鋼と歯車
ハイドは、両腕を鋼の巨腕で覆い、両足に噴射装置付きのブーツを履き、靴元を大きなマスクで覆い、片目に金属のモノクルを装備していた。
神器を纏う。それぞれ姿、能力は異なるが、ハイドの変身は間違いなく重量級だった。
だからこそ、攻撃力がある分、スピードは落ちる。
「ほらほらほらほらほらああぁァァァァァァァァァァ!! 遅い遅い遅い!!」
「……っぐ」
ハイドは現在、両腕を交差し、天力の込められた鞭の乱舞を受けていた。
ダメージはほぼない。だが、ほぼないだけで、蓄積はする。
腕が欠ける。だが、自己修復する。
その速度は遅い……いずれ、腕が破壊されるかもしれない。
「あっはっはっはっは!! 遅いわねぇ、この一級異端審問官パラシエルの鞭、受け続けたら最後、形が無くなるまで止まらない!!」
「っ!!」
パラシエルは、翼を展開し高速移動。そして、移動しながら鞭を乱舞し、ハイドの全身を叩く。
「『パニッシュ・バニッシュ』!!」
「う、ぉぉぉぉぉ!?」
四方から放たれる鞭。
背中、両足と守り切れない個所に鞭が命中。常人なら触れた個所が消滅するが、神器の所有者である恩恵なのか、肉がそげて血が噴き出すだけで済んだ。
『ハイド!!』
「駄目だマキナ、大丈夫だ!!」
『でも、でも』
「オレを信じろ、お前はそのままでいろ!!」
「……?」
パラシエルは鞭を止め、少し離れた位置に着地。
一瞬だけ──……背筋が凍り付いた。
『……よくも、ハイドを』
「ダメだ、ダメだマキナ、ダメだ、大丈夫、だから……う、っぎ」
ベキベキと、ハイドの左腕が勝手に動いていた。
ゾッとするような、異形の左腕。
金属を寄せ集めたような、歪な左腕。
ベキベキバキバキと、巨大化していく。
「マキナ、ダメだ……!!」
『「機神」』
「な、なに、これ……」
左腕だけで、三十メートル以上の大きさだった。
五指の開いた巨大で歪な左手が、唖然とするパラシエルに向かって振り下ろされる。
『「悪魔の左手」』
「っっ!!」
パラシエルは全力で回避。観客席に巨大な左手が叩きつけられ、客席が破壊された。
左手は、ハイドの意思と関係なく動く。バキバキと観客席を握り砕き、パラシエルを探し求めて暴れ狂う。
どう見ても、ハイドに制御できていなかった。
「マキナ、大丈夫、大丈夫だ。オレが守るから、お前のこと守るから!! だから、頼む……オレに任せてくれ、マキナああああああああああ!!」
『…………』
左手が止まり、機械部分が消滅し……初期と同じ大きさになる。
ハイドは汗だくで左手を抑え、パラシエルは真っ青になりハイドと距離を取っていた。
「お、お前……その力、制御できていないの?」
「……そうだよ、クソが。マキナはな、子供なんだよ……不安定で、ちょっとしたことで爆発しちまう。ああくそ……感情が爆発すると、制御できねえ」
「……異端者。そして、神器」
パラシエルは、ユピテルを見る。
ユピテルは「おお~」と、イチゴと対峙したまま今のハイドを見て驚いていた。
「マキナ、ゆっくり寝ててくれ。あとはオレがやるからよ」
ハイドの右腕から無数の『杭』が飛び出し、紫電を帯びる。
そして、左腕が『筒』になる。
「『機神電撃』と『機神砲』だ。いくぜ」
「……っ」
パラシエルは、一気に劣勢となった。
先ほどの『爆発』……ハイドは「マキナが寝た」というが、敵であるハイドの言葉など信じるわけがない。そして、今の『爆発』の規模は恐ろしかった……ハイドの言葉で止まったようなものだが、もしハイドの言葉が届かなければ、あの腕はさらに巨大化し、闘技場を潰していたかもしれない。
下手に攻撃すれば、どうなるかわからない。
