得体の知れない何か
ハイドは、テントの設置を終えた後、いい香りのする方を見た。
銀色のテーブルには様々な料理が並んでおり、その豪華さに顔をほころばせる。
「おお、美味そうだな」
「トリスの料理は絶品さ。道中、食事に関しての心配はないよ」
「……お前じゃなくてトリスに感謝だな。っと……イチゴのヤツ、まだ水浴びか?」
「そうじゃない? 彼女、髪の毛長いし、洗うのも大変だねぇ」
アレイスターは適当に言い、手から銀血を分泌……全員分の椅子を作り出した。
ハイドとしては、アレイスターの分泌液で作られた椅子を気持ち悪いと思っていたが、マキナが何も言わずに座ったこと、旅の荷物を少なくするために椅子など用意していないことを考え、大人しく座る。
ハイドは話題を変えて言う。
「ところで、ここはどの辺だろうな。地図……」
「ここは、アルティニアのすぐ近く。あと半日も歩けば、『火星』アイレースの管理する領地だね」
「……地図、頭に入ってんのか?」
「当然。歩いた距離や地形から、僕たちがどの位置にいるかも把握しているよ」
「さすがご主人様。素晴らしいですわ」
トリスがうっとりして笑顔を浮かべる。
マキナは食事をジーッと見て微動だにしない。
そして、アレイスターが空を見上げ……硬直した。
「…………わお」
「あ? なんだ、どうした」
「ご主人様?」
「?」
ハイドが顔をしかめ、トリスが首を傾げ、マキナはヨダレを拭いてハイドを見た。
アレイスターは口元を歪めて笑みを浮かべ、帽子を取る。
「やはり……この世界は、面白いねえ」
そして、イチゴが戻って来た。
オウマも一緒であり、長い髪はまだ濡れている。着替えも半端なのか、シャツ一枚にハーフパンツだけのスタイルだが、本人は気にしていない。
イチゴは、空を指差した。
「ねえ、あんなのあった?」
「「「?」」」
ハイド、トリス、マキナが空を見上げ……その動きを止めた。
「まあ、あれは……なんですの?」
「僕にも理解できないね。うーん、不思議だ」
「私も知らないわ。というか……大丈夫なの?」
「……俺も知らねぇ」
トリス、アレイスター、イチゴ、オウマは『それ』が何か理解できなかった。
だが……ハイド、マキナは違った。
「……クッソが、あれは……アルシエノの力だ」
「……ハイド」
マキナが、ハイドの袖を掴む。
そして、上空に浮かぶ巨大な『丸い石』を見て言った。
「あれは『月』……夜に輝く、巨大な星だ」
「つき? 何それ……」
「……なるほどねえ。つまり、あれは……キミの幼馴染、異端者の神器だね?」
「ああ。正確には、あの『月』はアルシエノの世界にあった物だ。アイレースがこの世界に持って来たのか……アルシエノの神器は、あの『月』の力を利用できる」
ハイドは、憎々し気に空を見上げ、拳を強く握りしめた。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
私は、空を見上げる。
「……つき」
月。聞いたことがない。
夜空に輝く『星』はわかる。だが……あんな巨大な『星』……じゃなくて『月』は初めて見た。
ハイドの幼馴染、アルシエノの神器は、あの『月』の力を操れるらしい。
「というか、これまで何度も夜を経験したけど……あんなの見たことないわ」
「そりゃそうさ。この先は『火星』アイレースの管理する領地。知らないから説明するけど、『八極星』の管理する領内は、環境が激変する。あの月も、アルティニアだけの物だろうねぇ」
「そうなのね……」
みんなの視線は月へ向く。
「というか、あれから力を? どうやって?」
「知るかボケ」
トリスの問いを適当に返すオウマ。
互いににらみ合ってるが私は無視。我慢できなくなったのか、マキナはご飯を食べ始める。
私もお腹空いた……椅子に座り、串焼きを手に取り食べる。
「とりあえず……今は食事ね。お腹空いたわ」
「もぐもぐ、おいしい」
「だな。とりあえず、あれは浮いてるだけで害はねぇ。問題は……ああ今はいい」
「では、食事にしよう。トリス」
「はい、ご主人様」
「メシだメシ。ん? おいアレイスター、酒あるなら飲ませろ!!」
アレイスター、どこから出したのかワインを飲んでいる。
オウマが欲しがり、トリスが「誰があなたなんかに」とボトルを死守。ハイドとマキナは無視して食事を楽しみ、私も串焼きを食べる。
「今度の敵は、月……ふふ、退屈しないわね」
◇◇◇◇◇◇
翌日、私たちは森を出て、アルティニアに向かって歩き出した。
私が先頭、意外なことに隣にはマキナ。
「…………」
「……なに?」
「ううん、髪の毛、綺麗だなって」
「そ、そう? ありがとう……」
神器の一つとはいえ、見た目は十歳くらいの子供……前の世界でも、常に戦いに明け暮れていたし、子供なんて怯えて近づいてこなかった。
マキナは、私をジロジロ見る。
「イチゴ、って呼んでいい?」
「いいけど……私とおしゃべりしても、面白くないわよ。あっちのお姉さんの方が、優しいし楽しいわよ」
「うん。でも、イチゴとおしゃべり、全然してないし……だめ?」
「い、いいけど」
どうしよう。
ハイドを見ると、意外なことにオウマとおしゃべりしていた。
「オマエ、どこまで硬い金属作れる?」
「……オレは普段、オレの世界にあった『アルティナイト』って鉱石をイメージしてる。オレの世界では最も硬い材質で、うちの金槌がそれで作られてた。身近にあったからイメージしやすくてな。でも……まさか、イチゴに傷付けられるとは思わなかったぜ」
「オマエ、やるな。不完全とはいえ、俺の刃を受けても傷だけで済むなんて」
「そうか? 硬度に自信はあったが、お前の一撃、見事だった」
話、弾んでるわね……アレイスターは。
「ふふん」
こっち見てニヤニヤしてる。トリスに手助けさせないためか、本の状態にして手に持ってるし。
「イチゴ、お話しよ」
「……そうね。じゃあマキナ、あなたの力について」
「チカラ? わたし、ハイドのイメージをカタチにしてるだけ」
「えっと……」
キカイ、だったかしら……そのことを聞きたかったんだけど。
神器といっても、オウマやトリスと全然違うのね。
「じゃあ……あなたたち以外の神器のこと、知ってる?」
確か、神の作った神器は七つ。
六天魔王、聖典ピカトリクス、機神デウスエクスマキナ、そしてアルシエノの神器……あと三つ。
「わかんない。神器、作られたころ、意識なかったから」
「そうなの?」
「うん。でも、みんなこの世界にいるよ」
「……え?」
「わたし、わかるの。神器、この世界にある。みんな所有者といる」
「…………」
この世界に、残り三人の神器所有者……か。
「……ねえ」
「ん、なんだ」
「なにかな?」
私は、アレイスターとハイドを呼び止める。
この二人……ハイドはともかく、アレイスターは仲間なんて呼べないけど。
「私たちみたいな神器の所有者があと三人……もし、仲間にできそうなら仲間にしない? もしこの先で、『火星』のアイレースと戦う前に出会えれば、だけど」
「「…………」」
「な、何よ」
「いや……お前がそんなこと言うなんてな」
「意外だねぇ」
「う、うるさいわね……で、どうなの?」
「別に、オレは構わないぜ」
「僕もいいよ。でも……敵になる可能性もある、そのことを忘れないように」
「わかってるわ」
アルティニアまで、もう少し。




