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File:073 自衛隊訓練時代

どうか!どうか!今回の話は炎上しませんように!

かなり攻め込んだ内容になります!!

前崎と初めて会ったのは、俺が25。


あいつが確か26の頃だったと思う。


上官から話を聞いた時は耳を疑った。


公安から特例として「特殊訓練の参加の申し出」という話があり、本日からその新参者が参加するらしい。


驚いたことに元官僚だという。


正直、期待などしてなかった。

官僚で落ちこぼれ、泣く泣く公安に拾われた弱者。

そしてそこでも見限られた無能。


言葉を選ばずに言えば左遷だろう。


エリートの人間がこんな泥臭い職業を好んでやるとは思えない。


上官に聞いても前例がないとのことだった。


要は「いじめて公職から辞めさせてくれ」ってことだ。

――国が、暗にそう言っている気分だった。


薄々、訓練メンバーたちや上官たちもそう思っていたはずだ。


俺は積極的にいじめてやめさせようとまでは思わなかったが、

訓練で泣かせてやろう程度は思った。


正直、学歴だけの無能共に思うところはある。

だからこそ、精々憂さ晴らし程度にはしてやろうと思った。


だが、実際を実際に見た時、そんな考えは吹き飛んだ。


「今日から世話になる、前崎英二だ。よろしく頼む。」


一目見て、直感した。

――こいつは強い、と。


身体能力は俺たちと全く変わらなかった。

それどころか俺たちが劣っていた。


体力テスト、対人訓練、武器の扱いなど。


ほぼすべてで俺たちは圧倒されていた。


少なくとも俺は前崎に対して勝っている部分はなかった。


冗談だと思っていた官僚の肩書きが、逆に嘘くさく思えるほどだった。

どうか学歴詐称の人間であってほしかった。


だから疑問に思った。


「なんでこんなところに来たんだ?」


「折角のチャンスを頂いた。

 行かない手はない」


そんな風に返してきた。


向上心の塊のような男だった。

だからこそ、気にいらない。


俺たちは汗を流して戦う訓練を積んでいるのに、デスクワーク上がりのやつに、負けている。

なんというか、上から見られているような感じがした。


頭も上、訓練でも上。

俺たちの価値って何なんだ?


