王都へ
馬車は順調に進み、デュミナス帝国の安全圏内に入った……らしい。
私はずっと馬車に乗っていた。てっきり、魔獣とか出ると思ってたんだけど……おかげで、お姫様姉妹とずっとおしゃべりできた。
王都を囲う壁が見え、グレーテル姫が窓を開けて覗き込む。
「見えた―!! ああ、やっと帰って来た……」
「グレーテル。帰ったら、まずはお父様、お母様にご挨拶よ」
「うん。それと……わたしたちを守ってくれた騎士たちも」
「……そうね」
この二人は、死んだ騎士のことをずっと気にしていた。
遺体は運べなかったから、その場で火葬して埋めたけど……遺品は丁重に扱い、遺族に十分な補償をするようにと、ローエン騎士に言いつけていたわね。
心優しい姉妹なのね……本当に、救えてよかった。
私はシエスタ姫に言う。
「シエスタ姫。私たちは王都の入口で降りますので、後日また」
一国の姫君が盗賊に襲われたのだ。やることなどたくさんあるだろう。少し時間を置いてから会うのがベストだろう。
「……わかりました。では、こちらを」
シエスタ姫は、首に下げていたペンダントを私に差しだした。
国家紋章が刻まれたペンダントだ。これは王族の証で、許可なく王族の証を所持することは重罪……所持がばれたら問答無用で死刑である。
「これを持って会いに来てくださいね、イチゴ様」
「お預かりします」
「イチゴ、すぐ会いに来てね!!」
「はい、近日中に必ず」
馬車は正門を抜け、城下町の入口へ。
そこでアレイスターと馬車を降りた。
「では、お二人とも……また」
「必ずだよ!!」
「イチゴ様、アレイスター様、ありがとうございました」
馬車は王城へ向けて走り去った。
そして、騎士の一人が大きな包みと金属のエンブレムを私へ。
「十日分の宿代だ。このまま街道をまっすぐ進むと、王都の中心にある『ホテル・グラッツェ』という高級宿がある。この騎士団の証を見せれば格安で泊れる。騎士たちからの感謝の証だ」
「感謝します」
「いいねいいね。頑張った甲斐あったよ~」
騎士は「では、またいつか」と言って去った。姫様たちと方向が違うし、近くに詰め所でもあるのかな。
とりあえず、宿は確保できたかな。
「さ、宿に行こうか。その後は王都観光かなぁ」
「……あなたと一緒に?」
「え、嫌なの?」
「ええ。オウマと回るわ」
「そんなぁ。そうだ、せっかくだしダブルデートなんてどうだい? 僕と君、オウマくんとトリスで」
「最低最悪の組み合わせね。絶対に嫌」
私はアレイスターを無視し、町の中心に向かって歩き出した。
◇◇◇◇◇◇
デュミナス帝国。
私の住んでいたマルセリア王国とは比べ物にならない大国……すごいわね。
「デュミナス帝国は、マルセリア王国の六倍以上の領地を持つ大国さ。武力だけなら、世界でも五指に入る強さだね。王都の一角だけで、マルセリア王国の城下町がすっぽり入る広さだね」
「解説どうも」
確かに、活気が違う。
建物はどれも高いし、広い街道、両サイドには大きな店がいくつも並んでるし、いい香りもそこらじゅうからする……なんか、お腹減ってきたかも。
「イチゴくん、きみさ、僕に感謝しなよ」
「……なに、いきなり」
「道中、魔獣が一体も出なかったでしょ? あれ、僕が全部こっそり退治してあげたんだよ。盗賊に襲われて傷心中の姉妹たちを怖い目に合わせたくなかったしね」
「その言葉が真実である証拠、ある?」
「ないね。ま、理由なく僕がこんな嘘をつかないってのが証拠かな」
「…………」
正直、「確かにそうかも」って思ってしまった。
こいつ……胡散臭いし信用できないしムカつくけど、意味のないことはしない気がする。
「それで、何か依頼でもあるの?」
「うん。きみさ、武闘大会に出るんだよね」
「そうよ」
「じゃあ、間違いなく異端審問官との戦いになるね。その時に、戦った相手に興味がなれけば、死体を僕に譲ってほしいんだよ」
「…………」
「死体の研究はしたけど、まだ少し『脳』が足りなくてねぇ。天上人の脳……僕の『銀血』を改良するいい素材になりそうなんだ」
「……好きにしたら。でも、異端審問官が出てくるとは限らないわ」
「ま、僕らが始末したのは三級の雑魚だしねぇ。僕らの情報がどこまで共有されてるかわからないけど、マルセリア王国管轄の天上人が二人死んだのは事実。その調査はたぶん始まってる……いずれ、僕らのこと突き止めて、始末しに来ると思うよ」
「…………」
「しかも今回、『八極星』も来る。直接やり合うのはいいけど、たぶんキミ死ぬねぇ。そうすれば、キミの死体も好きにできるんだけどねぇ」
「最悪」
町の中央に到着し、『ホテル・グラッツェ』と書かれた看板を発見。
宿に入り、騎士団の証を見せると待遇が変わり、一番いい部屋を二つ確保できた。
荷物を起き、オウマを顕現させる。
「やっと到着か。んで、どうする? 買い物か?」
「そうね……散策もいいけど、闘技大会の会場を見たいわね」
「じゃあ行くか。あの胸糞悪い白いヤローはどうすんだ?」
「知らないわ。とにかく、行くわよ」
部屋を出ると、アレイスターとトリスが待っていた。
「闘技場まで行くなら、案内するよ?」
「……あなた、この国来たことあるの?」
「いや? 馬車で隣に座っていた御者くんが、この町のマップを持っててね、地図を暗記したのさ」
「…………」
