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剣の存在しない魔法世界で、私だけが「斬る」という概念を持っている~刀姫転生、世界法則を一太刀で否定する~  作者: さとう
第二章

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優勝へ

 戦いは、二回戦、三回戦と続いた。

 私は勝ち続ける。そもそも……正直、戦い足りない。

 そもそも、弱い。

 魔法での戦いがメインだし、強い魔法には詠唱が必要になる。熟練の魔法師は動きながら、牽制しながらの魔法詠唱をするんだけど……私の場合はただ『斬る』だけだし、この世界の人は『切り傷』を知らない。

 鋭利な刃物がないから、突きつけても首を傾げるし、斬られたあとで『なんだこれは!?』みたいな反応になる。

 その時点で、すでに遅い。


「……はあ」

『物足りないってツラだな』

「まあね」


 控室には、私一人しかいない。

 もう、準決勝まで進んだ……あと二回勝てば優勝だ。かなり物足りない。


『そもそも、斬られるってことわかんねーようだし、どうしようもねぇな。斬った時点でオマエの勝ちみたいなモンだし』

「そうなのよね……でも、さすがに準決勝だし、私の『杖』に触れたらダメージを受ける、くらいは理解してると思う。あと二回……私を満足させてくれるかしら」

 

 と、研ぎ澄ませようと目を閉じると……控室のドアが開いた。


「や」

「……おう」


 アレイスターとハイドだ。

 

「……何? というか、ここに入っていいの?」

「あはは。賄賂ってのは便利だねぇ」


 こいつ、守衛に金を握らせてここに来たのね……相変わらずなやつ。

 ハイドは、周囲を警戒しつつ、少し顔を近付けて言う。


「……貴賓室に、『木星』のユピテルがいた。クソ……楽しそうに手を叩いて観戦していたぜ。お前が異端者だって気付いてるはずなのに、どうも気にしてねぇようだ」

「はっはっは。敵とみなしていないのか、暴れたところでどうとでもなると思っているのか」

「……舐められたものね。まあ、いいわ。後悔しても遅いしね」


 小さく息を吐く。

 不思議だけど、この二人と喋って落ち着けた。


「イチゴ、気を付けろ。お前が勝っても負けても、オレはユピテルに勝負を挑むぜ」

「ええ、私も手伝うわ」

「さっき、守衛に賄賂を渡していろいろ聞いたけど……お姫様の命令で、守衛の数はいつもの二倍、避難経路の確認、誘導を徹底的に覚えさせられたみたいだよ。ここで何かが起きても、二万以上の観客は三十分以内には全て避難できるだろうねぇ」

「……いいわ」


 誰かが来る気配。

 ハイドがアレイスターを引っ張り戸棚の影へ。ドアが開き係員が言う。


「イチゴ選手。準決勝の時間です」

「ええ、わかったわ」


 戸棚の影には目を向けず、私は控室を出た。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 ハイドは、胸に下げている歯車のネックレスに言う。


「マキナ、戦いは近い……覚悟はいいな?」

『うん。ハイド……気を付けてね。わたし、がんばるから……ハイド、怪我しないで』

「安心したまえ。医師である僕が、怪我をした場合ハイドくんを治療すると約束しよう」

『ほんと?』

「ああ、約束だ。ふっふっふ」

「……いい話なんだろうけどよ、お前マジで胡散臭いぞ」

「おやおやおや、失礼だねぇ。異端者の身体を調べたいとか、神器の所有者を調べたいとか、そんな下心があると思っているのかい?」

「ああ」


 即答である。

 アレイスターは苦笑。すると、カバンに入れているトリスが言う。


『ご主人様。戦いになった場合、状況に関わらずご主人様も狙われると思いますが……その場合は?』

「僕は変わらないよ。医師であり、研究者だ。やるべきことをやるだけさ」


 ハイドは、アレイスターを見て言う。


「……おいお前。どこまで本気なんだ?」

「どこまで、とは?」

「イチゴは『きる』とかいう目的もあるし、純粋にオレやマキナに手を貸してやりたいって気持ちがあるから理解はできる。だが……お前のことが理解できねえ。お前は……信用していいのか?」


