File:075 後継者
感想に「ひと昔前のジャンプのSF漫画に多い設定に感じました」というご意見を頂きました。
意識しているつもりはなくてもそういう作品に影響を受けているんだなぁとしみじみ思いました。
あとがきにいい機会なので影響を受けた漫画やアニメを上げときます。
「……は?」
前崎から漏れた第一声は、あまりにも素っ気なく、空虚だった。
その唐突な言葉が意味するところを、脳が理解しようと足掻くが、現実感が追いつかない。
後継? 俺が? お前の?
「……後継になるって、どういう意味だ?
そもそも、お前は何者だ?
何が目的なんだ?」
ルシアンと同系統の男には見えるが……
『当然の疑問だね』
アレイスターは、まるで予言された質問に応えるかのように動く。
どこから取り出したのか分からぬ急須と湯呑を、机の上に並べた。
湯気が、静かに立ち上る。
この空気の張りつめた場で、突如始まる異質なティータイム。
飲食は禁止のはずだったが、誰も指摘する気にもなれなかった。
『私は――かつて、アダルトレジスタンスの初期メンバーだった。
……知っていたかな?』
空気が凍りついた。
まるで一瞬、時が止まったかのように。
その一言に、前崎と坂上は目を見開き、無意識に視線を交わす。
驚愕、困惑、猜疑。
入り混じった感情が、表情ににじむ。
だが――ただ一人。
一ノ瀬だけは、その言葉に微動だにしなかった。
「……知ってたのか?」
前崎が低く問いかけると、一ノ瀬はほんのわずか、視線を伏せて頷いた。
『昔、ある事件をきっかけに――私はルシアンと決裂した。
今の私の目的は、彼の保持する演算技術と、転送装置の中核データを手に入れることだ。
だがそれは、SGの中にある。』
アレイスターは静かに湯呑を口に運ぶ。
一切の無駄を削ぎ落とした所作。
その静けさが、かえって異様だった。
まるで儀式のようだ。
『今の私には、その場所すら分からない。
仮に場所が分かったとしても、一人でそこへ辿り着くことはできない。
だからこそ――君たちに、案内を頼みたい』
「……断る。というかできない」
前崎は間髪入れず、きっぱりと首を振った。
「俺はあいつの装置なんて見たことがない。
ただ言われた通りに動いてただけだ。
場所も、ルートも、何も知らない。
……というか、本気で言ってんのか?
こんな状況で?」
警戒よりも先に、呆れが口をついて出た。
勘づいてはいた。
だが、あまりにも唐突な“選定”に、前崎の思考は整理されない。
その時――沈黙を破ったのは、一ノ瀬だった。
「……いえ、前崎さん。
攻めること自体は、“完全に不可能”というわけではありません」
「……なんだと?」
「さくらテレビ襲撃の際、アダルトレジスタンスが不動から奪った電子端末がありました。
私はその残滓データを独自にネットへ接続し、逆探知しました。
ログ解析の結果、転送に使用された“ポイント”を複数割り出せたのです。
現在、候補地点は――かなり絞り込まれています」
冷静に、理路整然と、一ノ瀬は語った。
まるで“既に道筋はある”と言わんばかりの、確信に満ちた語調で。
「……だとしても、それは所詮転送地点だ。
あの“基地”に辿り着けはしない」
前崎は眉をひそめた。
直感的な違和感が、言葉になる。
「なぜ……そう断言できるのですか?」
はっきり言って一ノ瀬はこの解析に自信があった。
だが前崎の否定的な言葉に少し怒りを覚えた。
「……見たんだ。あの“基地”を。
この世の常識から完全に外れた、規格外の空間だ。
高層ビル群が――まるで竹藪のように無秩序に伸びている。
しかもそのすべてが、巨大なドーム状の構造に包み込まれていた」
視界に焼き付いた異様な風景を、前崎は唇を引き結んで語る。
すると、アレイスターが静かに頷いた。
『――だよね』
彼はまた、湯を一口だけ啜り、言葉を継いだ。
『あれは……地球上には存在しない。
――正確には、“地球という三次元空間上には”だ』
「……どういう意味だ?」
坂上が眉をひそめる。
その問いに、アレイスターは淡々と、まるで教壇に立つ教授のように語りはじめた。
『あれは、空間の“裏側”にある。四次元時空が極限まで折れ曲がった内側
――いわば“空間のしわ”に、奴らは拠点を構えている』
「空間の……しわ?
