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白狐の嫁入り〜禁断なる婚姻を最愛のあなたと〜  作者: 遊井そわ香
第四章 二人の幸せのカタチ
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一緒にいる幸せ

 真珠は、白狐が住む異界から人間世界へと飛びだした。勢い余って前のめりに倒れ、雪の中に顔を埋めた。

 真珠は起き上がると、顔と体についた雪を払う。


「逃げられた……良かった……」


 空が群青色に染まっており、一番星が瞬いている。周囲に人間の姿はない。

 真珠は変身の術をかけると、人間の姿になった。


「草世に会いたい!」


 白裂と争ったことで、体力も気力も低下していた。だが草世を頭に浮かべた途端、元気が湧いてくる。

 真珠は草世の家を目指して、力いっぱい走った。



 草世の家には明かりが灯っており、藁葺き屋根からは煙が立ち昇っている。

 真珠は少しためらったのち、おそるおそる玄関戸を引いた。

 台所で野菜を切っていた草世が振り返り、目が合う。草世は目尻をふにゃっと垂らして、笑った。


「おかえり」

「あ……」


 真珠はごくんと唾を飲み込み、掠れる声で問う。


「おかえりって、言った?」

「あぁ、言ったよ」

「それって……私が帰ってくるのを、待っていた?」

「うん。待っていた」

「わーん! 草世、大好きー!!」


 真珠は駆け寄ると、草世の背中に抱きついた。

 草世は慌てて包丁を置くと、体の向きを変えた。真珠の肩や背中についている雪を払う。

 

「おかえり。寒かったろう」

「大丈夫。あのね……」


 真珠は顔を上げると、胸につかえているものを吐き出した。


「草世、一人がいいんでしょう? お嫁さん、欲しくないんでしょう? 私と草世、住む世界が違うんでしょう? 草世と一緒にいたいから、知らないふりして、居着いた。……迷惑だよね?」


 白裂の「嫌がっているのに、おまえは無理矢理に家に居着いた。悪い子だ」との言葉が、胸に突き刺さっている。

 

「私、悪い子」

 

 草世は(なにをいまさら……)と、笑い飛ばそうとした。しかし真珠の瞳が潤んでいることに気づき、笑顔を引っ込める。

 

「なにかあったのかい?」

「ううん……」


 真珠は弱々しい声で否定し、首を横に振った。

 草世は(これは、なにかあったな)と、察した。真珠を安心させるために、優しい声で話す。


「真珠は良い子だ。迷惑じゃないよ」

「本当?」

「あぁ、本当だ」

「でも、一人がいいんだよね?」

「それは……うん。前は、そうだった」

「人間と白狐では、住む世界が違うんだよね?」

「それも、前はそう思っていた。……人間というものは、簡単に心が変わるんだ。昨日までは、一人が良かったし、住む世界が違うと思った。だが、今はそうじゃない」


 真珠を安心させてやろうと思い、草世は真珠の頭に手を置こうとした。その手が、微かに震えている。


(あぁ……。僕は、怖かったのだ)


 真珠は、親に会いに行ってくると出かけていった。

 草世は気が気でなかった。親に引き止められて、もう戻ってこないんじゃないかと危惧した。

 だから、自分に言い聞かせた──それでいいじゃないか。真珠は白狐なのだから、元いた世界で暮らすのが一番だ。

 それなのに、晩御飯を二人分用意した。


(真珠に、帰ってきてほしかった。僕も、真珠と一緒にいたいのだ)


 真珠がいることで、味気なかった食事が美味しくなった。殺風景だった家の中が、明るくなった。

 真珠と一緒にいる楽しさを知ってしまった今、一人が好きだと強がる気には、もうなれない。


「今日も明日も、その次の日も。ずっと、二人がいいと思っている」

「その二人って、草世と真珠?」

「そうだ」

「きゃーんっ!!」


 狐の鳴き声をして、真珠は草世に思いっきり抱きついた。草世はよろけ、倒れそうになった。

 草世は踏ん張ると、真珠の頭を撫でた。


「いたいだけ、いたらいい」

「うん! ずっといる!」


 真珠は甘えるようにして、草世の胸に顔を押しつけた。水飴が溶けたような甘やかな声で訊ねる。


「私、草世のお嫁さん?」

「……そういうことにしておこうか」


 北風が家を揺らして、ガタガタと音を立てている。隙間風が吹いてくるにもかかわらず、抱擁している真珠と草世の体はあたたかい。

 


 晩御飯は、うどん。

 真珠の鼻が、大好きなものの匂いを嗅ぎ当てる。


「油揚げうどんだ!」

「当たり。だけど、この前食べたうどんとは違うぞ」

「なにっ!? うどんが草になっているとか?」

「それは、うどんとは呼べないなぁ。そうじゃなく、油揚げ三枚乗せだ」

「きゃあーーっ!! あのねあのね、私ね、油揚げがだーい好きっ!!」

「知っている」

「草世も、だーーーーい好きっ!!」

「……そうか」


 草世は照れて、返事が遅れた。

 油揚げ三枚乗せに興奮した真珠の勢いは、止まらない。


「私、草世と一緒にいられて幸せ!!」

「それは良かった」

「草世は? 私と一緒にいられて、幸せ?」


 草世は考えた末に、「うん」と答えた。

 本当は考えなくてもすぐに答えが出せたのだが、あえて、幸せとはなにか考えてみた。


(相手の好物を作って、帰りを待つ。帰ってきた相手が、喜んでくれる。こういう幸せもあるんだなぁ……)


 草世の両親がこの場にいたら、「男が台所に立ち、女の帰りを待つとは! なんと情けない!」と大激怒するだろう。

 だが、草世は思う。

 幸せとはひとつではなく、決まった形があるわけでもなく。自分が幸せだと思えば、それでいいのだ。



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