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裏表の日常

特に無いです。

 達也が目の前でその大きな体を活かしたダンスを踊っているのを無言で無視して、俺はメールのチェックを続ける。朝の教室、疎らな生徒。

「瑠兎、金がねーよー」

「たかってんじゃねぇよ」

 回りだした友人を鬱陶しいと片手で追い払う。他人のバッグを漁りだしたりしないから今日はマシか。

 携帯を閉じて顔を上げてやると、達也は嬉しそうに今朝の新聞の広告欄を指差して笑う。

「SOWが募集を締め切ったってよ。早すぎて応募する暇も無かったぜ」

「三日あったろ」

 欲しいのは一人で夜歩きのできる人間。短期間で決断できないような奴はお呼びじゃないのだ。

「あーあ、いいバイト無いかねー。夜は怖いしなー。お前はどうしてんの?」

「夜だ。そっちの方が割はいい」

 俺のはバイトじゃないけどな。

「そっか、でも昼にしとくか。怖いし」

 それが普通だろう。夜を怖がらなくなったら人として終わってる。文明の灯りで照らせる闇にも限界があるのだ。更に夜には文明が作り出した闇も混ざっている訳で。

 ぼんやりと今朝の銀狼からのメールを思い出した。根っからの殺人鬼であるあいつに、最後にあったのはいつだっただろう。覚えてるのは全てが終わった半年前。それ以降にあいつを見かけた覚えは無い。そう言えば近頃会いに来ると言っていたっけ。

「…………お前何にやにやしてんだよ。気持ち悪いぞ」

「うっさい馬鹿死ね日光に焼かれて蒸発しろ」

「何でそこまでディスられなきゃいけないんだよ」

 息を吐いて前髪の位置を調節する。蛍光灯の光に顔をしかめて目を細めながら携帯を閉じた。

 ちらほらと教室に入ってくるクラスメートを横目に達也が開いているバイト雑誌を覗いてみた。スーパーのアルバイトから警備員の臨時アルバイト、研究所の人員募集まで様々だ。

 若干違法なものも混じっているが、特区指定のこの辺りなら大概の事は許されてしまう。その代わりナイトウォーカー共の所為にされて殺される可能性もある。警察が取り締まれるのは昼の犯罪(こと)だけで夜には手出し出来ない。それは半年前から変わらない事実だ。その辺りが関係してか、犯罪者共にはここが天国に見えるらしい。と言っても、ここらを仕切っていたヤーさん達は奴らの掃討に全力だし、チンピラ共は安寧の場所を求めて逃げたした。ガチ犯罪者は淘汰されるし、生きる力の無い奴も淘汰される。

 隔離の為の壁の中での事は外の人には分からない。中に住んでいる人は外には三日間の条件付きでしか出られない。ここは天国なんかじゃ到底なくて、ただのありふれた地獄だ。

「…………っていうかさ、いつになったら政府はここを封鎖するんだ? いい加減人も減ってるじゃん。“早急な対応”はどこに行ったんだよ」

 半年前の大封鎖の時に自衛隊を投入してナイトウォーカー(奴ら)を掃討するという話が出たのだが、左翼団体からの反発に合い、隔離地域の人の救出もままならなかった。よって、壁と検問所を建てて奴らはそのままに普段の生活を続けることになった。その左翼団体が未だにナイトウォーカー(奴ら)の人権がどうとか治療がとか言っていて、政府も思うように政策が立てられないらしい。

「どうせしないさ、やらない内に取り返しがつかなくなってどうにもできなくなるんだ」

「やっぱだよな、そうだよな。夜逃げもできねーしどうすりゃいーのかね」

 達也は雑誌を閉じてため息を吐いた。確か、達也の家は四人家族だ。親の収入が足りない訳ではないが貯金はしておくべきだというのが持論らしく、バイトをいくつか掛け持ちして稼いでいる。死んだら金も何もないので夜は家に引きこもっているという。

 いつの間にか机の横にセーラー服が立っていた。いや女子生徒か。上履きの色は俺のと同じ、同学年だ。

「川原君、ちょっといいかな?」

 無邪気な笑顔、肩までのショートカット、アクセサリーをじゃらじゃら着けたりキツい匂いもさせていない地味目な格好とは裏腹に爪を綺麗にしておく程度には身嗜みを整えておくことでの女子力アピール。制服の襟につけた白い犬のバッジが可愛い。どちらかというと好みのタイプ、何て言って。

「あんた誰だ」

「いやいや瑠兎、武内さんだろうが。知らないってこたねーだろ」

 見えなかっただけだと言い訳して、にっこりと笑う武内を見る。成る程、昨夜とは少し雰囲気が違うな。と、言っても、昨夜彼女を注視していた訳でもないが。

「昨日の事なんだけど…………」

「昨日? 俺昨日武内さんに会ったっけ?」

 惚けてみせると、あからさまに妙な顔をする。だが残念ながら夜に出歩いているのは“SOWのラビ”であって“川原瑠兎”ではないのだ。武内の訝しげな視線を振り切って、大きく欠伸をする。

「んー、まあ用事なら後にしてくれ。今凄く眠い」

 机に突っ伏す。今朝は馬鹿兄貴の所為で安眠が妨害だったので演技抜きに眠い。

「お前、寝てるか携帯弄ってるかしかしないんで先生方が泣いてたぞ。目付き悪いから注意もできねーし」

 先生達が俺に注意しないのは目付きが悪いからではない。が、それを言っても仕方は無いので適当に同意して目を瞑る。とりあえずは二時間目まで寝よう。


 ―


 四時間目が体育だったので、俺はしたくもない運動をさせられる。体育の教師はむかつく事に俺みたいなインドアタイプを苛めるのが好きだ。うざい。

「ん? 川原、お前次の授業までに髪切ってこいっつったよな? そのくそ長い髪切れば前が良く見えるだろうよ」

 軽く小突かれる。体罰になるとまずいので本当に軽く、だ。事情を知らない奴らから見れば、俺は陰険な引き篭りじみた根暗野郎だ。それが災いしてか不良とかに良く絡まれる。まあ、インドアでも陰険でも引き篭りでもない俺はさらっとやっつけるんだが。根暗は否定しない。

「次は切ってこいよー? おい、返事はどうした?」

 無視。良いから授業しろよ。思いっきり睨むと流石に怯んだようだ。ぼそぼそと文句を言いながら授業を始める。

 体を動かすのは嫌いじゃないが体育はつまらない。バスケットボールのドリブル音が館内に響いて、頭を内側から叩いているような騒音になる。うるせえ。

 苛々してるのに試合なんてやってられるか。っと、落ち着かないと。今は瑠兎なんだった。

「瑠兎!」

 パスが回される。ボールを手に辺りを見回すと、なんと今の位置からゴールまではがらがらだった。これは入れれば良いのか。全速力の半分位でドリブルしながら走って、ダンクシュート。背は高くないけどジャンプ力に自信はあるのだ。

 どや顔でチームメイトを振り返ると、何故か呆然とこちらを見ていた。俺何かしたっけか。そう首を傾げていると、達也に肩を叩かれた。

「瑠兎、ポストより高く跳ぶのはダンクシュートって言わねえよ」

「跳んじゃ駄目なのか?」

「じゃなくて高く跳びすぎて皆驚いてんだよ」

 体育教師の方を見ると馬鹿みたいに大口を開けていた。様を見さらせ。



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