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剣の存在しない魔法世界で、私だけが「斬る」という概念を持っている~刀姫転生、世界法則を一太刀で否定する~  作者: さとう
第一章

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決意する

 アレイスターと別れ、私は家に戻っていた。

 そして、家の前にいたのはお父様。


「どこへ行っていた」

「……」


 あー……これは、バレてるかな。

 セイン様のお茶会に行くって言って家を出たけど、普通に私服だし、ドレスとかじゃないし……そうじゃなきゃこんなに怒って出迎えない。

 すると、お父様のビンタが飛んできた。


(どうしよ、躱す? 掴もうかな。でもこういう場合ってビンタ受けるのかな。躱して股間蹴り上げたらどうなるかな。うーん……とりあえず)


 ここまで考え、私は頭を軽く下げてビンタを躱す。

 お父様は驚いていた……あれ、失敗だったかな。


「イチゴ。お前、どこで何をしていた!! 殿下の茶会に参加するというから外出を許可したのだぞ。先ほど、殿下の使者がうちに来た。お前によろしくと、今度は参加してほしいと。お前、嘘をついてまでどこで何をしていたんだ!!」

「…………」


 育ててもらった恩はある。兄や姉にべったりな母親はともかく、この父親は私を心配……。


「ええい、殿下の心がお前に向いているのだぞ!? なぜそれがわからん!! ヒトフリ家から王妃が出れば、騎士爵などではなくさらに上、領地だって与えられるかもしれんのだぞ!!」

「…………はあ」


 前言撤回。

 この父親は、私を政略結婚の道具としか見ていない。

 兄や姉は優秀な魔法騎士だけど……未だに結婚していない。長男である兄に期待するより、王妃の立場に近い私に関心が向いてるだけだ。


「夜遊びでもしているのか!? ええい、しばらく外出は禁止。学園までの移動も、従者に監視させるからな!! 少しは貴族令嬢としての自覚を持て!!」

「……あの、お父様」

「なんだ!!」

「私、王妃になんてなりたくありません」


 きっぱり言うと、父は顔を真っ赤にしてビンタ……ではなく、拳を振り上げた。

 明確な敵意に、つい身体が反応してしまった。

 拳を半身で躱し、腕を掴んで足払いし、そのまま背中から投げた。

 柔拳法。前の世界で見て覚えた技だ。父はゲホゲホむせて私を睨む。


「お、お前……」


 父は、私を見て何を感じているのか。

 私は父を見下ろしている。正直、この家に……家族に興味を失っているような、冷めた目をしているだろうね。それに気付かれてしまったのかも。


「お父様。申し訳ございませんでした」


 それだけ言い、私は自分の部屋に戻るのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 その日の夜。

 寝間着姿でベッドに転がっていると、オウマが人の姿に変わり窓際の椅子に座った。


「オマエ、もう家族のことどうでもいいだろ?」

「ま、そうね。お互い、愛はないわ。今思ったけど……このマルセリア王国って小さいのよね。領地なんて与えられても、この王都の一区画分あるかないかじゃない? そんなのに固執する父とか、私の人生に必要ないかも」