(やるなら一撃。でも、私の鞭はダメージを蓄積させて倒すのに特化してる。くそ、こいつが異端者で、神器持ちじゃなかったら天力で消滅させられるのに……あ)
天力。
一つだけ、方法があった。
(頭に触れて、直接天力を流し込めば……即死させられる)
即死させれば、暴走の危険はないかもしれない。
持ち主を失った神器が暴走する可能性でもゼロではない。だが、こうして考え続けるよりも可能性はあった。
パラシエルは決意する。
「おらぁ!!」
「っ!!」
ブーツから火を噴き急接近し、紫電を帯びた腕で殴る。
パラシエルは回避するが、ハイドの左腕から魔力の弾丸が発射され、パラシエルは鞭を振って叩き落とす。
近接、中距離とバランスのいい戦法だ。この戦いこそ、ハイド本来の戦い方なのかもしれない。
パラシエルは攻撃を回避しつつ言う。
「貴様ら、こんなことをして……どうなるかわかっているのか!!」
「知るか!! ついでに聞いておく、お前『火星』がどこにいるか知ってるか!!」
「何……?」
「居場所だよ、どこにいる……!!」
ガシャン!! と、右腕を変形させ、巨大な拳に戻す。
そして、右腕から炎を噴射し、足からも火を噴射し跳躍。そのまま殴りかかるが躱され、地面に拳が激突し、爆音が響いた。
目をギョロリとパラシエルに向け、ハイドは言う。
「オレは復讐者……『火星』のアイレースと、そいつに加担する異端者、アルシエノを殺す。言えよ……奴らの居場所を!!」
「…………」
異端者は、狂っている。
パラシエルは、天上界でそう習った。
だが、狂っているとはいえ、人間であることに変わりない。いかに神の創造した神器を手にしようと、絶対的な存在である天上人には敵わないと思っていた。
だが……今、こうして対峙してわかった。
(……こいつは、仕留める)
危険だと思った。
気付けば、スイエルともう一人の異端者がいない。それに、この場で最も異様な殺意を放つ漆黒の女がパラシエルは気になって仕方ない。
ハイドを見て、パラシエルは覚悟を決めた。
「……『火星』のアイレース様について、知りたいようね」
「ああ」
「悪いけど、教えるわけにはいかない。あなたの力は、『八極星』に届くかもしれない……ここで殺す」
パラシエルは翼を広げ、天力を全開にする。
覚悟を決めた者の目。ハイドも覚悟を決めたのか、左腕のアーマーをパージし、全てを右腕に集中させ、さらに変形……黄金の雷を纏う。
「言わせてやるよ、テメェをブチのめしてな」
「やってみなさい……!!」
パラシエルは飛び、鞭を全力で振り上げ、ハイドに向かって振り下ろす。
全天力を込めた一撃。触れたら常人では瞬くもなく消滅する。
ハイドは、パラシエルに向かって全力で右腕を振り抜いた。
「『機神』!!」
消滅の力、神器の力が真正面から激突する。
互いに拮抗する。だが……その拮抗も、五秒と持たなかった。
「『黄金の全力怒涛拳』!!」
鞭が爆ぜ、拳がパラシエルに激突。
パラシエルは上空に吹き飛ばされ、そのまま落下……地面に激突した。
翼がボロボロになり、腕もおかしな方向に曲がっていた。
だが、生きていた。
変身を解除したハイドが、パラシエルの胸倉を掴んで起こし、顔を近付けて言う。
「言え、どこだ」
「……ふ、ふふふ」
ズギュル!! と、水っぽい音がして、パラシエルの口からドロッとした血を吐き出す。
「魂は、神の、もとに……せいぜい、あがく、こと、ね」
パラシエルは、自ら心臓を天力で潰し、事切れた。
死体が青い炎に包まれ、灰になり……ハイドの手には何も残らなかった。
ハイドは拳を握りしめ、呟く。
「あがくぜ。復讐を果たすまでな……」