 ハイドは、アレイスターを見極めようとしていた。

 アレイスターは、肩をすくめて言う。


「別に、信用なんてしなくていいよ。僕も、きみやイチゴくんのことを完璧に信用しているわけじゃない。仲間意識とか、持たれても困るだけさ」

「……じゃあ、なんでここにいる」

「最初から言っているだろう? 僕は、医師であり、研究者だ。今は、天上人について研究している最中でね……きみたちと一緒にいた方が効率がいい。本当に僕を信用できずに邪魔だと思うなら、排除すればいいさ」


 どこまで本気なのか。

 だが……ハイドは、アレイスターを理解できないし、『不気味』とも思う。同時に、この得体の知れない、自分と同じ異端者であり、神器の所有者を倒せるのか。そもそも、そんな暇はないし、するつもりもない。

 ハイドは言う。


「じゃあ覚えておけ。オレらと行動するのはいい。邪魔さえしなければいい。だけどな……邪魔になれば、容赦なく排除する」

「それでいい。僕も言っておく……僕の研究の、邪魔はしないように」


 人差し指を口に当て、片目を閉じてアレイスターは言った。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


『勝者、イチゴ!! 強い、強すぎる!! この漆黒の仮面美少女は、このまま優勝してしまうのか!!』


 私は刀を鞘に納め、控室に戻る。

 

『おいおい、ファンサービスくらいしろよ。手ぇ振るとかさ』

「必要ないわ」

『くく、仮面の美少女だとよ。仮面で顔見えねえのに美少女とか、どこ見て言ってんのかネェ。オマエ、胸デカいし身体つきだけで美少女と思われてんじゃね?』

「……最悪」


 当然、ファンサービスはせずに控室に戻った。

 戻ると、アレイスターとハイドはいなかった。

 私は椅子に座り、目を閉じる。

 

『イチゴ、どうだ?』

「ええ……気分はいい。肉を斬る感触が、手に残っている……」


 私は、やっぱり人斬りだ。

 かつて、一国を相手に一人で戦った時も、今と同じ感覚だった。

 疲労を感じず、ただ斬ることだけが頭にあった。

 そして、何度か斬ったとき、はじけるような、雷が落ちたような感覚があった。

 あれは……斬撃と、心が一体化したような……不思議な感覚。

 あの感覚を、もう一度味わいたい。

 斬りたい。斬りたい。斬りたい……。


「イチゴ選手、決勝戦の時間です」

「…………」


 私は目をゆっくり開け、立ち上がる。

 決勝戦……相手は、ダレ?


 ◇◇◇◇◇◇


『さあ、いよいよ決勝戦!! ここまで勝ち残ったのは、なんとどちらも初参加!! 果たしてどちらが勝つのか!!』


 私の紹介が始まる中、私は目の前にいる杖を持った男を見ていた。

 若い。それに、セイン様を思わせるような美形だ。

 感じる魔力は強大で、ここまで勝ち残った以上強いのだろう。

 だが……それ以上に、私は強い。


『それでは決勝戦、開始いいいいいい!!』


 始まった。

 男……名前、なんだっけ。は、右手を突き出し紫電を纏う。

 ああ、希少属性の『雷』だ。雷の速度は音よりも速いって言うけど。


「サンダーショッ……」

「遅いわ」


 雷が手のひらから放たれると同時に、私は接近して手首を斬り飛ばした。

 斬り飛ばした手首から雷が放たれ、明後日の方向に飛ぶ。

 男は、右手が無くなったことに絶叫するわけでもなく青ざめ、手首を抑えて私から下がる……四肢を欠損すると、大抵は泣きわめいたり絶叫したりするけど、この人は強いわね。

 汗だらだらになりながら、私に杖を向けて攻撃しようとしてきた。

 

