旅路
「…………」
「ふふふ」
「…………チッ」
「…………」
私、アレイスター、オウマ、トリスの四人で、国境を越えた先にあるデュミナス帝国へ向かっていた。
今は森の中。国境から伸びる街道を通っているんだけど……けっこう薄暗い。しかも、会話もないし。
マルセリア王国でけっこうドンパチしたし、私が家出したタイミングから何かあると思ったけど、国境はすんなり超えることができた。
そして現在、デュミナス帝国領内に入り、王都を目指している。
道中、魔獣なども現れる。
「……オウマ」
「おう」
変身し、両手に刀を持ち構えると、藪から小鬼が飛び出してきた。
数は五匹。
私は、魔力により身体強化をして一閃。
一瞬で五匹の首を刎ねると、小鬼はそのまま倒れた。
アレイスターは拍手をする。
「すごいねぇ、全く見えなかったよ」
「……あなた、デュミナス帝国に入ってから一度も戦ってないわね」
「そりゃ、僕は研究者だしね。戦いは狩人のきみに任せるよ」
変身を解き、アレイスターを睨むけど……全く気にせずニコニコしてる。
ここ数日、こいつ(もうこいつ呼ばわりすることにした)と一緒にいるけど、何もかもが胡散臭い。
まずこいつ、寝ない。
それと、トイレにも行かないし、戦いもしないし、暇があれば『聖典ピカトリクス』に何かを書いては満足してウンウンしている。
アレイスターは、ニコニコしながら言う。
「そういえば、きみの『六天魔王』くん、どんな能力を?」
「……能力?」
「さすがに冗談だよね?」
アレイスターは、ニコニコしながら首を傾げる。
そして、人型になったオウマが言う。
「俺の固有能力は、封印されたままだ。まあ、弱まってる感じはあるし、イチゴ次第で使えるようにはなるだろ」
「興味深い。ああ、ちなみにトリスの固有能力は『論理実現』という。彼女に書いた論理が正しければ、ノーリスクで自在に行使できるというものだ」
「でも、ご主人様はぜんぜん使ってくれませんね。わたしのこと、メモ帳扱いしてるし」
「ははは。きみのページはなくならないし、メモ帳として最高なんだよ」
「ふふ、うれしい」
……何を見せられているんだろ。
それより、固有能力。
「ねえオウマ。あなた、固有能力のこと前の世界でも言わなかったわね」
「オマエ、強すぎんだよ。ぶっちゃけ必要なかった」
「……まあ、今度は使うわ」
それからしばらく森を進み、ようやく街道に出た。
「ふう……太陽がまぶしいわね」
「そうだねぇ。うんうん、そろそろティータイムにしないかい?」
「…………」
「おお怖い。そんな目で見ないで……おやぁ?」
アレイスターが何かを見つけた。
視線の先を追うと……そこにあったのは、街道から外れた先にある壊れた馬車。
人も何人か倒れており、ただ事ではない感じがした。
「盗賊かねぇ。デュミナス帝国は治安が悪いって話を聞くけど、まさかこんな街道の往来で盗人が出るとは。おお、怖い怖い」
「ご主人様。わたしが守るからご安心くだしさいね」
「おおお、トリスは優しくてかわいいねぇ」
「ンんん~、もっと撫でてくださぁい」
……馬鹿は放っておこう。
私はオウマに目配せし、オウマもややめんどくさそうだったが頷いた。
そして、馬車に向かって走り出し、倒れている人……魔法騎士を起こす。
数は十人以上、半分以上は死んでいる。
周囲には壊れた杖や、壊された馬車、荒らされた物資などが転がっている。街道の外れにある森に、何かを引きずったような跡もあった。
「しっかりしなさい。何があったの?」
「ぅ、あ……ひ、め、様……が」
「ひめさま。姫様? お姫様なの?」
「たの、む……」
森を指差し、そのまま気を失った。
私は立ち上がると、オウマがモヤとなって私を包み変身する。
「あれ、行くのかい?」
「……ええ」
「きみ、殺人鬼じゃないの? なんで救うようなことするんだい?」
「……勘違いしているようだから教えてあげる。私は、救いを求められたら手を差し述べるし、お願いされたら理不尽じゃない限り聞くわ。殺すのは結果的にそうなってるだけ。その過程を楽しんでいるだけ」
「ふ~ん。殺すのに、救うんだ。矛盾してるねぇ……その矛盾、いつかきみを殺すよ?」
「かもね。でも、あなたが死ぬ方が先かも。それより……どうせ手を出すつもりがないんでしょ? だったら怪我人の手当てくらいはしなさい」
「え~?」
嫌そうな声を出すアレイスターを無視し、私は森に突っ込んだ。
そして……ところどころに、破れた衣類が散らばっているのが見えた。
高価そうなドレス……もったいないわね。
「へへ、お姫様……運がなかったなぁ」
「くけけ、かわいいねぇ。怯えちゃって」
……ゲスが五匹、いた。
服を破かれた女の子が二人、一人は私と同い年くらいで、もう一人は少し年上かな。
下着姿で怯えているのが見える。
「わ、私が相手をします。どうか、妹には手を……」
「馬鹿か。命令できる立場か? ぁうん」
私は無言で、馬鹿そうな男の心臓に背後から刀を突き刺した。
「な……なんだて」
声を出してるヒマなんてあるのかな?
