予選会
武闘大会のルール。
まず、予選会が開催され、三回勝つと本選に出場可能となる。
予選会は武闘大会会場で行われるが観客はいない。あくまで本選がメインであり、予選会はそれを決めるためにすぎない。
本戦出場者は五十名。トーナメント方式で行われる。
優勝者には賞金と、皇帝に謁見する許可、望みを一つ叶えられる。
「と、ルール確認はこんな感じかな。イチゴくん、キミの願いは?」
「別にないわ」
「お金は? 旅には入用になるんじゃない?」
「謝礼もらったわ。それこそ、あなたなんかより金持ちよ」
今日は予選会。私とアレイスターは武闘大会会場の控室にいた。
控室はかなり広いが、人がいっぱいいる。ここだけで五十人以上いそう。
アレイスターが「ここ、控室二十室以上あるらしいけど、どこも満員みたいだよ?」となぜか嬉しそうに言う。
「ヒトがたくさんいれば、それけキミが暴れるチャンスがあるじゃないか」
「……人を暴れ牛みたいな目で見ないでくれる?」
アレイスターは帽子を押さえ「これは失礼」と笑った……やっぱこいつムカつく。
「……ハイドは?」
「彼なら、会場内を下見してる。ここを戦場にしていいとの話だけど、いざ戦うことになればやはり、王都の外が好ましいからねぇ。そこまでの誘導ルートは僕が考えたんだけど、彼っては『自分の目で見る』なんて言って信用してくれないんだよ」
「……真面目なのよ。私やアナタと違ってね」
「僕はいつでも真面目だよ?」
私は無視し、壁に寄りかかり……周りを観察する。
(……全体的に、二十代前半~五十代半ばくらい。男女比率は男七、女六……十代もいるけど、全体の一割くらい。杖は棒型、拳型、棍棒型、指揮棒型……打撃系がメインの攻撃となるこの世界では、直接攻撃系は力自慢くらい。指揮棒型の杖を持つのは魔法に自信のあるやつね……基礎四属性じゃない、上位四属性を持つやつか。そういえば授業で習ったわね……魔法師の中には、自分だけの魔法を作るやつもいるって)
周囲を分析すると、一人の大男と目が合った。
ニヤリと笑い近づいて来る。
「ああん? ガキの女がなんでここにいる? ここは武闘大会の会場だぜ?」
「…………」
「おお!! イチゴくん、キミ、絡まれてるねぇ。どうする、どうする?」
アレイスターが本当にうざいわね……こっちは無視しているのに。
っていうか、本当に。
「……臭い」
「あ?」
「あなた、お風呂くらい入りなさいよ。臭うわ」
「……クソガキ。殺すぞ!!」
男が拳を振り上げて来た。
拳系の杖。魔力を纏い攻撃力を上げるタイプの魔法……こういうの、よくいるのよね。
どうしようか……こいつを殺すのは簡単だけど、もめたことで参加資格が取り消されたりとか。
「もめたことで参加資格が取り消されたりとか……なんて、考えてる?」
「…………」
「あっはっはっはっは!! キミ、顔に出るねぇ」
「……殺すわよ」
「はいはい。じゃ、ここは付き添いであり無関係な、キミの専属医師であり同行者であり研究者であり錬金術師である僕が」
「肩書、多いわ。あといつから専属医師になったの」
アレイスターが前に出ると、人差し指をピンと弾く。
大口を開けていた男の口に銀血が一滴入ると、男の動きがぴたりと止まり……ブルブル震えだす。
「あ、かかか、か……かゆ、かゆうう、かゆいいいいいいいい!!」
いきなり全身を掻きだした。
驚いていると、アレイスターが言う。
「脳にちょいと細工して、『全身がかゆくなる』って命令を延々と出した。まあ、彼は生涯、かゆみと戦いながら生きることになるね。ははははは」
「……あっそ」
男は床をゴロゴロ転がり、周囲に迷惑をかけ始めた。そしてそのまま運営委員会に連れて行かれた。
私は言う。
「女で、子供。やっぱり舐められるのかしら」
「まあそうだろうね。でも……戦いが始まれば、キミの存在を見せつけられるんじゃない?」
「……そうね」
予選会まで、もう間もなく。
◇◇◇◇◇◇
予選会が始まった。
なんと、参加人数は千人を超えている。一日の予選会で本戦出場者を決めるので、一対一での戦いなんてやっていたらとても無理。
なので……予選は、三十人ずつ。一つの舞台での乱戦形式となった。
舞台に上げられ、運営委員会の説明が入る。
「では、これより乱戦を開始する。最後まで立っていた一名が本選出場となる。
なるほどね。
話によると、この予選会で三十名まで絞り、貴族の推薦や前回参加の上位者を含めて五十名が本選出場者となるみたい。
ここで残らないと、それでおしまいってわけね。
「それでは、試合開始まで十秒」
カウントダウンが始まった。
全員、魔力を練り、杖を構え、攻撃態勢を取る。
私の近くには五名ほどいる。全員……視線を私に向けている。まあ、十六歳の女の子はこの中では一番華奢で弱そうだし、狙うのは当然。
「……オウマ」
『おう、度肝抜け』
私は変身する。
黒髪が白くなり、欠けた仮面を被り、ジッパー付きの黒衣を纏う。
鞘から二刀を抜いて構えを取り……。
