アルティニアへ
私たちは、アルティニアへ入った。
領地の境目には国境みたいな町があると思ったけど……特になかった。
アレイスターが「ここからアルティニアだね」と言い、実にあっけなくアルティニアへ。
空を見上げると……薄ぼんやりと、『月』が見える。
「昼間でも見えるのね……月」
「ああ。月は基本、夜に輝く。そして……夜はアルシエノの時間。月が輝いている間、アルシエノは無敵だ」
「へえ……面白いわね」
ワクワクするけど……ハイドが私を見て言う。
「おい、イチゴ」
「わかってる。あなたの敵でしょ……邪魔はしないわ」
「ならいい」
短く言い、ハイドは前へ。
すると、アレイスターが隣に並ぶ。
「近くに、大きな町がある。そこまで行って休もうか」
「そうね。それにしても……国境に町があると思ったのに、何もないわね」
「まあ、避けたしね」
「……え、避けたの?」
「もちろん。国境は異端者官が常駐してる。まあ、見つかれば面倒だしねぇ。力で通り抜けることもできるけど、そんな野蛮なことせずに、普通に通り抜ければそれでいいと思ってね」
「…………」
「おや、不満かい?」
「……別に」
まあ、いいけど……アレイスターに案内させたからしょうがない。
そろそろ湯舟に浸かりたいとかあったけど、まあいいわ。
「ふふふ、次の町は大きいから、美味しい食事も、お風呂も楽しめるよ」
「……あっそ」
心読まれた気がする……なんかムカつくわね。
◇◇◇◇◇◇
アレイスターの言う通り、大きな町があった。
さっそく入る。神器の三人は人型を解除し、私たちが装備した。
三人で町に入り、まずは宿を確保。
「さ~て、僕はお買い物に行こうかな。ハイドくんはどうする?」
「……情報収集だ。ここはすでに、『火星』のアイレースが管理する領地なんだろ。評判とか、アルシエノのことがわかるかもしれねえ……イチゴは?」
「……好きにさせてもらうわ」
二人は宿を出て行った。
私は自分の部屋に入り、鍵をかけ服を脱ぐ。
浴室付きの部屋でよかった。浴槽に湯を張り、シャワーを全開にして浴びる。
「……はぁ」
気持ちいい。
石鹸で身体と髪を洗い、少し熱めにした湯舟に浸かる。
オウマも、刀のまま湯舟に沈めると、心地よさそうな声を出す。
『ぉぉぉ~……最高だぜ』
「ええ。あの二人には言いたくないけど……お風呂、毎日入りたいわ」
たっぷりとお風呂を満喫し、新しい下着と服を着た。
洗濯物を宿屋に預けると洗ってもらえるというので預け、私はオウマを腰に差し宿を出る。
お腹が空いた……ハイドは情報収集するって言ってたし、私も少し協力しようかしら。
私は町を歩き、いい雰囲気の喫茶店に入り、軽食を注文。
料理を運んで来た少女に聞く。
「あの、質問していいかしら」
「はい? なんでしょうか。あ、サンドイッチはおかわりできますよ」
「ええ、ありがとう。サンドイッチじゃなくて……そうね、『火星』のアイレースについて、聞いていい?」
そう言うと、少女は驚いたように言う。
「まあ、ダメですよ呼び捨てなんて。神であるアイレース様のこと、呼び捨てにしちゃ」
「え、ええ……ごめんなさい。それで、アイレース……様について」
「この大地の神様ですね。最近、『月の巫女』アルシエノ様に信託を授けたそうです。さらに、『月』という大きな星が力をくれると」
「……どういうこと?」
「アルシエノ様は、月の巫女であり、アイレース様の従者であり、この大地の人々を導く存在なんです。この大地に住まう人たちはみんな、アルシエノ様が興した『月の監視者』に入信していますよ」
「月の監視者……?」
「ええ。月に祈り、願う人々たちの集まりです。毎晩、町の中央で祈りを捧げるヒトたちで溢れるんですよ」
「……異端審問官は、何も言わないの?」
「あはは。言いませんよ。そもそも、アルシエノ様はアイレース様の従者ですし、天上人よりも位の高い人間ですからね」
「なるほどね……」
夜、町の中央で祈りを捧げる……ね。
なんだか怪しいわ。これは……確認しないといけないわね。
◇◇◇◇◇◇
宿に戻ると、ハイドとアレイスターが戻っていた。
ハイドが「オレの部屋で話そうぜ」というので、ハイドの部屋へ。
オウマ、トリス、マキナも人型になり、ハイドは話し始めた。
「アルシエノ。あいつ……ここでは月の巫女とか言われて、宗教組織を作ったみてぇだ」
「しかも、バックには『八極星』の一人。普通に考えたら、異端審問官もグルと考えていいねぇ。『月の監視者』だっけ? みんな話していたから、情報収集することもなくいろいろわかったよ」
「……私も同じ。今夜、町の中央で祈りを捧げるらしいわ」
