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剣の存在しない魔法世界で、私だけが「斬る」という概念を持っている~刀姫転生、世界法則を一太刀で否定する~  作者: さとう
第二章

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神器と天上人

 イチゴがユピテルに『杖』を向け攻撃した。

 見知らぬ二人が飛び込んできた。

 護衛の天上人が武器を構え、イチゴたちに向けた。

 観客たちは困惑六割、ただ事ではないと感じた者が三割、残りの一割は危機を察知したのか席を立ち出口へ向かっていた。

 警備部隊総隊長である魔法騎士、ドンバンは額から一筋の汗を流した。


(姫様が言ってたのは、このことか……!!)


 ◇◇◇◇◇◇


 数日前、ドンバンは第一王女であるシエスタに呼び出された。


「当日の警備兵を二倍に増やし、想定外の事態に備えてください」

「……姫様、それはどういう」

「当日、何かが起きるかもしれません。確定ではないので、詳しくは言えませんが……天上人が敵意を向けた場合、闘技場内は混乱に陥ります」

「……え」

「いいですか。ドンバン」


 シエスタからは、威厳が感じられた。

 皇帝を前にしたような威圧感。普段はおっとりしており、妹に優しい、どこか頼りない少女にしか見えないシエスタが、椅子に座り跪くドンバンを見下ろし、はっきりした声で言う。


「戦闘の想定は必要ありません。観客たちをいかに早く会場内から脱出させ、避難させるか。警備兵の行動はそれだけです。避難経路の再確認、新たなルートの設定、警備兵たちにそれらを徹底させ、当日に備えなさい」

「し、しかし姫様」

「ドンバン」

「は、はい……」

「何よりも大事なのは、国民の命です。何かが起きてからの行動では遅い。これは命令です」


 皇帝の勅命を受けた時のような、重々しい言葉だった。

 ドンバンは、頭を下げた。


「ははぁ!! 仰せのままに」

「よろしくお願いします」


 女皇帝。その言葉がドンバンの胸に、いつまでも残り続けるのだった。

 数日前のことを思いだし、ドンバンはすぐに命令を遂行する。

 傍仕えの騎士に命じる。


「事前通達した通り、観客たちの避難を三十分以内に終わらせるぞ!! 避難経路全てを使い観客の誘導、避難所への誘導だ!! 全員、急げ!!」

「「「「「はっ!!」」」」」


 騎士たちは、ドンバンの命令に従い一斉に動き出す。

 すでに、会場内では出口に向かって走り出す観客もいた。


「押さないで、こちらへ!!」

「皆さん、こちらに移動してください!!」

「こちらからも安全なルートがあります。押さないで、押さないで!!」


 騎士たちの迅速な対応で、出口が詰まらずスムーズな脱出を開始する国民たちだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 アレイスターはスイエルと、ハイドはパラシエルと対峙した。

 イチゴは微動だにしないまま、ユピテルと向かい合っている。

 アレイスターは、観客の動きを見て感心していた。


「おお~、迅速だねぇ。三十……いや、十五分以内に観客たちは脱出できそうだ」

「『(オン)』!!」


 アレイスターが右腕を銀血で覆い、スイエルのトンファーを受け止めた。

 スイエルは舌打ちし、翼を広げ距離を取る。

 頭頂部のリングが淡く発光し、両手に持つトンファーも淡く輝いた。

 天力。天上人が持つ消滅の光。だが、アレイスターの銀血に触れても消滅するどころか、傷一つ付かないことに納得できていない。


「貴様……ただの異端者ではないな? オレの天力を弾く、その銀色……それがお前の神器の力か」


 アレイスターは、銀に輝くガイコツのマスクの内側から「はははは」と笑う。

 白いコート、帽子、髑髏の仮面。聖典ピカトリクスの力で変身した『スカルフェイス』は、首を振り、右手を見せつけて来た。

 すると、ドロリした銀色の液体が零れ落ちる。零れた銀血は地面に触れることなく蒸発して消えた。


「これは神器じゃなく、僕の研究成果だよ。その天力というのは興味深いねぇ。完全じゃないけど、ある程度の解析は済んでいるよ」

「何ぃ?」


 解析。

 スイエルは眉を顰める。そして、トンファーをクルクル回転させ構える。


「この力は、神が天上人に与えた超常の力だ。解析だと? たかが人間にそんなこと」

「それだよ」

「……あ?」

「超常の力、神の奇跡、選ばれし者の力……天上人はみんなそう言って、思考すること、探求することを放棄している。これは嘆かわしい」


 アレイスターは肩を竦め、顔に手を当てて首を振る。

 その仕草全てが胡散臭く、同時にスイエルを苛つかせた。


「天力。それは力である以上、原理が存在するはずだ。神という存在がいることは認めよう。神がどういう理論を構築し、その力を天上人に与えたのか? そこにどんな理由があると思う?」