「試合開始!!」
「『散鵺』」
私を襲って来た五名を、殺さぬ程度に斬り刻んだ。
「さあ……始めましょう、斬り合いを」
刀身に付いた血を振り落とし、私は選手に向かって行く。
「このガキ!!」
「雑魚から狙うぜ!!」
「そうね、その考えには賛成」
雑魚から狙う、真似するわ。
私は杖を向けていた男たちへ接近、全員の手首を斬り落とす。
一番大きな男の顎を蹴り上げ、後ろに倒れるの前に足場にして跳躍。
そのまま空中で横回転し、乱戦となっている中心へ横回転斬りしながら飛び込んだ。
「『|姑獲鳥裂』!!」
刃に伝わる、肉を斬る感触……ああ、たまらない。
男の肉は硬い。女の肉は柔らかい。骨は硬いけど、スパッと綺麗に斬れた時の感触がたまらない。たまに斬れない時もあるけど……それはそれで悪くない。
「な、なんだこのガキ!!」
「なんの魔法!?」
「任せろ!! 痺れやがれ、『サンダーブレード』!!」
「!!」
上級属性の『雷』が、杖の先端から発射される。
私は知っている。雷っていうのは、金属に反応する。
二刀のうち一本を投げると、雷は避雷針となって刀に落ちた。
そして、私は避雷針代わりにした刀が地面に落ちる前に蹴り飛ばす。すると、雷を放った魔法師に向かって飛び、腹に突き刺さった。
『おいおい、ぞんざいな扱いじゃねぇか』
「そういうの、好きでしょ?」
魔法師に接近し腹から剣を抜き、背後に迫っていた男の足を振り向きざまに切断。
そして、崩れ落ちる男に向かって、剣を交差させ叩きつけた。
「『鳳凰印』!!」
男が吹き飛び、数人を巻き込んで倒れた。
周囲はようやく、この場で最も危険なのが私と理解したのか、徒党を組んで私を囲う。
「このガキ、ただもんじゃねえぞ!!」
「くそ、なんなんだ、この魔法は!!」
私は、血に濡れた刃を払い、刀身を持ち上げ……この場にいる全員に言った。
「魔法なんかじゃない。ただ、『斬った』だけよ」
その意味を誰も理解できるはずがない。
私は、構えを取り、群れでいる『獲物』に向かって突っ込むのだった。
◇◇◇◇◇◇
予選会が終わり、私は闘技大会の会場を出た。
すると、アレイスターとハイドが入口で出迎える。アレイスターが拍手をした。
「いやー強い強い、イチゴくんキミさ、初めて会ったときより強いねぇ」
「どーも」
ハイドは、私が持っている本選出場の参加証を見て頷く。
「確かに強かった。お前……すげえな」
「ありがと。でも、まだまだね……」
オウマが刀から人型になり腹を抑える。
「おい、メシにしようぜ。オマエも腹減ってんだろ?」
「……まあ、そうね」
「いいねぇ。お酒のあるお店にしようか。そろそろ、トリスとマキナちゃんも戻って来るだろうし」
「……二人、どこか行ってるの?」
「うん。ハイドくんのセンスは最悪でねぇ。マキナちゃんにもっとオシャレさせたいと、トリスが似合う服を選んでいるのさ」
「うるせーな。女の服なんてわかるわけねーだろ」
「ははは。でも、同じ服を何着も買うっていうのはどうだかねぇ。下着とか男物らしいじゃないか。この僕ですらそんなことしないよ」
「だからうるせーっつの。戦いになれば服とかカンケーねえだろうが。な、イチゴ」
「……」
オシャレ……正直、私もあんまり興味ない。
「こいつにオシャレなんて説いても無駄だぜ。服なんて動きやすけりゃいいって考えだし、下着とかもテキトーだ。前に『男物の下着のが動きやすいかも……』なんて言い出した時は、女を捨てたのかと思ったぜ。まあ、今回は俺がセクシーなのを用意したから安心だけどな」
「「…………」」
「な、何よその顔は。というかオウマ、ヘンなこと言うな!!」
「いでっ!?」
オウマをぶん殴る……別にこの二人に女として見られなくてもいいけど、微妙に憐れんでるような視線はけっこうショックだった。
すると、トリスたちが戻って来た。
「ただいま戻りました。ご主人様~……あら? 何かあったんですか?」
「いやぁ、ねえトリス、今度イチゴくんの服や下着も見繕ってくれないかい?」
「え~……でもまあ、ご主人様の命令なら」
「必要ないわ。っていうか、憐れむのやめて」
「ハイド、どう? トリスが選んでくれた」
「……うお、すげえな」
マキナは、可愛らしい黄色系のワンピースに、車輪のような髪留めをしていた。
全体的にフワフワしてるような服……か、かわいいかも。
ハイドはトリスに言う。
「その、ありがとうな」
「お気になさらず。同じ神器として、この子は妹みたいなものですもの」
「妹ねえ? じゃあ俺はオマエの兄貴か?」
「そんなわけないでしょう、愚鈍。あなたはせいぜい、出来の悪い、悪すぎる弟よ」
「ああああ? んなわけねぇだろうが!!」
「オウマ、弟……わたしの弟なんだ」
「ちっげーしんなわけあるかこのチビ!!」
「あっはっはっはっは!! さあさあ、そろそろ食事にしよう。イチゴくんが飢えてしまうよ」
「…………ふふ」
私は、気付かなかった。
いつの間にか、自分が笑っていることに。




