兄と妹
「…………ぅ」
身体が重い……風邪を引いた時みたいな感覚。
目を開けると、オウマの背中が見えた。
私が起きたのに気付くと、だるそうに私を見る。
「おう。起きたか」
「……オウマ」
「寝てたのは五分くれーだな。ま、俺の能力を使った反動だ。使い続ければ慣れるとは思うが、あんま使うなよ。ここぞってときに使うようにしておけ」
「……そうね」
周りを見渡すと、木陰だった。
戦った平原の近くにある木の下で、柔らかな風が心地よい。
目を閉じ、しばし風を感じている。
「おお、起きた起きた。ふふ、可愛い寝顔だねぇ。殺人鬼の寝顔は天使、かな?」
「……最悪」
アレイスターの顔を見たら、爽やかな気分が吹っ飛んだ。
「いやあ、見てくれ。あの子、マキナちゃん……ふふ、トリスに懐いちゃって、まるで姉妹のようだ」
銀血で作った椅子テーブルに座ったトリスの隣にはマキナがいて、クッキーをモグモグ食べていた。トリスもまんざらではないのか、マキナの頭を撫でているし……何があったのかな。
すると、近くから声。
「……ケガ、ないか」
振り返ると、木にハイドが寄りかかっていた。
私は立ち上がり、首を軽く回す。
「ええ。あなたの攻撃というより、能力を初めて使ったせいで昏倒したみたい。気にしなくていいわ」
「そうか」
「……それで、私が負けた以上、あなたの質問に答えるわ」
「……ああ」
「ハイドでいい? ハイド……あなた、誰を探しているの?」
「…………」
ハイドは、マキナを見て、そして私を見て言った。
「オレとマキナの故郷を……世界を滅ぼした異端者、そしてそいつを操っている異端審問官……『八極星』の一人、『火星』を司るアイレース……あの女を殺す」
ハイドは、歯が砕けんばかりに噛みしめていた。
「お前ら、『機械』ってわかるか?」
「…………??」
アレイスターを見ると、肩をすくめて首を振る。
「マキナは、『機王デウスエクスマキナ』っていう神器でな、能力は『兵器の再現』だ。オレのいた文明の機械兵器を再現できる。でも……オレは機械オンチでな。機械兵器とかサッパリでよ……四肢にブースター付きのアームズで殴る蹴るくらい、灼熱砲くらいの再現が精いっぱいだ」
「「…………」」
何を言ってるのかさっぱり……私が『斬る』ことを当たり前に知ってるのと同じ、ハイドにとって『キカイ』は当たり間のものなのかな。
アレイスターは、興味深そうに聞く。
「それで? きみはあの子とどういう関係だい? どこで拾ったのかな?」
「……マキナは、オレがガキのころから近くに住んでた。ボロ小屋に一人暮らしで、ウチで引き取ったんだ。でも……あのナリから成長しないことが不思議でな、調べたら人間じゃねぇことに気付いた。でも……家族だった」
「……妹、みたいな?」
「ああ。オレの可愛い妹だ」
ハイドは、トリスに頭を撫でられているマキナを、優しい顔で見ていた。
だが……すぐに表情が変わる。
「だがある日、ヤツがやってきた」
「……ヤツ?」
「ほほう、きみがこの世界に来ることになった元凶だね!! わくわく」
アレイスターを黙らせる。
ハイドは、拳を寄りかかっていた木に叩きつけた。
「アルシエノ……あいつが、オレを……裏切った。あいつは、神器に魅入られて……『火星』のアイレースに魂を売った!! クソ……あいつは、オレの家族を殺して、世界を崩壊させて、アイレースと取引して、この世界に来た。異端審問官として、アイレースの右腕としてな……!!」
「…………アルシエノって?」
ハイドは、本当に辛そうな声で言った。
「オレの幼馴染……だった」
「ほほー、幼馴染が神器に魅入られて豹変し、アイレースに忠誠を誓ったと。つまり……キミの世界が崩壊した責任をキミに押し付け、キミは異端者としてこの世界に来た、というわけかい」
