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はじまりの夢(2) ~小町~  



 バスケ部の朝練が今まさにはじまろうというときに、私は体育館に滑り込んだ。

 遅刻しかけた新入生に先輩たちは厳しい。心なしか私にパスを回す数が多いようだ。ヘナヘナと走り回る新入生にはさらに鋭いパスが回ってくる。よく眠れなかったことで頭はいつまでももやがかかっているようだ。体も鉛のよう。

 そして練習の終わり近く、ドリブルをしようと足を踏み込んだ瞬間、スッと目の前が真っ暗になった。


 気がついたときは、保健室のベッドの上だった。


「気が付いた? 気分はどう?」


 養護の先生が近づいてきて体温計を私の脇に差し込むと、私のまぶたを指でひっくり返したり、下まぶたを押したりして言った。


「花岡さん、朝食ちゃんと摂ってる? 少し貧血起こしているわよ」


「いえ、いつも起きるのがギリギリなので……」


 私は小さくなってもごもご言った。


「まあ! ちゃんとご飯は食べなさい!」


 高校生にもなってそんなことを注意されている自分が恥ずかしい。


「先生。もう授業始まっているんですか?」


「そうよ。でも一時間目は休む事にしなさいね」


「でも!」


 動こうとすると左足がズキンと痛んだ。


「痛っ!」


「あれあれ。見せて」


 先生は私の左足をゆっくり動かした。


「痛いー!」


「あらら! 倒れた時に捻挫もしちゃったのね。ますます休んでいなくちゃ」


 湿布を張りながら先生は苦笑いをしていた。



 三時間目の前に足を引きずりながらようやくクラスに戻った。

 が、空席だった隣の席に、今朝のあの男子生徒が座っているではないか。


「小町! 大丈夫なの?」


 仲の良い友達が数人、すかさず気付いて駆け寄ってきた。


「捻挫しちゃった。しばらく部活行けないや。

 それより……誰?」


 私は思わず男子生徒を指差して聞いていた。


「小町ったら! 人を指差さないの!」


 しっかり物のさゆりが、私の手を軽く押さえてたしなめた。


「今日転校してきた(みや) 由隆(ゆたか)君!

 朝自習の時間に紹介があったの。九州から越して来たそうよ。

 制服が間に合わなかったから前の学校のものを着ているんだって。

 宮君、この子、隣の席の花岡小町よ」


 さゆりが話しかけても、彼はまるで他人事のようによそを向いていた。


「宮君!」


 さゆりに大きな声で呼ばれて、彼はやっと面倒そうにこちらを振り返った。


「あの、今朝はどうもありがとう。

 前にどこかで会ったことあるよね?」


「小町、知り合いだったの?」


 さゆりが驚いた声を上げる。


「ええと……。今朝、駅で転んだときに助けてくれたんだけど、

 あたし、その前にもどこかで会った気がして……。ねえ、会ったことない?」


 宮 由隆は、冷たく睨むように私を見て言った。


「いや」


 突然、周りの友達が大声で笑い出した。


「もう、小町ったら! いきなり逆ナン?」


「そんなんじゃないよ!」


 由隆はその騒ぎにうんざりするような表情をして向こうを向いた。私は散々友達にからかわれて、いったいあの懐かしい感じはどこで覚えたものなのか真剣に思い出すことなどできなかった。



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