トリスは、「断れ、断れ」みたいな目で見てる。
でも……その、正直に言う。私……方向音痴なのよね。
「……お願いするわ」
「決まりだ。さ、ダブルデート、ダブルデート」
「むうう、ご主人様ぁ、こんな不細工なんて無視して、わたしと行きましょうよぉ」
「ダメダメ。さあ、行こうか」
「……トリス。私のこと不細工っていうのやめてくれない?」
「ケッ、おいイチゴ、さっさと行こうぜ」
こうして、四人で町を出歩くことになるのだった。
◇◇◇◇◇◇
アレイスターの案内で、城下町を歩く。
「デュミナス帝国は鍛冶業……杖の製造が盛んなんだ」
「ふーん」
「おい、酒飲みてぇ」
「黙りなさい不細工」
正直、みんな仲がいいとは思えない。
そもそも、アレイスターと一緒に旅をするっていうのも……考え直した方がいいかもしれない。
「闘技場は、デュミナス帝国の象徴でもある。闘技大会は年に一度のお祭りで、世界中から腕自慢が集まる楽しいイベントさ。ま、僕みたいな研究者には縁がないけど、見るだけなら面白いね」
「……あなた、強いくせに戦いに興味ないの?」
「僕が強いのは、ただ研究成果が優れているからにすぎないよ。結果的に強いだけで、強さを求めて戦い続けるきみとは、次元の違う強さだね」
「ふーん……」
「お? せっかくだし、闘技場に行く前に冒険者ギルドにも行くかい? マルセリア王国とは依頼の数も、質も違うと思うよ」
アレイスターが指差したのは、マルセリア王国にある冒険者ギルドの数倍以上大きな建物だった。すごい……四階建ての冒険者ギルドなんて初めて見た。
「……今はいいわ。まずは闘技場ね」
「はいはーい」
そして、歩き続けること数十分……到着した。
「……すごい、これが」
「闘技場。すごいねぇ、もしかしたら、向こうに見える王城より大きいんじゃないかい?」
アレイスターの言う通りだった。
巨大なドーム状の、歴史ある建築物って感じがする。少なくとも、私のいた世界では見たことのない大きさで、建築法とかも理解できない。
いろんな人が出入りしている……それに。
「……面白くなりそうね」
強い気配がたくさん……ゾクゾクする。
「あれ、イチゴくん。あそこが受付みたいだよ……お、しかもあの騎士、見覚えあるねえ」
受付には、一緒にここまで来た騎士がいた。
私たちに気付き、近づいてきた。
「きみたちか。ちょうどよかった、たった今受付を終えたところだ」
騎士は私に参加証を差しだした。
「ありがとうございます。まさか、こんな早く受付してくれるなんて……」
「ははは。今年の大会は、過去にない最大規模の大会になりそうでね、姫様にも『すぐ受付してきて』と頼まれたのでね」
「ふふ、感謝しかありませんね」
参加証をポケットに入れる。
「さて、参加証は確かに渡したぞ。ルール説明だが……」
「そこまでご迷惑をおかけするわけにはいきません。受付で確認しますので、大丈夫です」
「そうか。では、武運を祈る」
騎士は敬礼し、去って行った。
受付でルールを確認……予選で勝ち抜けば本戦出場可能、戦いにおいて生死は問わず。他にも細かいルールはあるが、これだけだ。
「シンプルだねぇ。ようはルール無用の勝ち抜き戦か。人が死んでも構わない、自分が死んでも構わない。そういう戦闘狂だけが集まる大会……優勝者には賞金と、どんな望みも一つ叶える、か……やれやれ、野蛮だねぇ」
「うるさいわね。研究者は黙ってなさい」
シンプルでいい。
大会は十日後……それまで、冒険者ギルドで依頼を受けて腕を鈍らせないようにしないと。それに、王城でシエスタ姫やグレーテル姫にも会わないといけないわね。
やることが多いけど……なんだか、ワクワクする。
「……おい、イチゴ」
「……ご主人様」
すると、オウマとトリスが険しい顔をしていた。
そして……視線を私たちの背後に向ける。
そちらに視線を向けると、一人の少年が闘技場を見上げていた。
いや、一人じゃない。少年の腰に、一人の少女がしがみついていた。
「……ハイド、ハイド」
「ん、どうしたマキナ」
茶髪の少女が、私たちを見て怯えているように見えた。
少年が私たちの方を向く。
そして……背中がゾクリとした。
この人、強い。
「…………」
向こうも気付いた。私を見て目を細め、少女を庇うように前に出る。そして、オウマを見て、トリスを見て……察した。
私も察した……この人、まさか。
「オマエ……同類かよ」
オウマが、少女を見て言った。
トリスも鼻を鳴らし、腕組みをして言う。
「まさか、神器がここにもいるなんてね」
「おおお~、ははははは!! これは面白いねえ、まさか三人目の『異端者』がここにいるなんて!! いやあ、世界は実に面白い!!」
少年は、アレイスターを見て、私を見て言う。
「……お前ら、オレの敵か? お前ら……異端審問官に付いてる異端者か」
「はあ? 私たちが? そんなわけないでしょう」
「待った。その言い方……フフフ、異端審問官に付いた異端者がいる、それを知っていると言わんばかりだねぇ。キミ、何者だい?」
少年は、警戒したまま私たちに拳を向けてきた。
「オレはハイド。こっちはマキナ。オレとマキナのいた世界を壊した異端者と異端審問官を探している。お前ら、知ってることあれば話してもらうぜ」
敵意。
戦いは、避けられそうにない……私はそう感じた。




