第二話 監査
天界第4層アウラステア・第2区域/霊導調整局長室――
「そちらで、本日分はすべてです」
〔最近、魂の質が落ちていくのではないか〕
「申し訳ございません。どうかご容赦ください」
〔まァ、いい。監査局は?〕
「こちらでは確認できませんでした」
〔早く監査局を潰さねばならぬのだぞ。〕
「承知しました。次回は、より純度の高いものを手配いたします」
〔期待しているぞ、レオン〕
通信は途切れ、残されたのはわずかな静寂と、空気に漂うノイズの余韻だけ。
「……チッ。あの腐れ悪魔が。現場の苦労も知らずに」
端末の点滅が目に入る。新着監視ログだ。
レオンが画面を操作しようとしたその瞬間――
トントントン――
重い扉を叩く音が、静かな室内に響き渡った。
「誰だ! 今は忙しいんだ!」
扉がゆっくりと開き、暗い影が室内に滑り込む。
「監査局・天界第4層第2区域配属、セファルだ」
「レオン・カルディアはお前だな」
その声が室内に響いた瞬間、レオンの姿が悪魔の形へと変貌する。
「それがどうした?」
「お前に監査命令が下っている。取引した悪魔を教えれば、楽に死なせてやれるが――」
言葉が終わらぬうちに、レオンは剣のごとく飛びかかる。
「対話する気はないようだな。監査開始」
「俺が殺せるわけねえだろうが!」
⦅四級黒炎魔法・黒炎墜天⦆
声に合わせ、無数の燃え盛る大槍が翼の形を描き、セファルに向かって飛ぶ。
しかしセファルは微動だにせず、槍を軽々とかわしながら静かに前へ進む。
⦅四級神聖魔法・聖炎律化⦆
大槍は瞬く間に炎に包まれ、無に帰した。
焦燥を滲ませるレオンが次の魔法を展開しようとしたその瞬間――
⦅二級神聖魔法・天極剣⦆
目に映った剣と同時に、レオンの首は断ち切られた。
「おい、やめろ――!」
「黙れ。最後に聞く。取引した悪魔は誰だ」
「……」
「それが答えか」
頭を潰そうとする手に、レオンはかすかに笑みを浮かべ、口を開いた。
「俺が取引した悪魔はな――」
ぺっ――
唾がセファルの顔を打つ。次の瞬間、レオンの頭は無惨に潰された。
「監査完了。帰還する」
部屋には静寂だけが残った。燃え残る魔法の痕跡と、冷たい空気。
その場に立つセファルの影は、微動だにせず、ただ死の匂いを嗅ぎ取っていた。




