お茶会
ハイドと戦った翌日、私は一人で王城へ向かった。
城門入口でシエスタ姫から借りたペンダントを見せると、偉そうな魔法騎士たちが何人も来て敬礼。そのまま私を城内に案内してくれた。
通されたのは、城内にある中庭……そこにいたのは。
「あ、イチゴ―!!」
「いらっしゃい、イチゴ様」
手をブンブン振るグレーテル姫、そしておしとやかに微笑むシエスタ姫だ……グレーテル姫はともかく、シエスタ姫ってほんとお姫様ね。この優雅さ、同じ女だけど真似できないわ。
とりあえず、それっぽくしてみよう。
「お招きいただき、ありがとうございます」
スカートの裾をつまんで一礼すると、グレーテル姫に腕を引っ張られた。
「もう、お友達同士なんだしそんなのいいよ。ね、ね、お父様がちょっと用事あるから謁見は午後からなの。それまで、わたしたちとお茶会しよっ!!」
「わわ、わかりました」
「こら、グレーテル。申し訳ございません、イチゴ様……お父様も、私たちの恩人にはすぐ礼を言うべきだと言ったんですけど……」
私より優先すべきことなんていくらでもある。それこそ、この国に来るっていう『木星』の準備とか……でも、正直思うことがある。
「ね、ね、イチゴ。お菓子いっぱい用意したんだよ!!」
「ふふ、すぐお茶を淹れますね」
もし、『木星』と戦うことになったら……この二人の住む国に、迷惑がかかる。
住人や町に被害は出ないよう戦うつもりではあるけど……『木星』と戦うことで、今後この国にどんなことが起きるのか、迷惑をかけるのか……それを考えると、少しだけ不安になった。
「イチゴ? どうしたの?」
「そういえば……聞きましたよイチゴ様。参加証、お受け取りになったんですね」
「ええ。感謝します」
ポケットから参加証を取り出して見せる。
グレーテル姫がニコニコしながら言う。
「よかったー……でも、わたしやお姉様は、戦いとか無理なんだよね」
「ええ。戦闘、魔法訓練は受けていますけど……やはり、実戦となると」
この二人は、盗賊に殺されかけた事実もある。もし訓練の成果が出ているなら……結果は違ったのかもしれない。
私は言う。
「あの、当日、お二人は見学に来られるのですか?」
「……行きたいんだけど、ダメだって」
「ええ。盗賊の一件で、しばらくは城から出ないこと、魔法や戦闘の訓練もしばらくお休みになりました。私たちの心の傷が癒えるまで、遠ざけるようにしたらしいです」
愛されているんだろうなあ……彼女たちのお父さん、国王陛下はいい人みたい。
私は紅茶を飲み……おいしい……のどを潤す。
「『木星』……が、見学に来るようですが、どのようなお方なのですか?」
「ん~……怖いとかないね。優しい感じで、すっごくニコニコしてる。でも……一緒に来る異端審問官は、怖い顔してる」
「そうですね。私は……苦手です。なんというか、その……私たちを見る目が、その」
「……動物、ですか」
シエスタ姫は、小さく頷いた。
やっぱりそうか……あの、三級異端審問官のトゥルエルも、私のことを人として見ていなかった。
私が犬猫を可愛いと思うのと同じ。
「天上人は、人を人と見ず、管理すべき生物と認識している……とは、よく聞きます。あのお方は、我々ヒトも、動物も、全て同じなのです。そうとしか思えないような……」
「……シエスタ姫」
シエスタ姫は、紅茶カップをソーサーに置く。
好かれてはいない。それだけでも、私は安心した。
安心して──斬れる。
「その方が、存在しなくなることで……この国に不利益はありますか?」
「……え?」
「イチゴ?」
「モノのたとえです。ちょっした、茶会の戯れと思っていただければ」
グレーテル姫は首を傾げていたが、シエスタ姫は考え込む。
そして、小さく首を振った。
「現状、あのお方がこの国に何かをもたらすことは一度たりともありません。天上人であるがゆえに、こちらも無下にできないだけで……害はないが、利益もない。といったところでしょうか」
「なるほど……」
思った以上に真面目な返事が返って来た。
私は残った紅茶を飲み干す。
