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剣の存在しない魔法世界で、私だけが「斬る」という概念を持っている~刀姫転生、世界法則を一太刀で否定する~  作者: さとう
第二章

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『八極星』・木星のユピテル

 その男は、どこまでも柔和な笑みを浮かべていた。

 背中には十二枚の翼があり、エメラルドグリーンの髪、そして瞳。緑色の法衣を纏い、デュミナス帝国の上空に静かに浮かんでいた。


「ヒトの国、か」


 柔らかな、包み込むような声だった。

 慈愛の声。どこか嬉しそうに、楽しそうしている。

 すると、男の傍に二人、八枚の翼を持つ天上人が現れた。


「ユピテル様。またこちらにいらしたのですね」

「ああ。見てるだけで、優しい気持ちになれる。ふふ、人は本当にかわいいなあ」

「ユピテル様は本当に、人が好きですね」


 天上人の一人、一級異端審問官のスイエルは、ユピテルに向かって敬礼する。


「ユピテル様。ヒトを愛でるのも構いませんが……」

「仕事かい? 大丈夫だよ、自分の分はちゃんと終わってる。年に一度の楽しみが近いんだ」

「また、人の『じゃれ合い』を見て楽しむんですね」


 同じく、一級異端審問官の女性、パラシエルがクスっと微笑む。

 スイエルは言う。


「ユピテル様。一つ、ご報告がありまして」

「ん? なんだい」

「実は……マルセリア王国を管理していた三級異端審問官が、異端者によって殺害されました」

「ほう、それで?」

「その……異端者は神器の所有者という話です。現在、調査中です」

「それで?」


 どこまでも穏やかだった。

 スイエルは、申し訳なさそうに言う。


「ご存じの通り……七つの神器は、神が創造した最強の兵装。人が持つ、天上人に抗うことのできる唯一の兵装です。可能性はゼロに等しいですが……もし、神器の力が、御身に向かうとなれば」

「ははは、可愛いものじゃないか。ヒトの身で、ぼくを傷付けることなんてできないよ。見てわかるだろう? 人っていうのはたくましくて、かわいくて、頑張り屋なんだ。触れれば壊れる脆さも愛おしく、同族同士で争う醜さも見てて可愛いじゃないか」


 ユピテルにとって人は、愛でるもの。

 人間が犬猫を可愛がり、撫で、喉をゴロゴロ鳴らすのと同じ。


「なあ、この国も大きくなった。少し間引きをしようと思うんだが、どう思う?」

「間引き、ですか?」

「うん。こんなに多いと管理する方も大変だろう? そうだな……数を半分くらいにしようか。どう思う?」

「素晴らしい考えです」

「同意します」


 スイエル、パラシエルは素晴らしいと言わんばかりに笑顔を浮かべる。


「フフ……なあきみたち、きみたちはヒトのどこが好きだい?」

「そうですね……繫殖力が高いところはすごいと思いますね」

「私は……難しいですね。百年程度の命というところは憐れんでいましけど」

「ははは、短いのがいいんじゃないか。成長速度も早いせいか、幼年期が短いのがねぇ……なんとか改良して、幼年期を人生の七割以上になるようにしてみたけど、失敗だった。途中でおかしくなってしまう」

「あはは。ユピテル様ってばお茶目ですね」


 三人は、空中で笑い合う。

 ヒトにとって、これ以上ない、醜悪な会話を続けていた。

 ひとしきり笑い合い、パラシエルが言う。


「そういえば……ユピテル様、天上界で最近、何かありましたか?」

「何かとは?」

「いえ。私は地上管轄なので噂で聞いたんですけど……『火星(マーズ)』様が、異端者を連れ歩いていたとかなんとか」

「ああ、本当だよ。神器持ちの異端者に懐かれたみたいでねぇ、可愛がってるよ」


 それを聞き、スイエルは困惑する。


「あ、あの……異端者とはいえ、ヒトなんですよね。天上界に連れて行って問題ないのでしょうか。その……神の怒りを買う、とか」


 不安そうにスイエルは言うが、ユピテルは「ははは」と笑った。


「問題ないさ。そもそも神は……一度も姿を現さないからね。それに、『天上界にヒトを招いてはならない』なんてルールもない。ぼくたち『八極星(ベツレヘム)』ですら、神の声を一度だけしか聞いたことがないんだからね」

「……ユピテル様ですら」


 パラシエルは、長い髪を指でくるくるしながら言う。


「ユピテル様。なぜ……神の創造した神器は、ヒトの手にあるのですか?」

「わからないねぇ。不思議なことに、天上人に神器を使うことはできない。なぜ、神が神器をヒトに、この正史世界ではなく、分子世界に送り込んだのか……それは、神にしかわからない」