「その気になれば、もう殺せるか?」

「そうね」


 あっさり言えた。私は、この家族、立場を捨ててもいいと思っている。

 思い浮かぶのは、アレイスター。


「あの白い優男……あいつに付いて行くか?」

「付いて行くというか、世界を見るっていうのは面白そう。この世界は檻って言ったけど……まずは目の前にある檻を壊さないとね」

「へへ、じゃあ旅立ちか」


 私はベッドから起き上がり、オウマのいる窓際へ。そして窓を開けて星空を見た。


「二週間後、この国を出るわ。旅支度をしなくちゃね」

「決まりだな」


 オウマはニヤリと笑う。


「イチゴ。あのアレイスターとかいう奴……気をつけろ。見てくれと態度はナヨッていたが、ありゃバケモンだ。オマエでも勝てるかわかんねぇぞ」

「そうね、それは肌で感じた。今の私じゃ……ギリギリかな」

「へ、ギリギリかよ」


 とりあえず、もうこの国、家族に未練はなくなった。

 二週間後の旅支度まで、準備をしないとね。


 ◇◇◇◇◇◇


 とりあえず、普通に学園に通いつつ、旅支度をすることにした。


「オウマ、買い出しよろしく」

「へいへい。何買えばいいんだ?」

「旅道具」

「まんまじゃねぇか。へへ、オマエのパンツとかも買っておこうか?」

「好きにして」

「……マジで買うからな」


 お金は、これまで使わなかったお小遣いがあるから問題ない。オウマが手元から離れるけど、二刀あるうちの一本は腰に差してあるからとりあえず大丈夫。

 まあこれだけだと、オウマと会話できないけど……しょうがないか。

 学園に到着し、席に座ると……隣の教室からセイン様が来た。


「やあ、ヒトフリ令嬢」

「セイン様。おはようございます」

「ああ、今日もいい天気だね」


 笑顔のセイン様。周りの女子が頬を染めてるけど……正直、私にはわからない。

 確かに天気はいいけど、笑うことでもないかな。

 とりあえず、無難に笑い返すとセイン様は嬉しそうに微笑んだ。


「あのさ、今日の模擬訓練、一緒にやらないかい? きみのこと、もっと知りたいんだ」

「構いませんが……私は以前、セイン様のご友人を吹き飛ばしました。そのことについて何か……」

「何もないよ。それはきみの実力なのだろう? こうみえて自分も『氷』の属性持ちだ。決して後悔はさせないよ」

「……それは楽しみです」


 上級属性の『氷』か……そういえばセイン様って、この国の第一王子であり、上級属性の持ち主であり、学生ながらにして王国騎士団のトップレベルの強さとか聞いたかな。

 旅立ちまで、まだ技の訓練をしたいし……利用させてもらおうかな。


「あ、あのさ。それで……よかったら、放課後にお茶でもどうだい? 茶会じゃなくて、町の喫茶店とかでもいいからさ」

「構いませんわ。ぜひ、お願いしますね」

「……ああ!!」


 何が嬉しいのか、セイン様は跳ねるように自分の教室へ帰った。

 取り巻きたちも、睨んではくるが何も言わなくなったのがありがたいかも。

 それにしても、お茶くらいであんなに元気になれるなんて、けっこう単純な人なのかもね。


 ◇◇◇◇◇◇


 その日の模擬訓練。

 セイン様を相手に、私は腰のオウマの柄に手をかけていた。

 指揮棒のような杖をセイン様は私に向けている。


「手加減ナシで、お願いしますね」

「わかった。安心してくれ、怪我をしても優秀な医師を手配して、きみの身体に傷跡一つ残さないと誓うよ」

「それはどうも──では」


 摸擬戦が始まった。

 セイン様から魔力が漲り、周囲に氷の結晶がいくつも浮かぶ。

 

「『グラキエス』!!」


 結晶が飛んでくる。

 一つ目の結晶を躱すと、地面に命中し氷柱となった。なるほどね……あれに触れると、氷漬けになるってことか。おもしろい!!

 私は抜刀、連続で結晶を斬りつける。


「『塵鵺(ちりぬえ)』」


 氷の結晶が全て塵となり消えた。

 思った通り、塵まで分解されると凍らせることはできないみたい。

 セイン様はギョッとし、杖を足元に向けていくつもの氷柱を生み出した。

 私は接近し、腰落とし、柄に手を添え……一気に抜刀した。


「『鳳凰印(ほうおういん)』!!」


 氷柱を両断、セイン様は両腕を交差するが、衝撃で吹き飛んだ。

 氷が全て砕け散り、セイン様はゆっくり起き上がる。


「参った。いやすごい……なんという魔法なんだい?」

「魔法じゃありません。斬っただけです」


 微笑むと、セイン様は「き、きる?」と首を傾げるのだった。


 ◆◆◆◆◆◆


 異端審問官の一人、トゥルエル。

 彼女は上空で、今のイチゴの『斬撃』を冷たい目で眺めていた。


「斬撃。この世界に存在しない理。そして……」


 視線を向けた先は城下町。そこに、白い少年が銀髪の美少女を連れ、食べ歩きをしていた。


「錬金術。これも存在しない理。こちらはザミエルの担当」


 そして、マルセリア王国ではない、遠くを見る。


「ほかにもいくつか……『異端者』共め。神の世界で好き勝手するとどうなるか、わかっていない」


 すると、トゥルエルの元へ眼鏡をかけた天上人、ザミエルが来た。

 女性らしいふくよかな体型をしており、どこかおっとりしている。


「トゥルエル。わたしの追っていた異端者だけど……どうやら、あなたの管轄に入ったみたい」

「……錬金術師」

「ええ。まだ行動は起こしていないけど、彼も神器の所有者。彼が行動を起こせば、こんな小国は一日で消える。大規模な錬金術でも使えば粛清できるけど……まだ、その時じゃないのよねえ」

「こっちは動いた。もう斬撃を隠さなくなっている。今の暮らしを捨てるつもりで行動しているのかも。現に……神器は別行動、買い出ししてる」

「へえ……私の担当も食べ歩きしかしてないし、もしかしたら……手を組むのかもねぇ」

「……どうするの」

「早めに何とかしたいわねぇ。神の世界の安寧のために」

「やるの?」

「ええ。私たち、異端審問官による粛清の始まりね」


 この『神の世界』にて、管理者であり超常の存在である天上人の組織がある。

 

管理者(アドミニストレータ)』。

 

 そこに属する異端審問官、トゥルエルとザミエルは、それぞれの獲物を狩るために翼を広げた。

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