そんなものがあるのか?」
『ある。
イメージで言えば、紙を折って点と点を近づけるようなものだよ。
通常、我々が生きる空間ではA地点からB地点へは距離と時間が必要だが、空間そのものを折り曲げれば、その距離はゼロにできる。
ワープの基本概念だがね』
前崎と坂上は顔を見合わせた。
意味は分からなくても、直感的には異常な場所だとわかる。
『もっと正確に言おう。
あれは、ブラックホール周辺に発生する“時空の特異点理論”
――つまり、極限の重力で時空が引き伸ばされる現象を人工的に応用し、“安定化ワームホール(Stabilized Wormhole)”として固定した構造体の内側に存在する』
アレイスターは時計型の小型端末を取り出し、ホログラムで空間のモデルを展開する。
『通常なら、人間がそんな空間に入れば、情報も肉体も分解されてしまう。
だが、奴らは“高次元干渉波(ブレーン波)”を使って、存在そのものを情報化し、空間のひだに“転送”しているんだ。
だから我々はその波長でできた偽の肉体「ホログラム」で転送と呼んでいるんだ』
「……どんな学問だよ」
『ああ。量子物理学の部類だよ
その中に出てくる量子テレポーテーションの応用技術だよ。
意識と肉体をセットで“量子的状態”に変換し、ある種のブレーンワールド構造に沿って滑らせる
――そうすることで、理論上はこの世界に属さない“ポケット空間”への出入りが可能になる』
「それって……」
一ノ瀬が口を開く。
「パラレルワールドの一種、という理解でいいのですか?」
『かなり近いね。
ただし重要なのは、これは“物理的に存在する”という点だ。
多世界解釈における分岐ではなく、今この世界と量子場的に“重なっている”構造だと考えていい。
だから外部からは知覚も観測もできない。
あそこは“この世界に存在しながら、この世界ではない”場所なんだ』
アレイスターは湯呑をそっと置き、言葉を継いだ。
『ワームホール理論、量子重力理論、カラビ=ヤウ空間、多世界解釈
――それらが交差する臨界点。
そこが奴らの拠点だ。そして……』
「ちょっと待て。理解が……追いつかない……」
前崎が頭を抱える。
「俺は兵士だ。学者じゃねぇ」
坂上も眉間にしわを寄せていた。
『ごめんごめん。専門的になりすぎたかな。
要するに、“空間を折りたたんだ先”にある異常領域だと思ってくれればいい。そこが奴らの基地の場所だ』
「……でも、そんな場所にどうやって侵入するんですか?」
一ノ瀬の言葉はもっともだった。
『確かに通常の手段では不可能だ。
確率で言えばサハラ砂漠から一つの砂粒を見つけるよりも確率は低い。
でも、方法はある』
そう言ってアレイスターは、手元のデバイスを操作して別のホログラムを展開した。
『これは、私が開発した“重力座標干渉レーダー”だ。
時間を加えた四次元空間上で、特定のエネルギー波をぶつけて“共鳴点”を探し出す装置。
簡単に言えば、“折り畳まれた空間の継ぎ目”を見つけ出すための鍵だ。
私は極めて微弱なエネルギーを常に出してその継ぎ目を観測している』
「だが、そんなものがあるのなら、お前一人でやればいいだろう。
俺らの助けが必要なのはなぜだ?」
前崎が鋭く指摘する。
だが、アレイスターは小さく首を振った。
『それが無理なんだ。
外側から強制的に開いたとしても、そのゲートはほんの数秒しか保てない。
そのわずかな時間で内部に侵入し、内側から“開けて”くれる者が必要になる。
簡単にいうと君たちが情報発信器を持って私がそれを追うという仕組みだ』
「……だから、俺たちに?」
『そう。君たちには、最初の突入部隊として“内側から扉を開く”役割を担ってほしい』
アレイスターの眼差しに、冗談めいた色は一切なかった。
『ちなみに――ルシアンが前線に出てきた理由。
あれは偶然じゃない。
彼が動いたのは、“防衛に余裕がなくなった”証拠だ』
「なぜ、そう言い切れる?」