「……一度、行くしかねぇな」
ハイドは言うと、私は頷いた。
アレイスターは肩をすくめるだけ。相変わらずわかりにくいやつ。
というわけで夜、私たちは町の中央広場へ。
宿屋からほど近い場所だから移動は楽だけど……宿を出て驚いた。
「……すごい人ね」
「すごいねぇ。見てよ、老若男女問わずだ。この時間、仕事を終えた人たちは全員ではないにしろ、酒場でお酒とか飲むものじゃないかい? でも、若い男も女もみんな、中央広場を目指している」
アレイスターの言う通りだ。
人の流れに乗って進む途中、飲食店や酒場もあったけど……誰もいなかった。
みんな、町の中央を目指している。
そして……町の中央には祭壇が設けられ、人々が全員跪いていた。
「……なんだ、この光景」
「いやはや、宗教だねぇ」
立っていると目立つので、私たちも三段から離れた場所で跪いている。
すると、私たちの前にいる人が嬉しそうに喋っていた。
「聞いたか!! 今日、この町に『月の巫女』様が降り立つそうだ」
「本当か!? おお、それはすごいな!!」
「──……!!」
ハイドが目を見開き、歯を食いしばる。
「馬鹿なことはしちゃダメだよ~? 気持ちはまあ、理解できるけどねえ」
「……うるせぇな」
アレイスターが釘を差す。アレイスターが言わなければ、私が言うつもりだった。
そして……月が、眩く輝きだす。
「巫女、聖女、降臨!!」
誰かが叫ぶ。
すると、薄紫色の光が周囲を包み、月も淡く薄紫に輝いた。
そして……光の中から、二人の少女が現れた。
「巫女、アルシエノ様!! 聖女、ムーンライト様!!」
アルシエノ。
私たちと同じ十六歳くらいの女の子だった。
薄紫色のロングヘア、淡い紫色のワンピースに法衣を着て、微笑を浮かべている。
もう一人は、十歳ほどの女の子だった。濃い紫色の肩にかかる程度の髪に、豪華な紫色の法衣を纏っている。アルシエノと違い、こちらは無表情だった。
「皆さん、こんばんわ」
アルシエノは、にっこりと微笑んだ。
私はハイドを見る。
「…………ッッッ」
食いしばった口から血が流れ、青筋を浮かべ、握りしめた拳からも血が出ていた。
アレイスターが「ああ、こりゃ無理かなあ」と小さく呟いたのが聞こえた。
まずい──……そう思い、ハイドに手を伸ばそうとしたが。
「───……アルシエノ!!」
手遅れだった。
ハイドは立ち上がり、とんでもなく通る声で叫んだ。
アルシエノは「あれ?」と首を傾げ、嬉しそうに微笑む。
「ハイドじゃない!! あは、こっちに来てたんだ~!!」
「アルシエノ……」
「ふふ、久しぶりだねぇ。元気にしてた? ああ……それとも」
「アルシエノ……ッッ」
アルシエノは、毒蜂みたいな笑みを浮かべて、甘ったるい声で言う。
「わたしのこと、憎んでるぅ?」
「アルシエノぉぉぉぉぉぉぉぉぉああああああああああああ!!」
黄金の光が爆ぜ、変身したハイドが、足から炎を噴射してアルシエノに殴りかかった。
止める間もなかった。近くに異端審問官たちがいたけど、ハイドには関係なかった。
「あは、ムーンライト」
「ん」
爆音が響いた。
アルシエノは、手にした錫杖でハイドの拳を受け止めていた。
私は驚いた……あんな細腕で、バカげた威力をもつハイドの拳を受け止めたのだ。
アルシエノは、薄紫色の光を纏っていた。
「ふふ、ハイドの神器……強くなったねぇ。初めて見た時は、もっと弱弱しかったのに。ちゃんと変身できるようになったんだぁ」
「黙りやがれぇぇぇ!! なんで、なんで親父を、母さんを殺した!! なんで……」
周囲はパニックになった。
異形と化したハイドに怯え、人々が逃げ惑う。
私は巻き込まれないよう、近くの家の屋根に飛び乗る。
アレイスター……あれ、いない。まあいいわ。
『どうする、イチゴ』
「これは、ハイドの戦い。私は……」
見えたのは、ハイドに向かう異端審問官。
その前に立ちふさがり、刀を抜いた。
「こっちを始末するわ」
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
アルシエノは、錫杖を弄びハイドに言う。
「ねえ、ハイド。わたしね……夜は無敵なの」
「あ?」
「この『月神鍵ペルセフォネ』は、月の力を吸収して、わたしの力にするの。つまり……」
アルシエノの身体を、薄紫色の光が包む。
法衣が変わり、口元と片目を隠す仮面を被る。神秘的な仮面だった。
変身。神器を身に纏う姿である。
「ふふ、久しぶりの再会……楽しもっか」
「上等だ」
ハイドとアルシエノ。幼馴染の戦いが始まった。