自分のアイデンティティが喪失していく感覚があった。


だから、試しに喧嘩を売った。

シティボーイには体験したことのない恐怖を味合わせてやろうと思った。


結果――ボコボコにされた。


訓練でも見たこともない技で殴られ、絞められ、翻弄された。

数人が止めに入ったそうだが、それでも前崎は止まらなかったらしい。


「教官が止めに入らなければ、お前はあの場で殺されていたかもしれない」


そんな風に前崎を抑えようとした同僚が教えてくれたが、その止めた同僚もきっちり鼻を折られていた。


だから俺は観念して、事の顛末を正直に話し処分を受け入れた。

自分勝手な行動の罰だ。


前崎にも処分は下ったがすべて俺のせいということで前崎の処分は反省文程度だったらしい。


正直、クビになることも覚悟した。

だが、意外なことに処分は軽かった。


自宅謹慎5日。

それだけだった。


理由としては前崎が「訓練の一環として稽古をつけてもらった」と庇ったからだ。


「なぜ、あんなことを?」


後日問いただした。

そうしたら前崎に鼻で笑われた。


「庇った? 笑わせるな。

 ――随分ぬるい訓練の一環だと思っただけだ。」


その一言が、俺を変えた。


正直、自衛隊では格闘技術なんて全くと言っていいほど使わない。

自衛隊の主な仕事は訓練と災害救助だ。

あとは有事の際の対応だが、ミサイルに格闘技で立ち向かうやつなんていない。


だからこそ、全くやる気がなかった。

せめて舐められない程度に身に着ける程度だった。


だが、前崎を倒す――ただその目的のために、俺は格闘技で本気で努力というものをした。


最初にやったことは自分の体の使い方を理解することだった。

カメラで自分の認識と体の動きにズレがないように調整した。


それだけでなく前崎の動きをカメラで録画し、AIに解析させ、弱点をあぶり出した。

前崎の能力を数値化してみて、驚いた。


何より異常だったのは――集中力と忍耐だった。


特に集中力は人類の限界に限りなく近かった。


理論上は弾丸すらも止まって見える集中力をアイツは意識的に繰り出すことができた。


それと忍耐まで掛け合わさり、そこまで自分を追い込めるやつであれば、日本一の大学程度であれば受かるに決まっている。


通りで。俺は納得した。


結局、その集中力を支えているのが忍耐なのだろう。

周囲の邪魔が全く気にならないのだから。


だがそんな集中力が続くわけがない。


それこそが前崎の弱点だった。


だからこそ、俺は凡人でも努力できる唯一の箇所、スタミナを徹底強化した。

そして奴の集中を削る戦法を練った。


色々試した。


高地トレーニングを誰よりも行い、何重にもフェイントを入れたり、注意を引くために訓練用の爆竹なんか持ってきたこともあった。


「……そこまでして勝ちたいか?」


前崎にも同僚にも呆れられた。


そして訓練の中でたった一度。本当にたった一度。


前崎を圧倒した。


スタミナに物を言わせた泥臭い戦い方だった。

しがみつき、押し倒し、塩漬けにする。


集中力など密着されれば意味を為さない。


2時間にわたる格闘であり、前崎に脱水症状の兆候が見られ結果として俺が勝った。


勝った時は周りから歓声が沸いた。


翌日、お互いに熱中症で寝込んでしまったのはいい思い出だ。


だが結果として前崎も負けたままでいる男じゃなかった。

悔しさをバネに、今まで以上に自分を追い込み、鍛え始めた。


天性の集中力から繰り出される打撃は近づくことが容易ではなかった。

もちろんそれに対して俺も抗ったがあと一歩及ばなかった。


その姿に、今ここにいる他の4人も感化された。


その中でも雨宮は俺と比肩した。


前崎も俺たちを認めたのか、技術を持ち寄り、互いに競い合い、磨き合った。


前崎が教えてくれたバックスピンキックは今では俺の得意技となった。


あの1年と少しの間――俺たちは、無意識に「ライバル」として認め合っていた。


やがて俺は特殊作戦群に引き抜かれ、前崎は公安に戻った。

今では、俺は特殊作戦群の中でリーダーと呼ばれる立場になった。


振り返れば、あの日々が――人生で一番、充実していたのかもしれない。


だが――俺が世の中から称賛されることはなかった。


前崎がアリア人のショッピングモールでの占拠テロを解決し、

国会議事堂への突入で国民の英雄として祭り上げられていたその頃。


俺は同僚と一緒に安居酒屋のテレビで前崎の活躍を見ていた。


それを見て何をすればいいのかわからなくなっていた。


なんというか……あいつが眩しかったんだ。


別に、英雄になりたいわけじゃない。

けれど――俺たちは日本を守ってきたはずだ。


なのに、どうしてだ。


あいつだけどうして称賛される?


いや、前崎ならいい。

まだあいつなら許せる。


俺が認めた男だからだ。


許せないのはネットにいるやつらだ。


なぜSNSで注目されただけの、目立ちたがりだけがこんなにも称賛される?


そんなに影響力が大事か?


お前らはカメラの前でちょっと喋って、SNSでポエムを書いて終わりだ。


募金するにしてもその募金が何に使われているかの内訳すら考えていない能無しが。


俺たちがどんな思いで災害地で作業していると思う?


「税金で食ってるんだから当たり前だろ」

「やってもらって当然」

「すべて義務の範疇」


そんな言葉を、何度耳にしたことか。


はっきり言うが災害救助する際に県外から市民が来るのは邪魔だ。


災害地では下水などが断線している可能性が高い。

だから排泄物などを極限まで減らす訓練をしている。


だから当然飯も食えないし、その極限状態で何十時間にも及ぶ作業を行わなくてはならない。


それすら知らない人間が糞尿を垂らし、バカ面晒しながらボランティアをして「いいことをした」などと主張する。


折り鶴なども邪魔だ。

あんなもの燃やしてしまえばいい。


この差は何なんだ?