シエスタ姫……この方は頭もいいし、王族としての気質、高貴さを持ち合わせている。
それからお茶、お菓子、会話を楽しんでいると、騎士が来た。
「失礼いたします。陛下の準備が完了しましたので、謁見の間に起こしください」
「えー? もう? お父様ってば、もっとゆっくり準備していいのに。ね、イチゴ」
「そんな。私のような平民にお会いしてくれるだけでも光栄なことですので。むしろ、私なんかのためにお時間をいただくのも」
「イチゴ様。あなたは、私とグレーテルの恩人。私なんかのために、など言わないでくださいな」
シエスタ姫にちょっと叱られた……冗談だろうけど、こういう会話ができる同性って悪くない。
◇◇◇◇◇◇
謁見の間に案内され、重々しそうな扉が開く。
入場を許可され進むと、玉座には一人の男性が座っていた。
このデュミナス帝国の皇帝。シエスタ姫、グレーテル姫の父親。
「よくぞ参られた。娘の恩人よ」
跪いて胸に手を当てると、皇帝は「面を上げよ」と言った。
顔を上げ、皇帝を見たが……驚いた。かなり若い。
まだ二十代後半? そう見えてもおかしくないくらい若かった。
そして、隣には女性。王妃だろう、シエスタ姫によく似ている。
見てわかった。この二人の笑顔は、とても暖かい……とても軍事国家の皇帝とは思えない暖かさを感じた。
「ああ、ようやく会えましたね。娘の恩人……あなたには礼を尽くしても尽くしきれません。本当に、ありがとうございます」
王妃が涙ながらに言う。
いちおう、貴族令嬢として教育は受けたけど……こういう時、どうすればいいのかな。
とりあえず、下手なことは言わずに「はい」とだけ答える。
周りには大勢魔法騎士もいるし、杖の所持は許可されたからオウマはいるけど、不敬罪とかで拘束でもされたら戦うしかない……なんて思ってしまった。
「恩人、イチゴと申したな。何か望む物はあるか? 私にできることは何でもかなえよう。ああ、その前に……」
皇帝がチラリと目配せすると、騎士が盆に大きな袋を乗せて持って来た。
「まずは謝礼だ。受け取ってくれ」
「……ありがたき、幸せ」
す、ステラ白金貨が百枚以上……嘘でしょ。
ちなみに、1ステラでパンが一個買えるくらい。鉄貨、銅貨、銀貨、金貨とあるが、白金貨は一番高い金貨で、価値は1枚で一千万ステラ。平民が持つ物じゃないし、高位貴族が金銭のやり取りなどで使うための金貨だ。
私は一度も見たことがないし、貧乏騎士爵だった家では金貨ですら見たことがなかった。
受け取るしかなかった。こんな金額受け取れないなんて言おうものなら、皇帝の謝礼を拒否したことになるし、皇帝の顔に泥を塗ることにもなる……めんどくさいわ。
『うっひょー、一気に金持ちだな。今日は肉、酒を食いまくろうぜ!!』
(ちょっと黙ってなさい……)
とりあえず……しばらく路銀の心配はなくなったわね。
そして、次。
「さて、望みはあるか? なんでもかまわんぞ。ああ、私にできないことは勘弁してほしいがな。はっはっは」
「まあ、あなたってば。ふふ」
楽しそうにしてますけど……私としてはもう充分なんだけど。
こういう時、どうすればいいの? 『もう充分です』とか? わかんない……前の世界でも王様とかに謁見したことあるけど、こんな高貴な感じじゃなかったし。
斬るのは得意だけど、こういうのは苦手……なんか自分のこと知れたわ。
「で、では……私は平民の身ではありますが、これからも姫様方と、同性の友人として接することを、お許しください」
ど、どうだろう……?
私が男だったら、姫様狙いの男かなんて言われるかもだけど、女同士だし……うう、怖い。
すると皇帝はポカンとして、すぐに笑った。
「はっはっはっはっは!! 面白いことを言う。もちろん、これからも友人として接してくれ。なあ」
「ええ、娘たちも喜びますわ」
よ、よかった……これで正解だったみたい。
小さく息を吐く、すると。
「さて、願いはどうする?」
「…………」
ただ「斬る」だけじゃこの世界は生きていけないと、私は学ぶのだった。




