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File:072 瓦解

総合評価300pt突破!

ありがとうございます!!

「くっ……! シュウも前崎さんも、やられたのか……!」


テレパシーカフスが切断され声が途切れた時点で察した。


前崎がジュウシロウの中で最強の人類だった。

だがその上がいるなんて、想像すらしていなかった。


ジュウシロウの胸が焦りで焼けるようだった。


戻るべきか――。

だが、一瞬迷った末、自らの任務を優先すると決めた。


戦いに行ったところであの二人に勝った人間だ。

負けるのは目に見えている。


無線に入った声が耳を打つ。


相手は――第一空挺団、そして特殊作戦群。

曰く、日本最強の戦闘集団だと。


(……正直技術さえあれば勝てると思っていたがとんだ誤解だ!

 あんな人間たちが日本にいたなんて!!)


ジュウシロウの心は、知らず絶望に染まっていた。

ならば、選ぶべきはひとつ。逃走。


だがその前に――ケンを救わねばならない。


ケンの体内に仕込まれた発信器を頼りに探すが地下なので大雑把にしかわからない。


適当にドアを蹴破りながらしらみつぶしに探す。


そして、フロア地下15階。


重い扉をこじ開けた先に、縛られた人影があった。


ケン、らしき人物。


「らしき」としか言いようがなかった。


ジュウシロウはケンの素顔をあまり覚えていない。


仮面はジュウシロウが手作りしたものだ。


ただ過去の傷を抉る必要はない。


そう考え、3年前に見て以来改めて見せてもらうことすらしなかった。


「……ケン、か?」


背丈と髪型だけでケンだと判断して近づく。


だがケンが気づくやいなや、目を見開いて警告する。


「逃げろ!!」


いつもの敬語ではなかった。

その声が響くと同時に、背後で気配が動いた。


驚いて無抵抗にも振り向いてしまう。


部屋の入口、下方向にしゃがんでいた光学迷彩の影がジュウシロウを捕らえる。


その攻撃は正確無比。


顎を正確に拳が撃ち抜かれた。


ジュウシロウはわずか一撃で意識を奪われ、崩れ落ちた。


ケンは、その様を見て、歯を食いしばる。


「……なんだ。もう終わりか。」


現れたのは、坂上だった。

前崎との戦闘を終え、すぐにジュウシロウの元へ来た。


ケン周りにも光学迷彩で隠れている兵がいた。


坂上の攻撃が当たることはなくとも確実にジュウシロウは仕留められていただろう。

それでもこの場所に即座に来たのは坂上の驚異的な身体能力のせいだが。


「……アレイスターとかいう奴に連絡を入れろ。」


「了解」


その言葉を聞き、ケンは耳を疑った。


「……何を言っているんですか……?」


アレイスターはテロリストだと伝えたはずだ。。


国家と相容れぬはずの存在。

国家が、そんなものと手を組むなど……。


しかも一ノ瀬は言っていた。


『凶悪犯罪者と手を組んでまで解決しようと思わない』


あの言葉は嘘だったのか?

ケンの動揺を、坂上は見抜いていた。


「……俺たちは正義の味方じゃない。

 お前らみたいな『別の正義』を壊すために、『別の都合のいい正義』を使っただけだ。」


ケンの唇が震え、下唇を強く噛んだ。

鉄の味が口内に広がる。


「……この国は、変わらないですよ……!」


声が、かすれた。


坂上は微かに肩をすくめ、視線を逸らす。


「俺たちが守るのは、治安の維持。

 現状維持だ。それが国を守るってことだ。

 お前のゴミのような幼稚な正義と逆だ。

 解釈は好きにしろ」


ケンの頭が、垂れた。

項垂れたその背中には、敗北の色しかなかった。


アダルトレジスタンスの主要メンバーが次々に捕えられていく。

組織としては瓦解もいいところだった。


ーーーーーーーーーーーーーー


東京拘置所 上層――。


そこは、もはや現実の戦争とは思えない光景が広がっていた。

技術的なことがわからなければ、魔法としか言いようがなかった。


虚空から放たれるレーザーの奔流が交差し、閃光が昼の光すら引き裂く。


間合いを詰めれば、ブレードとブレードが火花を散らし、斬撃の音が金属を裂く音に混じる。


実弾は無力ではなかった。


だが、互いにそれを無力化する術を持っている。


だからこの戦いは――お互いの武器のほとんどが通じない、異常な戦場だった。


ルシアンは迷わず行動していた。


拘置所の囚人を人質に取ろうと麻袋面たちを散開させる。


だが、そのたびに鋭い一撃がアレイスターから飛び、次々と撃ち倒された。


さらに上層から降下した自衛隊の精鋭たちが、囚人たちを次々と鎮圧と保護をしていく。


麻袋面ですら、足止めにすらならなかった。


そしてルシアンの企みは、徹底的に潰されていった。


レジスタンスの面々は必死に抵抗を試みたが、多勢に無勢。

ルシアンはやむなく撤退命令を出す。


すでにソウがショウタ、リュウジを引き連れ東京拘置所からは脱出した。


ホログラム転送が封じられた以上、彼らは徒歩での脱出しか道はない。

彼らには数日の潜伏を余儀なくされるだろう。

だが、それでも腹に背は代えられない。


――すべては、目の前の男、アレイスターが原因だった。


『……ようやく通信が繋がった。ルシアン。報告だよ』


『……なんだ?』


片手でルシアンのブレードを受け流すアレイスターの余裕に、ルシアンの苛立ちは頂点に達していた。


『前崎とシュウ、それにジュウシロウ――確保済みだ。』


『……で?』


『一旦、引き上げてくれないか?』


思わぬ言葉に、ルシアンは眉をひそめる。


『……どういう意味だ?』


『そのままだよ。退却しろ、って言ってるんだ。わかるだろ?』


『なぜだ?』


状況は圧倒的にアレイスターが優勢。

それなのに、なぜ逃がす?


『お前の欲しいのは、僕のデータじゃないのか?』


『まあ、そうだな。だが今はお前じゃない。

 今日、俺が本当に用があったのは――前崎英二だ。』


『……前崎君に?』


なぜだ。

初対面のはずのアレイスターが、前崎にそこまで興味を示す理由は。


『で、どうする? ちなみに――彼らの命は保証する。

 命だけだがな。それが国との契約だ。』


ルシアンの背筋に冷たいものが走った。

これ自体が罠だった。

今回の襲撃は、最初から仕組まれたものだったのだ。


『……ホログラム転送の妨害はもう解除してある。早く逃げな。』


その冷たい声が、耳に残る。

使わせたがっている?

……わかったぞ、お前の狙いが。


『……その手には乗らない。』


ルシアンは静かに刃を下ろす。


『レスター、お前は俺たちの本拠地を突き止めたいだけだろう?

 俺たちを逃がし、その残滓を追うのが君のが狙いだ。

 違うかい?』


アレイスターは微笑を絶やさなかった。


 『だが――そうはさせない』


その言葉の後、ルシアンの手が自らの首筋に伸びる。

ブレードによる鋭い一閃。

血が噴き、首が落ちた。

それはルシアンのいつものホログラムの体とは違い明らかに実物を持っていた。


『あぁ……しまった!その手があったか!』


アレイスターは天を仰ぎ、小さく肩を揺らした。


緊急脱出(ペイルアウト)

肉体に依存しないルシアンだからこそできる技。


アダルトレジスタンス内で再び再構成すれば元通りだ。


『……まあ、いいさ。

 今日はどのみち奪えないと思ってたし。

 さて――楽しみだな、前崎君』


その声だけを残し、アレイスターは地下へと歩を進めた。

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