『兵士の育成にはコストがかかる。
AI兵器――マルドゥークやエアのような存在ですら万能ではない。
教育・訓練・調整、それに時間も必要だ。
だからこそ彼は“メタトロン”を使った。
戦闘経験のデータを抽出し、最短で兵士を構築する手段として』
そしてアレイスターは前崎に視線を向けた。
『彼は君を狙っていた。
メタトロンだけでは補えない“現場の戦術思考”を得るために。
……君を、自軍の教官にしようとしていた。そう考えれば、つじつまが合うだろう?』
前崎は眉をひそめ、脳内で過去の記憶をなぞるように言った。
「……確かに。
メタトロンは思ったほど万能な装置じゃなかった。
それに、ルシアンは俺の記憶を“直接”抽出しなかった。
……不自然だと感じてたが、そういうことか。
俺を仲間に引き入れようとしてたのは――そのためか」
『おそらくね』
アレイスターは頷くと、指先で湯呑をなぞる。
『ルシアンたちが強いのは、あのホログラム転送装置と、ほぼ無尽蔵ともいえる資源供給の仕組み――
言い換えれば、拠点そのものが“異空間の軍事基地”として完成しているからだ。
だが、逆に言えばその要のインフラを破壊すれば、優位は一気に崩れる』
「資源があるのに……余裕がないのか?
有限だから奪い合うものだろう。
戦争やテロってのは」
坂上が訝しむように問い返す。
『それはそうだ。
だがここでいう資源とは無機物的資源。
電気や鉱石、ガスのようなものだ。
教育者や学べる対象といった人的資源は皆無だ』
「なるほどな…それも資源ちゃ資源が」
『それにルシアンの信念の問題もある』
アレイスターはゆっくりと湯を啜った。
『ルシアンは子どもを守っていることが第一優先だ。
彼の目的は単純明快で、そして恐ろしく徹底している。
“大人”という存在をこの世から一度消し去ること。
そして、自らを神とした“子どもだけの新しい世界”を築く。
だからこそ――彼は“アダルトレジスタンス”を名乗っている』
「……そんなことを。
そのために虐殺を行うなんて」
一ノ瀬の声が震える。
一ノ瀬自身の世界観が軋みを上げた。
『ルシアンは理屈ではなく“信仰”で動いている。
筋金入りのロリコン、ショタコンと揶揄する者もいるが、彼にとって“子ども”は神聖不可侵の象徴だ。
その“純粋性”を守るために、大人の権威、支配、制度、あらゆるものを憎悪している。
私から見れば、無知で無責任な純粋さほど危険なものはないが――
彼にとっては、その“純粋”こそが世界の希望であり、救済なんだろう』
前崎の脳裏に、ルシアンが淡々と物のようにメタトロンで大人を消費する映像がよみがえる。
その目には一切の憎しみも快楽もなかった。
ただ一つ、“使命感”だけがあった。
「……で、その俺に“後継者になれ”ってのは、どういう意味だ?」
アレイスターは、まるで面接官のような冷静な視線を前崎に向ける。
『そのままだよ。
私の意志を受け継いでほしい。
――簡潔に言えば、君が“この国の神”になれ』
神になること。それが「アレイスターの後継者になる」という意味だった。
うーん、やっぱり『AKIRA』とか『攻殻機動隊』は外せないかな?
あとはジャンルが少し違いますが『PSYCHO-PASS』
あとはSFとは少しズレるかもしれませんが
『バトルスピリッツ 少年激覇ダン』
『バトルスピリッツ ブレイヴ』
にはめちゃくちゃ影響を受けましたね。
あとは何だろう…?
『ブラックラグーン』『ヨルムンガンド』『ゴルゴ13』
『デスノート』『進撃の巨人』かな?
不条理がある作品はやっぱり好きですね。
1990年代~2010年の間のアニメや漫画は意識的に見返すようにしています。
最近は『イニシャルD』を見始めました。
頑張ってドライブテクニックを小説に描写したいです…!
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