「決まってる。天上人は選ばれた存在だからだ」

「それは違うよ」


 アレイスターは否定する。スイエルの額に青筋が浮かぶ。

 そして、アレイスターは自分の胸に手を当てた。


「それを言うなら、僕ら人間だって神に選ばれた存在じゃないか。そもそも、なぜ神は神器を人間にしか使えないようにしたんだい? きみたち天上人が本当に選ばれた存在なら、神器を使うことだってできる。だが実際……きみたちは、神器に触れることもできないじゃないか」


 スイエルは、何も言い返せなかった。

 アレイスターの言う通りなのだ。

 天上人は、神器に触れることができない。触れた瞬間、拒絶される。

 まるで、触れる資格がないとでも言うように。ヒトの手にあってこその神器とでも言うように。


「……貴様、なぜそのことを知っている」

「実験したからさ」

「……なに?」


 アレイスターは両手を広げ、白いコートをなびかせて言う。


「実験したんだよ。天上人を捕獲し、解剖した。その頭にあるリングの素材、天力の解明、背中の翼、血液、内臓、そして脳……それら全てを研究したのさ。いやあ、面白いことはいくつかわかったよ。きみたち天上人は、完璧じゃない。まるで人間のようだ」

「───ふざけるな!! 貴様ら脆弱な人間と、一緒にするな!!」


 スイエルは気付いていない。いつの間にか戦闘の手が止まり、アレイスターの話術に引き込まれていることに。

 アレイスターは楽しくなってきたのか、両手を後ろで組んで歩き出す。


「同じさ。きみたち天上人は食事もするし排泄もする。睡眠も取るし性欲もある。天上人の世界である天上界でも、夫婦の営みから子供が生まれるんだろう? 天力というのも、種族的特徴にすぎない。つまり、きみたち天上人は進化した人間なのかもしれないね。ああ……むしろ、退化した存在なのかもね」

「な、なに……」

「この地上に降り立った天上人が、大地で生活するにつれて不要な天力と翼をなくし、適応した存在が今の人類……という可能性だってあるのさ。ふふ、そう考えると……きみたち天上人は、僕らの祖先ということになるねぇ。どうだい? 進化した僕らは、きみたちより上の存在かな?」

「ふざ、けるなあああああああああああ!!」


 スイエルの天力が全開となり、薄ぼんやりした淡い輝きが眩しいほど輝く。

 そして、トンファーを回転させ、両手を広げたままのアレイスターに向かって突っ込む。


(天力を全て直接頭にブチ込んでやる!! 頭に喰らえば、こんなやつ!!)


 次の瞬間、スイエルから全ての力が抜け、天力が消滅し、足がもつれて転び地面を滑る。

 そして、アレイスターの足元で停止……全身が震え、かろうじて顔だけ動かせた。

 口が痺れ、動けない。だが、スイエルは言う。


「な、にが」

「ああ、ベラベラお喋りしたのは、キミの注意を僕に完全に向けるためさ。ほら」


 全力で眼球を動かし、見えたのは……アレイスターの真後ろ。右足の踵部分に穴が空いていた。

 足裏から、銀色の液体がドロドロと流れ落ちている。


「銀血を地面に沁み込ませ、キミの後ろまで流して移動させた。そして、そのまま……」


 スイエルのいた場所に、小さな穴が空いていた。

 そこから銀血が飛び出し、スイエルの首に細くなった銀血が刺さり、高濃度の銀血をそのまま注入された。

 常人なら即死。だが、天上人であるがゆえに耐えた。


「いやあ、さっきのおしゃべり、その場しのぎの出鱈目だけど、よかったでしょ? ふふふ、さてさて……ここじゃ戦いの邪魔になるし、移動しようか」


 すると、スイエルの身体が起き上がる。

 全身に激痛が走り、顔を歪ませた。


「ああ、キミの体内に入った銀血を直接操作して身体を操作してるよ。僕、か弱い研究者だからねぇ、担ぐなんて無理だから。さて……あっちの控室に移動しようか」

「……ぇ」


 アレイスターは、髑髏の仮面を半分だけ消し、愉悦に満ちた笑みを見せつけた。


「ああ、もしかしてキミ……これを戦いだと思ってた? ごめんごめん。僕からすれば、これは実験の一つに過ぎないんだ。例えば……キミは魚で、僕が料理人だったとする。暴れる魚を前に、料理人はどうする? もちろん、大人しくさせる。えらを抜いて血抜きして、生かしたまま大人しくさせる。僕もそうする。キミという素材の鮮度を保つために、こうして大人しくさせた。ふふふ……キミの脳をチェックさせてもらうよ。それと、天力についても調査しないと。キミは質がいいから、いろいろわかりそうだ」

「…………」

 

 スイエルは、消えゆく意識の中で悟った。

 アレイスターは、最初から戦いなんてしていない。

 自分の研究欲を満たすためだけに、素材である自分を手に入れようとしていただけだ。

 パラシエルと対峙するハイドも、ユピテルと対峙するイチゴも見ていない。


「では、行こうか」

「…………」


 アレイスターは、一度も振り返ることなく、会場から消えて行った。

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