「『鳳凰印(ほうおういん)』!!」


 だが、私は双刀を交差し、一気に振り払う。

 男の杖を砕き、吹き飛ばし、壁に激突させると気を失った。

 そして、実況が叫ぶ。


『試合終了~!! 戦闘不能確認!! この瞬間、今年の武闘大会、優勝者が決定!! その名は~~~……仮面の美少女、イチゴだ~~!!』


 観客たちは絶叫し、私の名を連呼する。


『おいおい、応えてやれよ』

「…………」

『……おい、イチゴ?』

「……足りないわ」


 斬り足りない。

 もっと斬りたい。まだ、これからなのに。

 もっともっと研ぎ澄ませて、技を繰り出して……もっと、もっと。


『おい、イチゴ、おい……チッ、やべーな』


 オウマが何か言ってるけど、どうでもいい。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 イチゴが優勝した。

 ハイド、アレイスターは、イチゴが入場したゲートからその様子を見ていた。

 優勝……だが、驚いていない。むしろこれは決定事項。

 問題は、その次だ。


「去年は確か、優勝者を『木星』のユピテルが労ったんだよねぇ。その時に、イチゴくんがうまく『火星』のことを聞いて、ダメだったら……」

「飛び出し、奇襲してダメージを与える。できれば一撃でカタを付けたい。そのあとは……殺す」

「いいねえ。ああ、脳は僕にくれよ?」


 ハイドは無視。

 イチゴが微動だにしないことが気になったが、集中する。

 すると、貴賓室から十二枚の翼を広げ、ユピテルと二人の異端審問官が舞い降りる。

 異端審問官の二人は、イチゴを殺さんとばかりに睨んでいるが、ユピテルは微笑んでいた。


「優勝、おめでとう。うんうん、きみは異端者だね。私のことは知っているかな? 私は『八極星(ベツレヘム)』の一人にして『木星(ジュピター)』のユピテル。この世界の八分の一を統括する、原初の天上人だ」

「…………」


 ここで、アレイスターは気付く。


「……イチゴくんの様子がおかしいねぇ」

「あ?」

「これは……おやおやおや」


 アレイスターは顔を歪めて微笑み、帽子を深く被って笑みを消す。

 ハイドも気付いた。


「おい、イチゴのやつ……何考えてんだ」


 変身を解かず、双刀を掴んだままだった。

 ユピテルは、何かイチゴに語り掛けている。そして、護衛の異端審問官もイチゴの様子に気付いたのか、それぞれ武器を手に取った。

 男……スイエルはトンファーを手に、女……パラシエルは鞭を手にする。


「ユピテル様、そいつの様子が」

「離れてください!!」

「ああ、わかっている。この子、殺人衝動を発しているね。大丈夫、大丈夫だ。きみの敵はここにはいないよ。大丈夫」


 と、ユピテルが微笑んだ瞬間、イチゴの目が見開かれ──……伸ばされたユピテルの右手、五指が一瞬で切断された。


「斬る」

「おお……」

「「ユピテル様!! 貴様ああああああああああ!!」」


 トンファーが、鞭がイチゴを襲う。

 だが、イチゴの背後から銀色の蠅が鞭に喰らい付いて軌道を変え、火を噴く拳がトンファーを受け止めた。

 アレイスター、ハイドがゲートから飛び出し、イチゴの左右に並んだのだ。

 二人とも変身している。

 アレイスターは『スカルフェイス』に、ハイドは『デウスエクスマキナ』へと。


「おい、お前!! おい!!」

「なに、邪魔しないで。斬るわよ」

「あっはっは。ハイドくん、もうこのままやるしかないねぇ。ほぉら」


 スイエル、パラシエルがすでに翼を広げ、天力を纏う。

 そして、ユピテルが困ったように微笑み、失った五指を見て苦笑した。


「あいたたた……はは、おいたがすぎるよ? 全く、可愛いなあ」

「あなたを斬るわ。さあ、始めましょう」


 ここからは武闘大会ではない。

 異端審問官と、異端者の戦いが始まった。

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