 ユピテルは、空を見上げた。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 天上人。

 神が創造した『正史世界』の管理者であり、正史世界を摸倣して天上人が作り上げた『分子世界』の神である。

 数は多くはないが少なくもない。

 

 分子世界においての神そのもので、世界を自在に作り変える力を持つ。

 正史世界においては管理者であり、正史世界に生きる全ての生命を統括、管理する。

 基本的には自由奔放にやらせるが、秩序を乱す恐れのある生命体は粛清する。

 

 正史世界内に、『管理者(アドミニストレータ)』という組織がある。そこに属する天上人は、正史世界内で活動を許可される。

 普段の天上人は、正史世界より遥か上空にある『天上界』に暮らしている。


 天上人は、背中に翼を持ち、『天力』という浄化、消滅の光を自在に操る。

 頭部には輝くリングがあり、それが『天力』を生み出す根源である。


 天上人は人間から異端審問官と呼ばれ、恐れられている。

 等級管理され、三級から始まり二級、一級、そして特級とある。

 その上に、神が創造した八人の天上人、『八極星(ベツレヘム)』が存在する。

 

「と、こんなところかな」


 アレイスターは、ハイドに『天上人について』という題名で講義をしていた。

 現在、私たちはオーガの巣を襲撃し、討伐を終えた。

 街道に現れるオーガの巣を駆除して欲しいという依頼をハイドが受け、私はそれに同行したのだ……ちなみにハイド、一級の冒険者でかなりの実力者として有名だった。

 私は刀を鞘に納め、呼吸を整える。


(もっと研ぎ澄ませ。もっと脱力──……集中しなきゃ)


 脱力は、鋭い斬撃を繰り出すのに必須……斬るのに力はいらない。

 認めたくはないが、女の身である以上、男に力では敵わない。

 だからこそ、速度……柔軟性、そして脱力だ。


『グオオオオオオオ!!』


 オーガの巣には、オーガが二十体以上いた。

 私は全て斬った。ハイドも「任せる」なんていうから、全部斬った。

 そして最後……この群れのオーガが現れる。

 身長三メートル以上、筋骨隆々、青白い肌に、こん棒……殴られたら死ぬ。

 私は静かに、研ぎ澄まし……一閃。


「『双睛断(そうせいだん)』」


 二刀を逆手に持ち、居合の要領で斬る技。

 オーガは首、胴が両断され即死……まだ、足りない。


「おや、終わったようだ。ハイドくん、講義はここまで」

「……天上人。消滅の光か……マキナで受けられるか」

「いちおう、神器は神の作り出した兵装だしねぇ、同じ創造物である天上人の攻撃が効くかどうかは……試してみないとねぇ。まあ、やめておくのが無難かな」


 私は変身を解き、ハイドの元へ。


「ハイド、ちょっといい?」

「ん、なんだ」

「……デュミナス帝国のお姫様に、私が闘技大会で『何かやらかす』って認知された。もし戦いになっても、闘技場の区画程度なら全壊してもいいらしいわ」

「何……? どういうことだ」

「話のわかる、頭のいいお姫様ってことよ」


 アレイスターがクスクス笑っているのがちょっとムカついた。

 そして、ハイドはアレイスターに言う。


「おいお前……知識は助かるが、戦えんのか?」

「いや? 僕は研究者だから、戦うのはキミたちさ。知識の上では、役立ってるだろう?」

「……まあ、いいけどよ」


 どうやらオウマも、アレイスターがどういう奴かわかったようだ。


「……とりあえずイチゴ。お前が闘技大会に出る。その後で、ユピテルに喧嘩売るでいいんだな」

「ええ。闘技大会、楽しませてもらうわ」

「うんうん。闘技大会でイチゴくんにユピテルの興味が向けば、ハイドくんがユピテルに奇襲を仕掛けるチャンスもあるだろうしねぇ。無駄かもしれないけど、無駄じゃないかもねぇ。だけどひとつだけ」


 アレイスターがどこか楽しそうに指をぴんと立てる。


「ユピテルばかりに注意を向けない方がいいよ? 普通に、彼にも護衛はいる。間違いなく一級異端審問官……前にきみが戦った三級とは、比べ物にならないよ~?」

「私、あの時より遥かに強いわ」

「オレもまだ全力じゃねぇよ」

「ならよかった。ふふん、特等席で楽しめそうだ」

「……闘技大会のことよね」


 闘技大会まで、あと九日……もっと研ぎ澄ませないと。

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