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 黒騎士の視線を纏わりつけたまま、給仕の為にテーブルの間を縫うように回る。



 食堂の閉店近くにやってくるようになった偉丈夫は、店の端の小さなテーブルを陣取り、ここのヌシのような顔で堂々とグラスを傾け、店の中で立ち回るワタシをさり気ない視線で追いまわす。

 最初は誰もがあの男の存在感に臆していたが。不思議と場に馴染む男の空気に、すぐに周囲も男を気にしなくなった。


 ヒゲを落として身なりを整えた偉丈夫はそれなりに見られる容貌で、他の三人が我先にと給仕を率先する。ワタシが奴の傍に近づく必要が無くて、大変助かる。


 ただ、いつもの嫌がらせは健在なので、毎日仕事が終わると洗濯場へ向かう。



「何故やり返さないんだ」

 店の壁に背を預けた偉丈夫が、低い声で問うてくる。

 三日同じ場所で無言を続けた彼がやっと開いた口がそれだ。

 肩を揺すって小さく笑う。もっと他に聞くことはあるんじゃないのか、と。


 それはワタシも同じだろうか。



「貴様……いや、貴方はいつまでここに居るつもりだ?」

 濡れた服をぎゅうぎゅうと絞り、立ち上がって顔を上げる。

 日に日に日が短くなって、夏ならばまだ明るいこの時間でも、辺りはすっかりと暗くなっている。

 彼がどんな顔をしているのか良く見えない。


「明日から仕事で二日ばかりここを離れるが、すぐに戻る」

 仕事はしてたのかと、少し驚く。

 この場所は戦場から離れているから、傭兵としての活躍の場は無い。

 何故こんな場所に居るのか、何故ワタシのところへ来るのか、興味が無いわけではないが聞く理由が見つからず、疑問は胸にしまってある。


「お前は二日後も此処に居るのか」

 心情的に一歩踏み込んで聞いてきた男を束の間じっと見つめる。


「……ああ、居る」

 はぐらかす事無くそう応えれば男の雰囲気が緩んだ。喜んでいるんだろう。

 一対一ならば相手の気配を探るのは容易い。それは向こうも同じだが。

「いつまで居るのか、聞いてもいいか」

 もう一歩、踏み込んできた男に無言を返す。


 これ以上話す必要はない。




 背を向けたワタシを黒騎士は無言で見送った。


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