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3.目覚不

 白騎士はそれから5日経っても目覚めていない。


 森の中の家で付きっ切りで看病しているノシターは栄養がどうとか、いっそ誰だかに連絡を取ってどこだかに行って”てんてき”というものを調達してこようか、などとぶつぶつ言いながら、床ずれを防ぐために何度も白騎士の体を動かしていた。

 しかし、ノシターが危惧したよりもずっと白騎士の消耗は少なく、体が生存の為に活動を必要最小限にしているのだと気づいた。



「お久しぶり。 戦争しごとはどうしたの?」

 白騎士を置いていってから初めて現れた黒騎士に、ノシターは笑顔のひとつも見せずに戸口でそういう。

 今にも追い出しそうな勢いだ。

「どうもこうも、両陣営共にやる気が出なくてな。 お開きだよ、お開き! 前代未聞だ」

「……へぇ? 商売上がったりね。 まあいいわ、お茶でも飲んでいきなさい」

 返事は待たずに部屋に入っていくノシターの後ろを、大きな体躯がついてゆく。



「あの女性ひとまだ目が覚めないわよ。 体は回復しているはずだから、脳障害かしらね? それとも起きたくないのかしら……まぁ、あれだけ無残な目にあって、生き続けるのに意識が持たなかったとしても不思議じゃないけどね。 はい、お茶」

 ドンと手荒く黒騎士の前に湯飲みを置いて、自分もテーブルに着く。

「で、あの子あんな風にしたの、誰? まさかアンタ?」

 胡乱な目で見られて、にやりと笑った黒騎士に、ノシターは心底いやそうなため息を吐く。

「どSにも程があるでしょ、鬼畜で変態。 で、敵なんでしょあの子、生かしてどうするの? 捕虜? それとも拷問でもするつもり?」

 返答如何で明らかに敵に回るつもりの顔で、じっと黒騎士の反応を待つ。


「アレも傭兵だ、捕虜にする必要なんてねぇし、第一死んだことになってる。 そうだなぁ、アレを連れて隠居するのも良いかもしれねぇな」

 愉快そうに笑うが、明らかに戯言。

 黒騎士は、少し冷めたお茶に口をつけ、イスの背もたれに体重を掛ける。

「どうすっかなぁ。 傭兵家業は気に入ってっけど、別に未練もねぇし」

「天下の黒騎士と、巷で話題の白騎士が揃って隠遁したら、吟遊詩人が面白い話しをでっちあげてくれそうじゃない。 で、会っていく? もしかして、アンタの声聞いたら目が覚めるかもよ?」

 希望的観測だが、もしかしたらということもある。


 ノシターは黒騎士を寝室に案内し、自分は入らずにドアを閉めた。






「白騎士……」

 黒騎士はベッドの端に腰掛けると、青白い顔をしたまま眠る白騎士の頬を、指先で撫でる。

 指先に感じる肌はがさがさで、体温は指先のそれよりもまだ冷たかった。


 それでも息をしている。


「あの戦いは、あれから誰も死なずに終わったぞ。 お前の望みどおりだ」

 お前は一体誰の為に戦っていたのか、誰の為に生き続けたのか。

 こんなにも華奢で綺麗なのに、お前を守る者は誰一人居なく、お前はその身を戦場に晒し続けた。

 半ば狂っていたのか、白騎士。

 お前に戦場は似合わないのに、誰よりも輝いて見えた。


 それでも、お前は戦争を、人殺しをする自分を憎んでいたのだろう?

 それが、あの最後の言葉だったのだろう。


「白騎士、俺はお前の名すら知らない…。 お前は一度死んだんだ、もう一度目覚めろ、そして、俺と共に生きよう」

 俺ならお前を守れる、お前と共に在ることができる。


 シーツから出ていた白騎士の手をとり、その指先に口付けた…。





「やっぱり駄目だったのね…」

 目覚めない白騎士を見下ろし、ノシターが残念そうにつぶやく。

かたきを討つために、目を覚ましてくれるかもと思ったんだけど、目論見外れね。 さぁさ、もう帰っていいわよ。 あとは私がやっときますから」

 むしろ、さっさと帰れと言う様に追い出そうとするノシターに、黒騎士は舌打ちしながらも思い出したようにテーブルに金貨入りの小袋を置いた。

「蘇生代だ」

 ノシターは中身を検めると口の端を小さく歪めた。

「随分と奮発してくれたわね?」

 節制すれば3年暮らせるだけの金額の入った小袋の口を締める。

「……また来る。 その時までには」

「えぇ、善処するわ。 貴方もせいぜい、目覚めたあの子に切り殺されないようにね」



 振り向かず出て行った黒騎士の背を見送り、ずしりと重い小袋を棚へしまった。


 

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