アレイスターがわかりやすくまとめると、ハイドは頷いた。
「アルシエノはオレが殺す。アイレースも殺す。オレが闘技大会に参加しようとしている理由は……『木星』のユピテルを殺して、どこかにいるアイレースとアルシエノに伝えるためだ。オレは、お前らを殺す……ってな」
「う~ん、キミもブッ飛んでるねぇ。てか、死ぬよ?」
アレイスターが言うと、ハイドが睨む。
「キミ、異端者はともかく『八極星』を馬鹿にしてるよ? あの超常の存在は、その気になれば星一つ軽々砕ける強さを持つんだから、いくら神の創造した神器を持とうとも、敵うわけない」
「あ? だから何だ」
「死ぬって言ってるの。ま、僕はどうでもいいけどね」
そして、ハイドはアレイスターの胸倉を掴んだ。
「テメェに何がわかる。やってみないとわかんねーだろうが」
「そうだね。まあ、異端者はどうにかできるんじゃない? でも、『八極星』はムリ無理」
「そうとも限らないわよ」
私がそう言うと、男二人が注目する。
「ここ、神の創造した世界なんでしょ? だったら……この世界を破壊できるくらいの強い力は出せない、出さないはず。それだったら、その『八極星』とかいう天上人との戦えるんじゃない?」
「おーっと、確かにそうかもねぇ」
「……オレは最初からそのつもりだ」
ハイドは、アレイスターを離す。
「お前ら、何でもいい。神器のこと、異端者のこと、天上人のこと……知ってること、何でも教えてくれ。戦うための情報が欲しい」
「…………」
「僕は別にいいけど、大した情報はないよ?」
「それでもいい。どこにいるかわからねぇが……さすがに『木星』をぶっ殺せば、アイレースとアルシエノも反応するだろ」
「…………ねえ、ハイド」
ハイドは「あ?」と私を見た。
「あなたの復讐、付き合っていい?」
「あ?」
「はい? イチゴくん、キミ……そこまでお人好しだったのかい?」
「違うわ。どうせ私も天上人に追われる立場だし……どうせなら、その『木星』とかいう天上人を斬ってみたいわ。オウマ」
「あん?」
クッキーを食べていたオウマがこっちを見た。
「あなたの能力、何でも斬れるのよね」
「おう。神も斬れるぜ。ま、俺は七つの神器で最強の『六天魔王』だからな。がっはっは!!」
「はあ? あなたが最強? 笑わせるわね」
「あ? んだ不細工ブス、テメェのクソ能力で俺に勝てると思ってんのか?」
喧嘩を始めたオウマたちを無視し、私は言う。
「私、斬ってみたいわ」
「「…………」」
アレイスター、ハイドがポカンとしている……変なこと言ったかな?
そして、アレイスターが笑い出した。
「あっはっはっはっは!! いや~、イチゴくんは面白いねぇ。まあ、僕としては天上人の、しかも『木星』の死体、脳が手に入るなら協力してもいいよ?」
「……お前、本気か?」
「ええ。本気……まあ、そんなことしたら間違いなく、この世界で追われるわね」
「だねぇ。それでもいいのかい?」
「別に問題ないわ。来るなら斬ればいいし……ハイド、あなたは?」
「オレは、復讐できればどうでもいい……マキナも同じ気持ちだ」
「決まりね」
私は言う。
「ああ、でも闘技大会は出たいわね。あなたほどの強者は出ないでしょうけど……」
「……オレは辞退する。『木星』が来るのと、お前らが手を貸してくれるなら……それでいい」
「じゃあ、私は参加する。ああそうだ、戦うなら国内じゃなく、外でね。私の知り合いのお姫様がいる国だし、被害は出したくないからね」
「わかった」
「ふふん、面白くなってきたねぇ」
こうして、私たちは協力し……最強の天上人の一人を殺すために動き出した。