私は男の首を切断し、杖を出そうとしていた男の両手首を切断。手首がなくなった痛みで絶叫したので、そのまま喉を突き刺して始末した。
「あと三人」
ようやく、盗賊たちが戦闘態勢に。
一人は指揮棒型の杖、もう一人はナックルを装備し、もう一人はロングタイプの杖を装備。
私に向かって魔力による衝撃波を放とうとするが、魔法発動より早く接近し、三人まとめて首を切断した。
飛び散る血。首の断面から噴き出す血。
「大丈夫?」
「──……」
「………ぁ」
あ、気絶しちゃった。
まあ……これだけ血が噴き出したり、転がる頭があれば、女の子には耐えられないか。
私は変身を解き、オウマに言う。
「運んで」
「へいへい。服、どうする?」
「そうね……まあ、臭いの我慢してもらいましょうか」
私は、死体のマントを二枚剥ぎ取り、二人の身体にかけてやった。
街道に戻ると、アレイスターがいた。
「や、おかえり~」
「…………」
こいつ……銀色のテーブルに椅子を二脚用意して、トリスと紅茶飲んでる。
「そんな顔しないでくれよ。手当は終わったよ。ついでに、馬車の修理もした」
「え?」
なんと、壊れた馬車が修理されていた。
折れた車軸とか壊れた部分が銀色になってる……ああ、『銀血』で修理したのね。
けが人は包帯が巻かれて綺麗に並べられているし、死体は手を組ませて並べてある。
「驚いた。死体を『研究素材だ』なんて言って、好き勝手するかと思ったのに」
「残念。死体の研究はもう終わってるんだよねぇ。賢者の石とか必要なら死体も使うけど、欲しいの?」
意味がわからないので無視。アレイスターは立ち上がり私の傍へ。
オウマは、草の上に女の子二人を並べ、欠伸をしてアレイスターの座っていた椅子に座り、テーブルにあったクッキーをボリボリ食べ始めた。
「そこの不細工野蛮、誰が座ることを許可したの? それと、わたしの手作りクッキーを食べる許可を出した覚えもないんだけど……」
「あぁぁん? んなもん許可いらねぇだろ。つーかこれオマエの手作りかよ。ぺっぺ!! もっと甘口にしやがれってんだブスが」
「あ? へし折るぞこの野郎」
「やってみろ、その乳もぎ取ってやろうか」
……もうあの二人は無視。
アレイスターは、女の子の顔をマジマジ見る。
「この子たち、デュミナス帝国の王族で間違いないねぇ」
「王女様、ね……謝礼、もらえるかしら」
「おや、お金ないのかい?」
「ないわ。旅道具で全部使っちゃったし、家に寄るヒマもなかったからね」
「貸してあげようか? 僕、お金持ちだよ?」
「あなたから借りるなんて死んでも嫌」
アレイスターは「残念」と肩をすくめる。
すると、騎士たちが起き始めた。
私は水のボトルを出し、起きた騎士の一人に差しだす。
「大丈夫ですか?」
「……きみは」
「彼女たちは無事です。私が助けたので」
「──姫様!!」
騎士は怪我を無視して立ち上がり、ひどく顔をしかめ胸を抑えた。
「慌てないで。大丈夫です、彼女たちに怪我はありません」
「……きみは」
「マルセリア王国からの旅人です。偶然、壊れた馬車を見つけまして。そちらの騎士の方が『姫様を頼む』と森を指差したので……盗賊を奇襲し、二人を助けました」
「……そうなのか。ありがとう……ありがとう!!」
老齢の騎士は私の手を握り、感謝する。
感謝されるのなんて、久しぶり……ちょっと照れるかも。
「ところで、謝礼の話だけど」
「あ、ああ。もちろん」
「……こいつは無視していいです。あなた、黙ってなさい」
「はいはーい」
「……とりあえず、彼女たちが目覚めるまで、ここは私が護衛をします。動ける人たちの介抱を」
「わかった。旅人たち……感謝する」
私は、アレイスターに言う。
「あなたも手を貸しなさい」
「えー?」
「…………」
「わかったよ。そんな冷たい目で見ないでくれ……ゾクゾクする」
アレイスター……こいつやっぱり変人だわ。




