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剣の存在しない魔法世界で、私だけが「斬る」という概念を持っている~刀姫転生、世界法則を一太刀で否定する~  作者: さとう
第三章

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アルティニアへ

 私たちは、アルティニアへ入った。

 領地の境目には国境みたいな町があると思ったけど……特になかった。

 アレイスターが「ここからアルティニアだね」と言い、実にあっけなくアルティニアへ。

 空を見上げると……薄ぼんやりと、『月』が見える。


「昼間でも見えるのね……月」

「ああ。月は基本、夜に輝く。そして……夜はアルシエノの時間。月が輝いている間、アルシエノは無敵だ」

「へえ……面白いわね」


 ワクワクするけど……ハイドが私を見て言う。


「おい、イチゴ」

「わかってる。あなたの敵でしょ……邪魔はしないわ」

「ならいい」


 短く言い、ハイドは前へ。

 すると、アレイスターが隣に並ぶ。


「近くに、大きな町がある。そこまで行って休もうか」

「そうね。それにしても……国境に町があると思ったのに、何もないわね」

「まあ、避けたしね」

「……え、避けたの?」

「もちろん。国境は異端者官が常駐してる。まあ、見つかれば面倒だしねぇ。力で通り抜けることもできるけど、そんな野蛮なことせずに、普通に通り抜ければそれでいいと思ってね」

「…………」

「おや、不満かい?」

「……別に」


 まあ、いいけど……アレイスターに案内させたからしょうがない。

 そろそろ湯舟に浸かりたいとかあったけど、まあいいわ。


「ふふふ、次の町は大きいから、美味しい食事も、お風呂も楽しめるよ」

「……あっそ」


 心読まれた気がする……なんかムカつくわね。


 ◇◇◇◇◇◇


 アレイスターの言う通り、大きな町があった。

 さっそく入る。神器の三人は人型を解除し、私たちが装備した。

 三人で町に入り、まずは宿を確保。


「さ~て、僕はお買い物に行こうかな。ハイドくんはどうする?」

「……情報収集だ。ここはすでに、『火星』のアイレースが管理する領地なんだろ。評判とか、アルシエノのことがわかるかもしれねえ……イチゴは?」

「……好きにさせてもらうわ」


 二人は宿を出て行った。

 私は自分の部屋に入り、鍵をかけ服を脱ぐ。

 浴室付きの部屋でよかった。浴槽に湯を張り、シャワーを全開にして浴びる。


「……はぁ」


 気持ちいい。

 石鹸で身体と髪を洗い、少し熱めにした湯舟に浸かる。

 オウマも、刀のまま湯舟に沈めると、心地よさそうな声を出す。


『ぉぉぉ~……最高だぜ』

「ええ。あの二人には言いたくないけど……お風呂、毎日入りたいわ」


 たっぷりとお風呂を満喫し、新しい下着と服を着た。

 洗濯物を宿屋に預けると洗ってもらえるというので預け、私はオウマを腰に差し宿を出る。

 お腹が空いた……ハイドは情報収集するって言ってたし、私も少し協力しようかしら。

 私は町を歩き、いい雰囲気の喫茶店に入り、軽食を注文。

 料理を運んで来た少女に聞く。


「あの、質問していいかしら」

「はい? なんでしょうか。あ、サンドイッチはおかわりできますよ」

「ええ、ありがとう。サンドイッチじゃなくて……そうね、『火星(マーズ)』のアイレースについて、聞いていい?」


 そう言うと、少女は驚いたように言う。


「まあ、ダメですよ呼び捨てなんて。神であるアイレース様のこと、呼び捨てにしちゃ」

「え、ええ……ごめんなさい。それで、アイレース……様について」

「この大地の神様ですね。最近、『月の巫女』アルシエノ様に信託を授けたそうです。さらに、『月』という大きな星が力をくれると」

「……どういうこと?」

「アルシエノ様は、月の巫女であり、アイレース様の従者であり、この大地の人々を導く存在なんです。この大地に住まう人たちはみんな、アルシエノ様が興した『月の監視者』に入信していますよ」

「月の監視者……?」

「ええ。月に祈り、願う人々たちの集まりです。毎晩、町の中央で祈りを捧げるヒトたちで溢れるんですよ」

「……異端審問官は、何も言わないの?」

「あはは。言いませんよ。そもそも、アルシエノ様はアイレース様の従者ですし、天上人よりも位の高い人間ですからね」

「なるほどね……」


 夜、町の中央で祈りを捧げる……ね。

 なんだか怪しいわ。これは……確認しないといけないわね。


 ◇◇◇◇◇◇


 宿に戻ると、ハイドとアレイスターが戻っていた。

 ハイドが「オレの部屋で話そうぜ」というので、ハイドの部屋へ。

 オウマ、トリス、マキナも人型になり、ハイドは話し始めた。


「アルシエノ。あいつ……ここでは月の巫女とか言われて、宗教組織を作ったみてぇだ」

「しかも、バックには『八極星(ベツレヘム)』の一人。普通に考えたら、異端審問官もグルと考えていいねぇ。『月の監視者』だっけ? みんな話していたから、情報収集することもなくいろいろわかったよ」

