鬼斬姫
さて、戦うのはいいけど……どうしようかな。
「異端者。貴様に慈悲を与える、ここで自害しろ」
「イヤ。というか……ずいぶん勝手なのね。人のいた世界を勝手に壊して、人の魂を勝手にこっちの世界に連れてきて、しまいには『死ね』なんて」
「分子世界の異物は、この正史世界で管理する決まりだ。この世界で好き勝手しようものなら、断罪されるのは至極当然」
「それが勝手なのよ。そもそも、私たちの生きる世界は、あなたたちのオモチャじゃないわ」
会話しつつも、オウマがこの場にいないとなると……ちょっとまずいかも。
今、手元にある『六天魔王』は一本。しかも、オウマがいない抜け殻みたいな刀。試したことないけど……たぶん、普通に使ったら折れる。
目の前の、トゥルエルだっけ……大きな槍を持ってる。
「槍……この世界に『刃』は存在しないと思ったけど」
「天上人は例外だ。さて、始めよう」
「……ここで始めたら、町に被害が出るわ」
「それが?」
トゥルエルは、槍を振り回す。
テーブルが吹き飛び、花瓶が割れる。私に向かって瓦礫やカップの破片が飛び、さらに槍から放たれた光が粒となって飛んできた。
触れたらまずい──……なんとか回避する。
「教えよう。天上人の操る光は、神の光。ヒトが扱う光とは……次元が違う!!」
「ッ!!」
槍に光を乗せ、連続で突いてくる。
私は躱す。
十六歳の身体でよかったのは、身体が軽いこと……そして、思った通りに動くこと。
もともと、動体視力には自信があった。今は、八十年の経験と合わせて、若い身体で無茶もできる。
今は、刀が一本しかないけど……それでも。
「『閃鸞』!!」
槍の軌道を見極め、槍が引いた瞬間に一閃──……右胸に刃が命中する。
だが、斬れない。
「っ!!」
「この程度か」
「くっ……!?」
下がり、刀を盾にする。
光を帯びた槍の連続突き。後手に回ったせいで躱しきれず、全て刀で受けた。
そして、脇腹に槍の先端が掠り、制服の一部が消えた。
「……燃えたというより、消滅……とんでもないわね」
「神の光は、全てを浄化し、全てを滅する聖なる光。貴様のような異端者が抗える力ではない」
「……そう。でも……ここまでね」
「何?」
次の瞬間、喫茶店の窓を破り、人型のオウマがトゥルエルに飛び蹴りを喰らわせる。
「くっ……」
「おうおう、俺の可愛いご主人様に何してくれてんだオラアアァァァ!!」
オウマはすぐに私の隣へ。
「おい、無事か?」
「ええ。買い物は?」
「終わったぜ。シルクのスケスケパンツとブラジャーにするか、大人っぽい黒のパンツにするか迷っちまった。ああ、安心しな。両方買ったからよ」
「あっそ。で……状況わかる?」
「異端審問官に目ぇ付けられて、処刑の真っ最中……かな」
「正解。どうやら、お別れの時間はなさそうね」
オウマに向かって微笑むと、オウマはニカッと微笑んだ。
「オウマ」
オウマはモヤになり、私は黒衣、仮面、双剣を腰に差し変身する。
「神器……それは神の所有物。なぜ、貴様らのような異端者が、ことごとく神器を手にする!!」
「知らないわ。さて……終わらせましょうか」
「いいだろう」
トゥルエルは、背中の翼を発光させ、頭のリングを回転させる。
手にある槍が輝きを増し、私に向けて突きつけた。
「神よ!! 異端者を断罪する光よ!! 悪しき魂を滅せよ!!」
私は双刀の柄に手を添える。
『イチゴ、一個気付いたことある。聞くか?』
「どうぞ」
私は、オウマの言葉を聞き……試してみることにした。
「アーメン!!」
トゥルエルが突っ込んでくる。
光の塊……触れたら死ぬ。
でも、不思議と綺麗に見えた。
「『狂羅刹鳥』」
漆黒の居合。
二刀による居合が、トゥルエルを弾き飛ばした。
槍が砕け、背中の翼が散り、右腕と右足が吹き飛んだ。
喫茶店が全壊し、さらに隣の建物も吹き飛んでしまった。
私は、一歩も動かずに双刀を鞘に納める。
「がっは……」
トゥルエルは、血塗れで瓦礫に埋まっていた。
驚いたのは、天上人の血が黄金だったこと……綺麗って思えた。
「い、まのは」
「二刀による居合……驚いた。初めてやったけど、ここまで威力が出るなんて」
オウマの柄に触れると、オウマが言う。
『コイツ、魔法がクッソドヘタでカスなんだよ。でも……体内で魔力を循環させるのはめちゃくちゃ上手い。放出の過程でクソカスになるだけで、体内で操るなら世界最高レベルかもしれねぇ。だから、魔力を体外に出さず、体内循環させて肉体強化に全フリしたってわけだ。どうだ? 超強化されたイチゴの一撃は』
「言い方、かなりムカつくわね……」
柄をゴンゴン叩くと、「いて、いてえって」とオウマが言う。
トゥルエルは、私を睨んでいた。さて……どうしようかな。
「おや、終わりかい?」
「…………あなた、それ」
「ああ、素材だよ」
