冒険者として
帰り道。私はウキウキ気分で歩いていた。
「はぁ~、やっぱり剣はいいね。斬るってすごく楽しい」
『わかるわかる。でもよ、オマエ絶対に異端審問官に目ぇ付けられたぜ。すぐにどーこーなるわけじゃねぇけど、たぶんなんかあるぜ』
「気にしないわ。それより……もっと身体を鍛えないとね。今の私が若いころの私と同じなら、筋肉が付きにくいタイプだから……ん?」
ふと、帰り道の途中で見つけたのは、大きな建物。
その看板には『冒険者ギルド』と書かれている。
「冒険者……確か、迷宮調査をしたり、魔獣狩りをする人たちだっけ」
『なんでも屋っつーか、個人傭兵みたいなモンかもな』
「……冒険者」
魔獣狩り。
私のいる国……『マルセリア王国』の外には、魔獣が存在する。
知識では知っていたが、冒険者や王国騎士団による討伐、さらに数多くある迷宮調査など、冒険者の仕事は事欠かない。
現に今も、数多くの冒険者たちが出入りしている。
「……ねえオウマ。冒険者って私でもなれる?」
さすがに、制服のまま冒険者ギルドに入るわけにはいかない。
オウマに聞くと、適当な返事が返って来た。
『知らね。キョーミあんなら……』
すると、六天魔王がモヤとなり路地裏へ消え、そこから人間体のオウマが現れた。
「調べといてやるよ。ククッ、あとで部屋に行くぜ」
「うん、お願いね」
オウマ、こういう時に情報収集させるの役立つかも。
人間体のオウマ……定期的にこき使うのありかもね。
「おい、こき使うとか考えてねぇだろうな」
「……さあね」
私は、誤魔化すように家に帰るのだった。
◇◇◇◇◇◇
夜、部屋に戻ったオウマは、人の姿のまま話し始めた。
「名前さえあれば登録はできる。まあ、最下級からのスタートだがな」
「最下級?」
「冒険者には等級があんだよ。三級スタート、二級、一級、特級の四段階。冒険者ギルドにいたのは二級が少し、三級がほとんど、一級は数人、特級はいなかった。特級ってのは、冒険者でも最高レベルの強さを持つ連中で、国とかの依頼を受けて戦ったり、迷宮調査してるらしいぜ」
オウマは、私が用意していた果実水の瓶をゴクゴク飲む……飲食、できるんだ。
「でもまあ、オマエ……貴族令嬢だしなあ」
「簡単よ。変装すればいい。どうせソロで行動するんだし、学園が休みの日しか冒険者はやれないけどね……うーん、学園を辞めて家を出るって方法もあるけど、どうしようかな」
「まあ、まずはお試しでやったらどうだ? それに……変装するなら俺に任せな」
「……何する気?」
「決まってんだろ。変身だよ、変身」
次の瞬間、オウマは寝間着姿の私に、モヤの状態で纏わりつく。
そして、モヤが形となり、衣服となる。
見た目はシンプルに黒一色なんだけど、その分、形と線がすごく研ぎ澄まされてる。
上は体にぴったりフィットするノースリーブのトップス。
前に一直線のジッパーが入ってて、着ると自然と背筋が伸びるような気がした。
肩は少しだけ露出してるけど、軽さ重視だから。動くたびに邪魔にならない。
腰から下がスカートみたいに見えるけど、何層にも分かれた布が重なってて、歩くと静かに揺れる。
全部が左右対称じゃないから、影の形まで計算されてる感じがする……なに、このデザイン。
太ももの横にはベルトとバックル。武器を固定するための場所。ここに六天魔王を差すみたい。
手元は指先が自由になるグローブ。握った瞬間、刃と私の感覚がちゃんと繋がるように、薄くて、でも守るところはちゃんと守ってくれてる。
衣服だけじゃない。顔の四分の三を、漆黒の仮面が覆っていた。右目部分だけ肌が露出しており、まるで欠けた兜をかぶっているようだ。
それだけじゃない。
「な……髪の色、白くなってる!?」
髪が真っ白になっていた。
『黒と白、オマエにピッタリだぜ。ちなみに服は俺のデザイン……昔のお前が着ていた戦闘服をイメージした。髪色を変えたのは、白髪だとオマエってバレないと思ったからだ。いい感じだろ?』
「……もう、驚かせないでよ」
この黒髪、実はかなり気に入ってるのだ……ずっと真っ白だったらどうしようかと思った。
