた道を、クッチたち四人は今、縛られてクスコへと向かっている。踏みしめる度、北方の未知の世界への期待と不安を抱きながら一歩一歩進んでいた日々を思い起こしていた。
クスコに到着し、すでに捕らえられていたアリン・ウマヨックとアティパイに牢で再会した。四人が牢に入れられると、アリン・ウマヨックは急いで駆け寄って訊いた。
「カパックさまは?」
四人は一斉にうつむいて泣き始めた。
「なんということだ」
アリン・ウマヨックもアティパイも、四人の答えを察して泣き出した。
裁判が終えるまで、六人はひたすらカパックのことについて話し合っていた。
「あの方は一体、何のためにこの使命に従ったのだろう」
「なぜこんな運命を迎えなければいけなかったのだろう」
話せば話すほどやりきれない思いがこみ上げて涙した。
答えの出ない虚しい日々が続いた。
そして彼らの気持ちに追い討ちをかけるように、六人に処刑の判決が出たのだ。六人はほとんど口を開かなくなっていた。
しかしある晩、アリン・ウマヨックがフッと顔を上げ、
「今、ようやくわかったぞ」
と声を張り上げた。
虚ろな顔で死人のように床に横たわっていた五人は、驚いて一斉に体を起こした。
「チャンカの呪術師キータの言葉が、今ようやく理解できた」
キータがカパックに告げた言葉を傍で聞いていたのはアリン・ウマヨックだけだった。
「キータは言った。人の世には必ず終わりが来る。その時までに果たす使命はひとそれぞれ。しかしカパックさまの果たす使命は果てしなく大きい……。
カパックさまの終わり方はあまりにも悲劇的だったが、カパックさまが歩かれた、南方にも、北方にも、救われた多くの民がいて、スーユの礎となる道や建物ができているではないか!」
「なるほど。普通の人が一生かかっても成し遂げられない仕事を短い生涯の中で成し遂げられたのだな?」
「我々はその偉大な仕事を手伝った!」
「おう! そうだ! もう何も思い残す事はないぞ!」
六人は笑顔で頷き合った。処刑を前にした者たちにも関わらず、彼らの気持ちは晴れ渡った空のように耀いた。
六人の処刑が行われる日、クスコの街の広場には大勢の市民が集まっていた。
(クスコを滅ぼす雷の化身カパックとその仲間たちの処刑)ということで、市民たちは口汚く六人を罵った。これでやっとクスコに平和が戻ると喜ぶ市民さえもいた。
処刑台に上がる時、アリン・ウマヨックは死刑執行人に民衆の前で少し話をさせてくれないかと頼んだ。執行人が皇帝に伺いを立てに行くと、皇帝はそれを赦した。
処刑台に六人が揃って並び、アリン・ウマヨックが一歩前へ進み出て市民に声をかけた。
「クスコの市民に知っておいてもらいたいことがある!」
それまで「裏切り者!」などと野次をとばして騒いでいた民衆が、さっと鎮まり返った。
「確かに、カパック・ユパンキさまが雷神の祝福を受けたことを、私はこの目で見て知っている。
しかし、雷は太陽神と大地の女神が生み出すもの。カパックさまはその使命を立派に果たされた。決して太陽神に背いたわけでなく、太陽の片腕となって活躍された。
カパック・ユパンキさまの行いは長い時間ののち、必ずやこのスーユに繁栄をもたらそう!
どうか、わがスーユの英雄としてその名をとどめておいてほしい!」
アリン・ウマヨックは話し終えると一歩下がり、仲間と肩を揃えた。そして六人は互いに見合っては笑みを浮かべていたのだ。
民衆は皆、その不思議な光景に心を奪われ、それ以降騒ぐ者はいなかった。