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白狐の嫁入り〜禁断なる婚姻を最愛のあなたと〜  作者: 遊井そわ香
第四章 二人の幸せのカタチ
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二人の時間

 草世はうどんをわけると、ちゃぶ台に置いた。

 どんぶりから立つ湯気。つややかなうどんの上に乗っているのは、汁をたっぷりと吸ってふくらんだ油揚げ三枚。


「わぁー!! おいしそう!!」


 真珠は手を叩いてはしゃぐと、箸を持った。狙うは、黄金色の油揚げ。

 真珠は箸を器用に使って油揚げを挟むと、前歯でかぷっと噛んだ。熱々の汁が口の中に流れる。


「熱っ!!」

「出来立てだから。焦らず、ゆっくりお食べ」

「うー、口の中やけどしたぁ」

「水を飲んで」


 草世から湯呑みを渡され、真珠は水をごくごく飲んだ。

 ほっと一息ついた真珠は、自分のうどんと草世のうどんが違うことに気づいた。

 真珠のうどんには油揚げが乗っているが、ネギはない。草世のうどんにはネギが乗っているが、油揚げはない。


「草世は、油揚げ、食べないの?」

「ああ。僕は油揚げよりも、ネギのほうが好きなんだ」

「そうなんだ。私と、ネギ。どっちが好き?」

「ぶっ!!」


 突拍子もない質問に、草世はむせた。気管支にうどんの汁が入り、しばらく咳き込む。


「なんで、そんな質問を!?」

「変?」

「うん。変」

「どこらへんが?」

「じゃあ、反対に聞くが。油揚げと、僕。どっちが好きなんだ?」

「どっちも好き」

「なるほど」


 そう答えれば良かったのかと、草世は落ち着きを取り戻した。


「じゃあ僕も、真珠とネギ、どっちもいいと答える」

「そうなんだ。今度、ネギに変身できるかやってみる!」

「変身しなくていい!」

「なんで?」

「間違って、料理に使ったら大変だ」

「そうだね」


 真珠と油揚げ。草世とネギ。

 人間と食べ物を比べるなんて、おかしな質問だと草世は思う。それでも、真珠と会話するのは楽しいと思えるから不思議だ。

 

 真珠は熱々の油揚げに懲りたのか、今度は、「ふーふー」と息を吹きかけた。冷ましてから、油揚げを齧る。


「おいしーいっ!! 草世に出会えて、良かった!」

「油揚げを、たくさん食べられるからな」


 油揚げを食べている真珠の頬の動きを、草世はしばらく見ていた。愛おしさが胸にあふれる。


(食べている姿を見て心が満たされるというのは、どういう理屈なんだろうな)


 草世は真珠の頬から手元のどんぶりに視線を落とすと、うどんを啜った。

 真珠は口の中に入っていた油揚げを食べ切ると、草世をじっと見た。


「油揚げを食べられなくても、草世と出会えて良かったって思う」

「そうなのか?」

「うん」


 二人はしばらく無言で、うどんを食べた。すると真珠の黒目が潤み、ポタッと涙が落ちた。

 真珠は両手で目元を覆った。


「草世、いなくならないで」


 ご機嫌顔でうどんを食べていたのに、急に泣き出した真珠。草世には、わけがわからない。


「いなくならない」

「いつか、いなくなる」

「いつかっていうのは……」


 人間と白狐では、命の長さが違う。そのことに草世は考えを及ぼすことができずに、困惑する。


「この先なにがあるのか、なんとも言えないけども。僕のほうから、真珠を追い出すことはしない」

「うん……」

「なにが不安なんだい?」

「草世がいなくなること」

「だから、僕はいなくならない」


 真珠は目元を覆っていた手を下ろすと、涙目で草世を見つめた。


「草世が死んだら、私も死ぬ」

「…………」


 真珠が言っている「いなくなる」が死であることに、草世はようやく気がついた。

 声を振り絞る。


「そんなこと、しなくていい。僕は、そういうことは喜ばない」

「うん……」


 真珠は目に溜まっている涙を拭うと、恥ずかしそうに「えへへ」と笑った。


「油揚げも美味しいけれど、うどんも美味しいね」

「あぁ、そうだね」


 二人は黙ってうどんを食べながら、同じことを考えた。


 ──この世に、永遠はない。ずっと、一緒にいられるわけではない。だったら、二人で過ごせるこのときを、大切にしよう。

 

 


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