『名前も決めてあるぜ。明日はこの姿で、冒険者登録しに行こうぜ』
「そうね……ん、名前は?」
『決まってんだろ……』
オウマは、自信満々にその名を告げた。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
その日、早朝を少し過ぎた朝……依頼の取り合いが終わり、ギルド内が静かになった頃。
一人の冒険者志望が、ギルドの中に入って来た。
「…………」
一言で表現するなら、『奇妙』だった。
漆黒の欠けた仮面、ノースリーブのジッパー付き黒衣、腰のベルトには魔法の杖が二本収まっている。
欠けた仮面から、片目だけ露出している。その目が受付にいた一人の女性……冒険者ギルド受付のミユを射止めた。
「ひっ」
ミユは新人受付嬢。仮面を被った妙な白髪の少女の視線を受け止めるには、経験不足のようだ。
奇妙な仮面の少女は受付に近づき、言う。
「冒険者登録したいのだけれど」
「あ、は、はい」
ミユは、無理やり笑顔を作り、震える声で用紙を取り出した。
少女は容姿に名前を書き、ミユに渡す。
ミユは書類を確認し、引きつった笑顔で確認する。
「えと、オニヒメさんですね。では、登録完了しました。本日より、三級冒険者として頑張ってくださいね」
「……ええ」
オニヒメ……こと、イチゴは頷く。
冒険者についての説明を受け、証である冒険者カードを受け取る。
それをポケットに入れ、依頼掲示板の元へ。
「……怪しまれてたわ」
『ま、こんな怪しげな仮面の女、怪しまれて当然だろ』
「うるさいわね……とにかく、依頼を受けて外に行くわよ」
ちなみにイチゴ、今日は『セイン様のお茶会に行く』と言って家を出た。
イチゴは、薬草採取の依頼書を手に取り、ミユの元へ。
「薬草採取ですね。あの……外では魔獣も出ますし、気をつけてくださいね」
「……ありがとう」
お礼を言い、イチゴはギルドを出るのだった。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
私は初めて、王都の外に出た。
外は危険だからと、生まれて一度も王都を出たことがない。そういう人たちはけっこう多いけど……冒険者ライセンスを見せるだけで、こんなにもあっさり出れるとは思わなかった。
学園の課外授業で、魔獣討伐とかもあるけど……一人で外に出るのは初めてだった。
『おいおい、俺のこと忘れんなよ』
「あなたは私の刀でしょ」
『へいへい。さて、もう外だ。ここからは魔獣の危険もあるぜぇ?』
「その魔獣って……見たことないのよ。私のいた世界でも、そんなのいなかったでしょ? 獣人、亜人みたいなもの?」
街道を歩き、周囲を見渡す。
平原、雑木林、森、岩場、川も流れている。
昔は野外を見ても何も思わなかったけど……今は新鮮な気持ち。
『おいイチゴ、あっちにデカい森あるぞ。魔獣いるんじゃねぇか?』
「魔獣もいいけど、薬草もね」
とりあえず、オウマの見つけた森に向かってみた。
じめじめした、陰気な森だった。
光が差さないのか、薄気味悪い暗さ。
だが、私は喜んだ。
「オウマ、薬草採取。あなたも手伝いなさいよ」
『えぇ~?』
「オウマ」
『……へいへい』
変身が解ける。
髪色が元に戻り、仮面も消え、服装も普段着に戻る。
私は、足元に生えていた薬草を抜き、オウマに見せた。
「これ、薬草ね。十本で一束、二十束作るわよ」
「これ、貴族令嬢がやることじゃねぇだろ……」
「家を出た時、お金を稼ぐ必要があるわ。その時のために必要なことよ」
「へいへい……」
さっそく、薬草採取を始めた。
薬草は、暗くジメジメしたところにけっこう生える。ここは当たりみたいね。
あっという間に二十束が完成。紐で縛り、まとめて袋に入れる。
「依頼完了。さて、次は……魔獣狩りね」
「そっちが本命だろ。へへ……来るぜ」
森の奥から、何かが来た。
オウマがモヤとなり、私の身体を包み込む……黒衣と仮面、腰には二本の刀。
白髪を揺らし、私は一歩前へ。
『ガオルルルルルル……』
「いい獲物」
現れたのは、一つ目の巨人……名前、なんだろう?