アレイスターの右手には、天上人の頭があった。
綺麗に首を切断、血が出ないよう切断面を銀色の液体で包んでいる。
「天上人の脳を解析したいと思っていたが、まさかこんなすぐ手に入るなんてね。いやあ、実に幸運だ。お? そっちは……ん~、損傷が酷いねぇ。使えないな」
「あ」
アレイスターが人差し指をトゥルエルに向けると、人差し指が伸び、トゥルエルの頭を貫いた。
トゥルエルがビクンと痙攣し、そのまま白目を剥いて絶命……銀色の液体がトゥルエルを包んだと思ったら、もう何もなかった。
私は、頭に来た。
「それ……私の獲物なんだけど」
「おお、そうだったね」
「……死ぬ?」
オウマをアレイスターの首に添える。
こいつは、やっぱり危険。
ここで殺した方がいいかもしれない。
「動くな!! 王国騎士団だ!!」
すると、王国騎士団が周囲を囲み、私とアレイスターに杖を向けていた。
その中の、団長っぽい人が私とアレイスターに言う。
「貴様ら……異端審問官の方々は」
「ああ、殺したよ」
「ちょ……」
当たり前のように言い、アレイスターはケラケラ笑った。
骸骨の仮面で大笑いする姿は不気味だった。
だが、それどころじゃない。
「捕らえよ!!」
魔法が放たれる。
私は舌打ちし、半壊した喫茶店の瓦礫を伝い、隣の建物へ。
途中……担架で運ばれるセイン様を見た。
「……お茶、美味しかった。ありがとうございました」
そう呟き、私はその場から離脱するのだった。
◇◇◇◇◇◇
ひたすら逃げ、王都から脱出……王都郊外にある小さな森まで来た。
そこで変身を解き、大きく息を吐く。
「ふう……」
「ほれ」
人型になったオウマが、包みを渡す。
「なにこれ?」
「着替えだ。このまま国を出るんだろ? 私服、見繕ってきたぜ。下着もセクシーなやつな」
「……そうね」
私は制服を脱ぎ、汗だくになったので下着も脱ぐ。袋には旅の装いと下着があった。セクシーとか言ってたけど、意外にも普通の下着だ。
オウマに見られてるけど気にしない。そもそもこいつ、男じゃなくて刀だし。
「あわただしい出発になったな。二週間後とか言ってたのが嘘みたいだぜ」
「そうね。でも……これでよかったのかも」
「そうかぁ?」
「ええ」
汗を拭く。
若い身体はいいけど……まだ体力があまりない。もっと鍛えないとね。
「これからどこ行く?」
「とりあえず、国境ね」
「だったら、デュミナス帝国へ行かないかい?」
いきなり聞こえた声。
私はタオルを捨て、すでに刀となったオウマを声の方へ突き出した。
そこにいたのは、アレイスター……そして、人型のピカトリクス。
「汚い身体をご主人様に見せないでくれる?」
「…………」
裸だが、羞恥心はない。
そもそも、こいつを前に隙を見せたら何をされるかわからない。
アレイスターは困ったように言う。
「悪いねぇ。獲物の横取りは普通しないんだよねぇ。僕は戦闘には疎いから、そういう狩人のルールはよくわからなくてねぇ」
「……殺されないうちに消えなさい」
「待って待って。提案に来たんだよ」
「……何?」
「一緒に行こうよ、イチゴくん」
こいつは、何を言い出すのか。
「三級の雑魚とはいえ、異端審問官を殺しちゃった僕らは、『管理者』に追われる立場だ。だったら、異端者同士、協力して旅をしないかい? きみとなら、面白おかしく旅ができると思うんだ。きみは強者と戦えるし、僕はいろんな実験ができる……それに、情報もある」
「……情報?」
「うん。隣国のデュミナス帝国で、武闘大会が開催されるんだ。世界中の強者が集まる大きな大会だ。キミも楽しめるんじゃないかい?」
「…………」
『おいてめえ、勝手なこと』
「ご主人様の話を遮るな不細工」
オウマがブルブル震えた。
私は、刀を降ろして下着を手に取る。
「いいわ。一緒に行く……ううん、あなた、私に付いて来なさい」
「おお? いいのかい?」
下着を身に着け、スカートを履き、ジャケットを着る。
ブーツを履き、トントンと履き心地を確かめ、髪をポニーテールにまとめた。
「あなた、いつか殺してあげる。それまで私と一緒にいなさい」
「……く、ははは、あっはっはっはっは!! いいね、じゃあ僕は、きみを研究素材にする。きみが死ぬまで一緒にいさせてもらおう」
私は、アレイスターに向かって手を伸ばす。
アレイスターも手を伸ばし、互いに握手した。
「これから仲間として、よろしくね。イチゴくん」
「そうね。ふふ……あなた、殺し甲斐ありそう」
アレイスターの手は、驚くほど冷たかった。
「ケッ……胸糞悪りぃ」
「黙れ不細工。こっちのセリフ」
「あぁ? ブチ殺すぞギラギラ女」
「死にたいのかしら、そこのブ男」
オウマ、ピカトリクスはキスしかねないほど顔を近付け睨み合っていた。
こうして、私の世界を知る旅が、最悪な形で始まるのだった。




