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剣の存在しない魔法世界で、私だけが「斬る」という概念を持っている~刀姫転生、世界法則を一太刀で否定する~  作者: さとう
第二章

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本選開始

 宿屋にて。

 私はお風呂に入っていた。

 高級宿のお風呂は広い。王城のに比べたら狭いけど……それでも高級。

 石鹸もいい香りだし、浴槽用の香油があったので湯舟に垂らすと、甘い香りがした。


『くっせぇな。んだよそれ』

「香油。ていうかあなた、刀のままなのに匂いわかるの?」


 オウマは、刀の状態で湯舟に入れてある。よくわからないこだわりだけど……お風呂に入る時は刀の状態がいいらしい。へんなやつ。

 私は泡を落とし、湯舟に浸かった。


「ふう……」

『……おいイチゴ。今のうちに言っておく』

「なに?」


 私はお湯を掬い、二の腕にかける。

 若い身体……肌もスベスベ。でも、筋肉が付きにくい身体なのよね……胸も邪魔だし、月イチで体調最悪になるし、男に生まれたらって何度も思ったっけ。


『勝てない時は逃げろ。わかってんだろ』

「……私が負けると?」

『わからん。だが……俺ぁ、この世界を想像した神に作られた神器だから何となくわかる。「八極星(ベツレヘム)」とかいう連中は、俺らと同じ、神が直接創造した天上人だ。どうなるかわかんねぇ』

「……わかってるわ」


 オウマは言う。


『オマエ、技のキレはどうだ?』

「全盛期にはほど遠いわね。どうも、この身体には魔力が流れてるせいか、研ぎ澄まそうとすると魔力がぬるま湯みたいに感じるのよね……魔力で身体を強化する鍛錬もしてるけど、二つを合わせるとなると、まだまだ鍛錬が必要ね」


 でも、確信はある。

 今、魔力を得たこの身体なら……私の刀技、魔力と合わせて全盛期を超えられる。

 

『オマエの技……鳥の名前だったか。全部思い出したのか?』

「まあね。私の刀技より、あなたの能力はどうなの?」

『俺の能力は無敵だ。今のオマエじゃ、一日に一撃が限界だ。神殺しの刃……それを外したら、死ぬと思えよ』

「私が一度でも、刃を外したことがあった?」


 一日一刃の切り札……オウマの能力。

 

「ふふ、この世界を創造した神が作り出した天上人……斬るのが楽しみ」

『フン、オマエも変わんねぇな。とりあえず……今日はさっさと寝ろよ』


 私は湯舟から上がり、オウマを抱えて部屋に戻るのだった。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 翌日。

 私は着替え、朝食を取り、オウマを腰のベルトに差して宿を出た。

 外では、アレイスターとハイドが何か喋っている。


「だからぁ、その子を少し見せて欲しいって言ってるだけじゃないか。トリスはよくて、なんで僕はダメなんだい?」

「お前は生理的に無理だっつってんだろ。近づくな、触んな」


 どうやら、アレイスターはマキナのことが気になるようだ。

 マキナはハイドの背中に隠れて怯えてるし、トリスは少し困ったような顔をしている。

 私はため息を吐き、男二人の間に割り込んだ。


「朝から騒がしい。アレイスター、やめなさい」

「おやおや。原因が僕にあるとしか考えてないモノ言いだねぇ」

「その通りでしょ……聞こえたわよ。マキナを調べたいとかなんとか」

「その通り。『機械』だったかな? 僕が知らない技術、興味しかないねぇ」

「ううう……ハイド」

「心配すんな。こんなヘンタイ野郎にお前は触らせねえよ」


 アレイスターはマキナをジロジロ見ては目を輝かせている。

 キカイ……私にはさっぱりだけど、アレイスターは興味しかないみたいね。


「とにかく、アレイスターはやめなさい。ハイド、あなたも準備はできてるの?」

「ああ、オレはいつでもいける」

「僕はまあ、戦う準備なんて必要ないけどね。実験の準備はできてるよ」

「そう……じゃあ、私は武闘大会に行くわ。タイミングは……」

「お前が優勝した時、ユピテルがお前に祝福の言葉を送る時、だな」

「その時、無駄かもしれないけど『火星(マーズ)』のことを聞いてみるわ」

「イチゴくんが異端者で、マルセリア王国での異端審問官殺害の罪がばれたら、大会中でも異端審問官が襲って来るかもしれないけど?」

「その場合は、戦闘開始」


 一番の目的は、『ユピテルを殺し、「火星」にハイドが来たことを伝える』だ。八極星の一人が死ねば、さすがに残りの八極星も何かしら反応する。ハイドはそこで、自分の故郷と家族を失った元凶である幼馴染の異端者と『火星』に宣戦布告するのだ。

 できるなら、ユピテルから居場所を聞ければいいんだけどね……まあ、やってみるけど。


「じゃあ、行ってくるわ」

「……イチゴ」

「なに?」

「感謝する。もし、万事うまくいったら礼をさせてくれ」

「……そうね」

「おやおや、僕にお礼はないのかい?」

「お前はこれからの働き次第だな。行くぞ」


 私たちは別れ、行動を開始した。


 ◇◇◇◇◇◇


 武闘大会の会場に到着し、私は本選の参加証を見せて控室へ。

 昨日はたくさんの人がいたけど、今日はいない。


『おいイチゴ、緊張してるか?』

「それ、本気で言ってるの?」

『うんにゃ、別に』


 緊張はしていない。むしろ……早く斬りたいと思っている。

 誰もいない通路を進み、控室へ向かっていると。


「…………」


 誰か、いた。

 いや……これは、見覚えがある。

 