身長は三メートルくらい、青白い肌、手にはへし折った丸太を持っている。
「……素敵」
ゾクゾクした。
魔獣。こんな、人でも獣人でも亜人でもないバケモノが、この世界にはいるのだ。
斬り応えがある。私の剣技を試すチャンスがある。ワクワクする。
「ふふ、オウマ……やるわよ」
『……』
「オウマ?」
『……気ぃ付けろ!! 来る……!!』
オウマが叫んだ瞬間、上空から何かが飛んで来た。
銀に輝く『礫』のように見えた。それが上空から降り注ぎ、一つ目の巨人を穴だらけにしたのだ。
「……礫、じゃない」
最大級の警戒をする。
銀のつぶては、つぶてじゃない……『蠅』だt。
銀色の蠅が大量に飛んでいた。そして、一つ目の巨人を包み込むと、そのまま倒れ……蠅が散ると、そこに残っていたのはただの骨だった。
肉が、全て食われていた。
「おやおや、おやおやおやおや……フフフ」
銀色の足場に乗った何かが、ゆっくり降りてきた。
「これはこれは、フフフ……ようやく会えた。フフ、フフフ」
男の声だった。
銀のロングコート、鍔付きの帽子、銀のグローブ……何より、男の顔は髑髏だった。
髑髏の仮面で顔を覆い、眼窩から青い瞳が見えた。
「初めましてかな、僕と同じ『異端者』に会うのは。フフ……興味深いねぇ」
敵……そうとしか思えない。
私は腰を落とし、二刀の柄に触れ、目の前の『銀のガイコツ』を殺すべく駆ける。
抜刀し、刃を交差させて同時に切裂いた。
「『青鷺火』!!」
「おおっと!?」
斬った。
確実に手ごたえがあった……が、私の刃は止まっていた。
「なっ!?」
「くっ……やるね」
銀のガイコツは、『一冊の本』を手にし、私の刀を受け止めていた。
ショックだった。
私の刀が、刃が、こんな本に止められた。
『イチゴ、下がれ!! こいつは……』
『下がりなさい、下郎』
バチン!! と、反発しあうように刀と本が爆ぜた。
距離を取り刀を構えると、銀のガイコツは本を見せるように突きつける。
「待ってくれ。やりあうつもりはないよ。言っただろう? 僕はキミと同じ『異端者』だ」
「…………」
すると、銀のモヤに包まれ、ガイコツの男の変身が解けた。
銀髪青眼の少年だった。学生服を着て、片手に本を持っている。
すると……本が銀のモヤに包まれ、人の姿になった。
銀髪の、ゴシックドレスを着た少女だった。十六歳くらいだろうか……とんでもない美少女だ。
少女は敵意丸出しで言う。
「不細工女。それ以上、ご主人様に刃を向けるなら……後悔させるぞ」
「ぶ、不細工女? 私のこと?」
すると、私の変身も溶ける。
人型のオウマが、銀の少女に向かって言う。
「おいテメエ……俺の愛しいご主人様に不細工だと? 眼ぇ腐ってんのか? ブチ殺すぞ」
「醜男がご主人様の前で喋るな」
「あぁ? どう考えても、俺のが男前だろうが」
「あ?」
「あぁ?」
険悪になるオウマと少女……っていうか。
私は言う。
「あなた、誰?」
オウマと少女のやり取りを見て笑っている少年に言う。
少女が私を睨んだが、少年は少女を制して言った。
「初めまして。僕はアレイスター……キミと同じ異端者さ。そしてこの子は神器の一つ、聖典『ピカトリクス』……キミの刀と同じ存在だ」
「ご主人様。あんな醜男と一緒にしないでください」
「同感だ。オマエみたいなクソ不細工と一緒なんてたまんねーな」
「あっはっは。仲良くなれるといいねぇ」
「……で、何か用?」
私はまだ警戒している。
いきなり現れた理由。それを知らないと信用できない。
少年……アレイスターは、楽しそうに言った。
「ああ、この子が『私と同じ気配がする』っていうから来ただけさ。キミの人生の邪魔をする気はないよ。でもまあ……興味はある。キミの話を聞きたいね。もちろん、僕の話もしよう」
「敵になるかどうかは、話次第ね。いいわ……お茶にしましょうか」
こうして、私は出会った。
今後、幾度となく関わり合いになる少年……アレイスターと。