かつての先輩にそれを打ち明けたことがある。

すると、先輩は肩をすくめて笑った。


「それが俺たちの税金みたいなもんさ。

 どんなアーティストだって、アンチの一人や二人はつく。

 そいつらにはそいつらの税金があるんだ。」


……頭では、わかったつもりだった。


だが見合わない。


でも、心の中では――「なぜだ」という思いが燻り続けていた。


結論を出すのは簡単だ。


だったら辞めればいい。それだけの話だ。

だが俺にはこれ以外の生き方が思いつかなかった。


辞めていく後輩を少し羨ましいと思ったこともあった。


そんな折、報告が入った。


前崎が森田総理を暗殺したというものだ。


最初は耳を疑った。


だがアダルトレジスタンスがメディア各所を襲撃

――その中に、前崎の姿があった。


英雄は、一瞬にして裏切り者に堕ちた。


……もし、あいつを倒せば。

もしかしたら、俺も英雄になれるかもしれない。


そんなスケベ心がなかったと言えば嘘になる。


けれど冷静に考えれば、前崎が裏切るわけがない。


あいつは、国のことを、俺たち以上に考えている男だ。


メディア襲撃――マルドゥークやエアを投入前に見て、あの男なりに一度国の側に立ったほうがいいと判断しただけ。


そんな中、公安の一ノ瀬という男が、ある人物と取引したという報せが入った。


その結果、東京拘置所に捕らわれた子どもを救出しにくる可能性が高い、そうなった。


俺が人選をし、襲撃に備え、この地下40階のドームで待ち構えることになった。


上官から言われた。

「可能な限り捕らえてほしいが仕方なかったら殺してもいい」

とのことだった。


相手の救出対象の少年の確認をしに行った。

顔ぐらいは分かっておいた方がいいだろう。

そのケンっていう少年とも、守秘義務に触れない範囲で話した。


「前崎様はこちらに忠誠を持ち合わせていません。」


その言葉を聞いて、確信した。


やはり――あいつは今も国を見ている。


だから、この拘置所も、あいつは襲撃するだろう。

いや、少なくともそのフリぐらいはするはずだと踏んでいた。


正直、一か月以上は先の話だと思っていた。

まさか、こんなにも早く来るとはな。


襲撃されたのにも関わらず心が躍った。


そして予感は当たった。

地下で、あいつと衝突した。


胸が熱くなった。嬉しかった。

けれど、これは任務だ。

だから苦しまないように初撃で仕留めるつもりだった。

だが、あいつは避けた。


そして戦闘が始まった。


あの頃の充実した日々が、戻ってきた気がした。

俺は自分のテンションが上がりきっていたのを自覚した。


だが――酸欠のこの状況に、あいつは適応できなかった。


最後にあいつと俺を分けたのは、ただの訓練の差。


ずっとし続けてきた俺の方がいつの間にか上になった。


それだけだった。


正直、あっけなかった。


訓練時代の全盛期のお前なら――もっと、もっと強かったはずだ。


でも最後まで抗った。

飛んできたあのナイフが、その証だ。


十年ぶりの再会だった。もっと戦いたかった。


……そんな、俺が認めた男が今。


全身を拘束され、アクリル板越しに沈黙していた。

それも罪人として。

自衛隊の人たちには本当に頭が上がりません。


個人的な話をすると学生時代に災害が起こった場所に何に影響されたかわかりませんが「助けにいけ」と親から言われたことがあります。

そういうボランティア精神は美しいと思うのですが、こういう自衛隊の業務を知ってしまうと邪魔にしかならないと思うのが僕の考えです。


もちろん、中には江頭2:50さんのように支援物資を届ける素晴らしい人もいるのですが、大多数の人間は自衛隊の方々の職務を本当に知っているのかな?と思わざるを得ないです。


自衛隊の方々に敬礼!!

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