「…………異端者か」

「…………」


 青い髪、青い法衣、そして褐色の肌……腰には、剣。

 剣。間違いない、柄にナックルガードが付いた、双刃の剣。

 この世界で、私以外に剣を持つ……そして、私を異端者と呼ぶのは。


「運がいいな。ここは、オレの管轄ではない」

「……異端審問官」

「人間がオレを知らないのも無理はない。名乗る意味もない」


 そう言って、青い男は壁から背を離し──……。


「オレの管轄以外で、狩ることはしない。だが……忘れるな、オレの管轄で会えば、待つのは死だ」


 男は、私の背後にいた。

 気付かなかった。一筋だけ、冷たい汗が流れた。

 そして、男は歩き去った。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 闘技大会、会場にある貴賓室にて。

 そこに、玉座よりも高級そうな椅子に座る一人の男がいた。

 『八極星(ベツレヘム)』の一人、『木星(ジュピター)』を司るユピテル。

 緑色の法衣、エメラルドグリーンに輝く髪と瞳。

 ユピテルは、ひじ掛け椅子でリラックスしながら、子供のような笑みを浮かべていた。

 視線は観客席に向いており、どこか慈愛に満ちた目をしている。


「ふふ、可愛い子たちだねぇ。優しく抱きしめ、撫でてやりたいよ」


 ユピテルの後ろには、二人の一級異端審問官がいる。

 ともに二十代前半程度に見える男女。男はスイエル、女はパラシエル。

 二人はユピテルの護衛であり、話し相手。

 スイエルは、観客席を見て言う。


「ヒトが多い。全く……繫殖力だけは天上人を超えるな」


 どこか呆れたような声だった。それにパラシエルが苦笑する。


「短くて粗末な命だもの。繫殖力が高くないと、すぐ絶滅しちゃうでしょ?」

「まあ、確かにな」

「ははは、そこが愛おしいんじゃない。愚かで、可愛くて、抱きしめたくなる。知ってるかい? ゴキブリという生物を」

「「……ゴキブリ?」」


 二人は首を傾げる。ユピテルは「ははは」と笑った。


「今はもうない、滅びた世界にいた虫なんだ。知能は低いけど、異常な繁殖力があってね。それに、生命力も高い」

「ゴキブリ……それが、なにか?」

「人間に似ているんだ。フフ……愛おしい。短い命を精一杯輝かせて、短い生涯を終える。私はね、そんなところが好きなんだ。まあ、ゴキブリのいた世界はもうないけどね」


 ユピテルは、生きとし生けるモノ全てが『愛おしい』と思っている。

 そこに、序列はない。

 人も、魔獣も、虫も、動物も……人が作ったぬいぐるみや、造形物なども同じ。

 全てが同じ、愛おしいのだ。

 だから、残酷。


「一度、試したんだ。ヒトとゴキブリ、犬猫、魔獣を合わせた新生物を作って見たけど……ダメだった。歪なまがい物しかできなくてね。全ては、個で完成しているんだ。神の造形物と言ってもいい」

「ユピテル様、それは……」

「あはは、否定しないでいいよ。私たち天上人も、神の造形物だからね。同じにはなりたくないんだろう? でも……そんなところも愛おしい」


 すると……ユピテルの近くにあるテーブル、そこに置いてあった水差しの水が輝き、一気に溢れた。

 スイエル、パラシエルがすぐに反応するが、ユピテルが手で制する。

 水が形となり、現れたのは……青い法衣、水色のロングヘア、青いヴェールを被った女性。


「やあやあ珍しいこともあるねぇ。メルクリウスじゃないか」

「ユピテル……今日は天上神への祈りを捧げる重要な日ってこと、忘れたのかしら?」


 女性……メルクリウスは、ジロリとユピテルを睨む。

 スイエル、パラシエルが跪くが無視。ユピテルは苦笑する。


「イヤだな、メルクリウス。祈りは無駄だって、何度も言ったじゃないか。もう、私たちの神は私たちに興味がない。現に、祈りを捧げても神は答えないじゃないか」

「あなた、それでも『八極星(ベツレヘム)』なの? 創造主に祈りを捧げる行為を踏みにじるつもり?」

「そんなつもりはないよ。でも現に、祈りの日に祈りを捧げているのは、『水星(マーキュリー)』のキミだけじゃないか。他の七人も祈りなんて捧げてないけど、天罰なんてない」

「……」

「もしかしてメルクリウス……私以外の『八極星(ベツレヘム)』にも声をかけた?」

「……あなたで七人目」

「で、みんな断られたと。あはは」

「……チッ」


 メルクリウスは舌打ちする。

 すると、いつの間にか部屋にいた青髪の青年が跪いたまま言う。


「メルクリウス様。祈りの時間が迫っています」

「……わかったわ。ユピテル、いつか主の天罰を受けるわよ」

「あっはっは。そうだね、覚悟しているよ。と……ガブリエルくん、きみも大変だね」

「いえ」


 ガブリエルと呼ばれた青年は、ユピテルに丁寧にお辞儀した。

 そして、スイエルとパラシエルに言う。


「私の管轄外なので手出しはしなかったが、異端者がいる。警戒しておけ」

「「はっ!!」」


 メルクリウスが指を鳴らすと、二人は水となって再び水差しに戻った。

 もう、二人の気配はない。

 スイエル、パラシエルがユピテルに言う。


「ユピテル様。一度、異端審問官たちへ警戒命令を」

「ああ、必要ないよ」

「……え?」


 ユピテルはにっこり微笑む。


「面白いじゃないか。異端者がこの大会に出るなら、最後まで見守ろう。ふふ、面白いからね」

「「…………」」


 ユピテルに命令に納得できずとも……二人は頷くしかなかった。

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