「……私も同じ。今夜、町の中央で祈りを捧げるらしいわ」

「……一度、行くしかねぇな」


 ハイドは言うと、私は頷いた。

 アレイスターは肩をすくめるだけ。相変わらずわかりにくいやつ。

 というわけで夜、私たちは町の中央広場へ。

 宿屋からほど近い場所だから移動は楽だけど……宿を出て驚いた。


「……すごい人ね」

「すごいねぇ。見てよ、老若男女問わずだ。この時間、仕事を終えた人たちは全員ではないにしろ、酒場でお酒とか飲むものじゃないかい? でも、若い男も女もみんな、中央広場を目指している」


 アレイスターの言う通りだ。

 人の流れに乗って進む途中、飲食店や酒場もあったけど……誰もいなかった。

 みんな、町の中央を目指している。

 そして……町の中央には祭壇が設けられ、人々が全員跪いていた。


「……なんだ、この光景」

「いやはや、宗教だねぇ」


 立っていると目立つので、私たちも三段から離れた場所で跪いている。

 すると、私たちの前にいる人が嬉しそうに喋っていた。


「聞いたか!! 今日、この町に『月の巫女』様が降り立つそうだ」

「本当か!? おお、それはすごいな!!」

「──……!!」


 ハイドが目を見開き、歯を食いしばる。


「馬鹿なことはしちゃダメだよ~? 気持ちはまあ、理解できるけどねえ」

「……うるせぇな」


 アレイスターが釘を差す。アレイスターが言わなければ、私が言うつもりだった。

 そして……月が、眩く輝きだす。


「巫女、聖女、降臨!!」


 誰かが叫ぶ。

 すると、薄紫色の光が周囲を包み、月も淡く薄紫に輝いた。

 そして……光の中から、二人の少女が現れた。


「巫女、アルシエノ様!! 聖女、ムーンライト様!!」


 アルシエノ。

 私たちと同じ十六歳くらいの女の子だった。

 薄紫色のロングヘア、淡い紫色のワンピースに法衣を着て、微笑を浮かべている。

 もう一人は、十歳ほどの女の子だった。濃い紫色の肩にかかる程度の髪に、豪華な紫色の法衣を纏っている。アルシエノと違い、こちらは無表情だった。

 

「皆さん、こんばんわ」


 アルシエノは、にっこりと微笑んだ。

 私はハイドを見る。


「…………ッッッ」


 食いしばった口から血が流れ、青筋を浮かべ、握りしめた拳からも血が出ていた。

 アレイスターが「ああ、こりゃ無理かなあ」と小さく呟いたのが聞こえた。

 まずい──……そう思い、ハイドに手を伸ばそうとしたが。


「───……アルシエノ!!」


 手遅れだった。

 ハイドは立ち上がり、とんでもなく通る声で叫んだ。

 アルシエノは「あれ?」と首を傾げ、嬉しそうに微笑む。


「ハイドじゃない!! あは、こっちに来てたんだ~!!」

「アルシエノ……」

「ふふ、久しぶりだねぇ。元気にしてた? ああ……それとも」

「アルシエノ……ッッ」

 

 アルシエノは、毒蜂みたいな笑みを浮かべて、甘ったるい声で言う。


「わたしのこと、憎んでるぅ?」

「アルシエノぉぉぉぉぉぉぉぉぉああああああああああああ!!」


 黄金の光が爆ぜ、変身したハイドが、足から炎を噴射してアルシエノに殴りかかった。

 止める間もなかった。近くに異端審問官たちがいたけど、ハイドには関係なかった。


「あは、ムーンライト」

「ん」


 爆音が響いた。

 アルシエノは、手にした錫杖でハイドの拳を受け止めていた。

 私は驚いた……あんな細腕で、バカげた威力をもつハイドの拳を受け止めたのだ。

 アルシエノは、薄紫色の光を纏っていた。


「ふふ、ハイドの神器……強くなったねぇ。初めて見た時は、もっと弱弱しかったのに。ちゃんと変身できるようになったんだぁ」

「黙りやがれぇぇぇ!! なんで、なんで親父を、母さんを殺した!! なんで……」


 周囲はパニックになった。

 異形と化したハイドに怯え、人々が逃げ惑う。

 私は巻き込まれないよう、近くの家の屋根に飛び乗る。

 アレイスター……あれ、いない。まあいいわ。


『どうする、イチゴ』

「これは、ハイドの戦い。私は……」


 見えたのは、ハイドに向かう異端審問官。

 その前に立ちふさがり、刀を抜いた。


「こっちを始末するわ」


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 アルシエノは、錫杖を弄びハイドに言う。


「ねえ、ハイド。わたしね……夜は無敵なの」

「あ?」

「この『月神鍵ペルセフォネ』は、月の力を吸収して、わたしの力にするの。つまり……」


 アルシエノの身体を、薄紫色の光が包む。

 法衣が変わり、口元と片目を隠す仮面を被る。神秘的な仮面だった。

 変身。神器を身に纏う姿である。


「ふふ、久しぶりの再会……楽しもっか」

「上等だ」


 ハイドとアルシエノ。幼馴染の戦いが始まった。

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