13.仕事仲間
教官……いや、給仕長のその言葉の意味は、仕事初日で良くわかった。
ワタシ以外に三名の若い女性が、同じ給仕の仕事に就いている。
給仕長は主に個室の客への給仕を担当しているので、フロアの給仕はワタシを含めた四人が受け持っているのだが。
大男のオーナーから紹介されたときは、皆「よろしくね」等と気安く笑い掛けてくれたのだが、彼の目が離れたとたん、笑顔が反転し「足を引っ張るな」「私の客は取るな」「色目を使うな」「チップは全額没収」等の諸々の注意を吐いた後、ワタシを外してフロアの準備を始める。
傭兵の世界でも似たようなことはあったな、と、懐かしく彼女達の様子を見守った。
そんなのん気な事を思えたのは最初だけで、あの三人のちまちまと続けられる嫌がらせは、傭兵時代のものよりももっと粘着質で、終わる様相を見せないところも、疲れる要因だった。
仕事の途中で交代で入るはずの昼休憩は、一度として回ってきたことはなく、昼前から夜までびっちり立ち通し。飯抜きは傭兵時代でなれているし、この程度の立ち仕事なら肉体的に苦痛はないが。意味もなくクスクス笑われ、蔑まれるのがうっとうしい。
反応を返さねば飽きるだろうと思っていたが、そうでもないらしいしな。
それに、厨房に入っている人間の一人が、やけに馴れ馴れしく此方に気遣いを見せるのも面倒だ。
仕事が終わり部屋で服を着替え、今日も汚されたスカートの裾を洗う為に、脱いだワンピースとエプロンを持って店の裏手の洗い場へ向かった。
毎日毎日、彼女達の手からうっかり滑り落ちた皿で、ワタシの衣類は汚される。
逃げたところで、今度は足を掛けられ転ばされ、その上に、下げてきた汚れた皿がひっくり返ってべったりと、ワタシを汚すのだ。
なぜ執拗に嫌がらせをされるのか、それはとても簡単な理由だった。
厨房に居る馴れ馴れしい青年。オーナーと共に厨房に立つ、すらりとした長身の朗らかで、嫌味なく、誰にでも優しい、俗に言う色男が、ワタシに構うせいだ。
「胡散臭いがな」
給仕長はそう鼻で笑うが、彼女達はとにかく彼の虜となっているように見える。
人心を操るのを楽しんでいる、人のよさそうな顔をした男の何処がいいのかわからん。
初めて紹介されたとき、ざわりと鳥肌が立ったのを今でも覚えている。
ある意味懐かしい、傭兵時代に何度か遭遇した、ある種の人間と同じ危険をはらんだ人物。
オーナーである大男も給仕長もそれには気付いているのに、敢えてこの店で飼っているようだ。
ワタシは雇われ人だから、何も言うことはない。
ただ……時々、本当にあの娘達に手を上げたくなる。
「お前から手を出すなよ。あんなのでも、ウチの店の戦力だ」
給仕長に釘を刺されている。それがなければ、とっくにやっている。