シエスタ姫の言葉
報酬……どうしようか迷っていると、シエスタ姫、グレーテル姫が来てくれた。シエスタ姫が察してくれたのか「そろそろ食事の時間ですね。イチゴ様も一緒に」と言ってくれた。
おかげで、皇帝とその家族と食事……緊張したけど、なんとか無事に終わらせた。
泊って欲しいとのことだったので、甘えることにした。
「ね、ね、イチゴ。一緒にお風呂行こ!! お城のお風呂、すっごいんだよ!!」
「えっと……」
王族と一緒に風呂なんて、許されるのかな。
シエスタ姫を見るとにっこり微笑んで頷いた……まあ、いいのかな?
というわけで、三人でお風呂……と思ったのだが、なんと王族専門の洗体師が十名、一緒に来た。
「えと……」
シエスタ姫、グレーテル姫にとって当たり間なのか、ドレスを脱がしてもらってる。
私の服も脱がそうとしてきたので、謹んで遠慮する。
服は自分で脱ぐと、そのまま持っていかれてしまった……ちなみにオウマは刀のまま、脱衣所に布で包んで置いてある。
「さ、行きましょう」
「あ、はい……」
全く裸身を隠さずに浴場へ……なんだか私だけ恥ずかしい。
タオルで身体を隠し、浴場内へ。
「わあ……」
広い。
大理石の浴場だ。浴槽はとんでもなく広く、壁の至る所からお湯が滝のように流れ出ている。綺麗なランプが浴場内を照らし、お湯からは香油の香り、花弁まで浮かんでいた。
見とれていると、二人の姫は洗体師に身体を洗ってもらっていた。私の方を三人の洗体師が見てる……うう、これ、洗ってもらわないとダメなのかな。
「イチゴ、どうしたの?」
「どこか具合でも……?」
「あ、いえ」
シエスタ姫、察しはいいけど、なんで私が困惑してるかわかってない。
まあ……生まれてずっと、お風呂では誰かに洗ってもらうのが普通の生活だったみたいだし……誰かに洗ってもらうなんて、この歳では恥ずかしい。
すると、洗体師さんがじれたのか、私のタオルをはぎ取った……は、速い!!
「さ、お身体と髪を洗いますね」
「あ、あの、自分で」
「さあ、こちらに座ってくださいね」
「まあ、綺麗な黒髪」
「お身体も綺麗ですね~」
「あ、あの、その、へんなとこ触らないでくださいっ!!」
お風呂がこんなに疲れるなんて……私、王族の生活はムリ!!
◇◇◇◇◇◇
夜、シエスタ姫の部屋でお喋りしていた。
グレーテル姫は喋っているうちに寝てしまい、シエスタ姫のベッドへ。
「この子、自分の部屋があるのに、よくここで寝ちゃうんです。ふふ……もう十四歳なのに、姉離れできない子」
「……可愛いですね」
「ええ。本当に……」
シエスタ姫は、グレーテル姫の頭を優しく撫でる。
慈愛。でも……彼女は優しいだけじゃない。厳しさも持ち合わせている。
「私は、この国の次期女王です。妹はきっと、国外に嫁に出されるでしょう。楽しい時間は、もうすぐ終わります……だから、甘やかしたくなっちゃうんです」
「…………」
「イチゴ様は、私をどう思いますか?」
いきなりの質問。
まっすぐ私を見ていた。ここは、誤魔化しちゃダメな気がする。
「王族としての気品を持ち、威厳もあるように思われます。シエスタ姫が女王となれば、この国はますます豊かになるでしょう」
「……そうですね。私は、この国を豊かに、笑顔溢れる国にしたいと思っています。それに、支えてくれる人もいますし」
「それって……婚約者ですか?」
「ええ。その……いい人なんです。幼馴染で……」
頬を染め、モジモジするシエスタ姫……ああ、政略結婚とかじゃない、恋愛結婚っぽい。幸せそうで何より……うん。
結婚……私は興味ないし、無縁かな。
「彼は王族入りしますけど、王はデュミナスの血筋と決まっていますので、王にはなれません。私が女王で、彼が宰相として支えて……って、す、すみません、こんな惚気みたいな」
アワアワと、シエスタ姫は慌てる……かわいい。
私はクスっと微笑み、手で制した。
シエスタ姫は頬を染め、深呼吸して紅茶を飲んで落ち着く。
「うう、私の馬鹿……」
「ふふ、仲がよろしいようで」
「そ、そういうイチゴ様はどうなんですか? アレイスター様とは……」
「…………」
「ご、ごめんなさい」
あれ……私、どんな顔してるのかな。シエスタ姫が申し訳なさそうにしてる。
というか、アレイスター……あいつと恋仲なんて無理だし、あいつは人を実験素材にしか見ていないし、性欲とか死んでる気がするわね。
シエスタ姫は軽く咳払いし、真面目な顔になる。
「イチゴ様。武闘大会に出るんですよね」
「ええ」
「あと九日……どうするのですか? 魔法の訓練をするなら、魔法騎士団の演習場を一つ、貸切ることもできますが」
「大丈夫です。冒険者ギルドで、討伐依頼を受けて魔獣狩りをするつもりです。まだまだ、本来の力にはほど遠いので……」
戦いの勘を取り戻さないと。
前の世界、晩年のころの実力……研ぎ澄まし、オウマの能力がなくても全てを斬ることができた。三万の軍勢を一人で斬った時みたいに、研ぎ澄まさないと。
「……イチゴ様。一つ、いいですか?」
「はい?」
「……あなた様は、大会参加の他に、何か目的があるのですか? 例えば……『木星』のユピテル様、とか」
「…………」
この人は、優しくて厳しくて、見る目がある。
無言でいたせいで、すでに気付かれた。
だが、シエスタ姫は何も言わない。
「……闘技場区画内でしたら、仮に全壊しても国営には影響がありません。住人の避難ルートなども倍に増やし、当日は警備メインではなく、避難誘導をメインとした布陣を組みます」
「……シエスタ姫?」
「先ほど……マルセリア王国から報告がありました。白髪、黒衣、仮面をつけた二本の杖を振るう何者かが、三級異端審問官を殺害し逃走した……と」
「…………」
「私は見ました。私たちを助けたイチゴ様が……そのようなお姿に変わったところを」
変身したところを見られたのは、その時だけ。
これは……誤魔化せないな。
「……私は、シエスタ姫やグレーテル姫が思うような、立派な人間ではありません」
「…………」
「多くの人間を殺した殺人鬼。『斬る』ことに魅了された、救いようのないクズです。私は……」
「イチゴ様」
シエスタ姫は、私の手をそっと握る。
「……アナタの手は、こんなにも温かい。私たちを助けてくれた、優しい手です」
「……シエスタ姫」
「どうか、お好きなように……後悔しないよう」
シエスタ姫は「そろそろ寝ましょうか」と、ベッドに入る。
ていうか……え、私も同じベッド? うそ?
◇◇◇◇◇◇
翌日。
城から出ると、アレイスターが出迎えてくれた……最悪。
「やあ、楽しい時間を過ごせたようだねぇ」
「うるさいわね。さて……冒険者ギルドに行くわ」
「おや、なんだかやる気に満ちているねぇ」
「ええ……『木星』のユピテルを斬るために、もっと研ぎ澄ませないと。ハイドは?」
「彼なら、『鍛錬する』と冒険者ギルドに行ったよ。彼も冒険者のようだからね」
「……行くわよ」
改めて、やることがはっきり見えた。
闘技大会に出て、『八極星』の一人『木星』のユピテルを斬る。
そのために、私はさらに研ぎ澄ますことにするのだった。




