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File:071 国家最上位戦力たち

第一空挺団。

日本国唯一の空挺部隊にして、陸上自衛隊の機動打撃部隊の最上位戦力。

彼らは「日本最後の矛」と呼ばれる。


特殊作戦群(SOG / 特作群)。

日本の対テロ作戦を担う、存在そのものが国家機密とされる最強部隊。

その練度は、国際特殊部隊の象徴・デルタフォースやSASにも引けを取らないとされる。


この二つの組織には、常識を超えた武勇がいくつも語り継がれている。


・1日で100km以上の行軍を完遂し、なお全員が戦闘可能だったという記録。

・命綱なしで高所を走破する、度胸と身体能力を鍛え抜く訓練の噂。

・わずか1秒で5発を放ち、そのすべてを急所に叩き込む超精密射撃。

・72時間、不眠不休で模擬戦闘を繰り返し、判断力を一切鈍らせない精神の怪物たち。

・時間が止まったかのように見える、洗練を極めた近接戦闘(CQC)の技術。

・降下の恐怖を消すため、駐屯地の階段すら使わず窓や縁から飛び降りるという逸話。

・降下後10分以内に敵拠点を制圧する実績が存在するという記録。


その忍耐力、作戦遂行力、戦闘力、そして戦場でのIQの高さは間違いなく日本一だ。


戦争を放棄した国でありながら、その訓練密度は世界のトップ特殊部隊と肩を並べている。


あのアメリカのデルタフォースですら見習う箇所があると言わしめたほどだ。


もちろん数としての戦力で言えば他の国にははるかに劣る。

所詮、2年の一般市民の徴兵の韓国よりかはマシな戦力程度だ。


中国、アメリカとは比べるまでもない。


ただし、少数精鋭という意味であれば日本の軍隊はトップの実力と言える。


だが――日本は戦争ができない国。

そんな高いポテンシャルを持ちながらも戦闘で発揮することはない。


精々、自国の治安維持程度だ。


政治さえまともであれば、万人が豊かさを享受できるという意味としては最強の部隊を備えた組織であっただろう。



そして今、前崎とシュウは、その日本最強の戦闘集団の一部、わずか5人の兵士と対峙している。


シュウは咄嗟に、近くの麻袋面を盾にする。


その盾にすら最強の兵士の一人は容赦なく反撃の刃が走る。


麻袋面を構成している針金のようなものが麺のように千切れていく。

ただのナイフがまるで日本刀のような輝きを放つ。


だがただでやられるシュウではなかった。

居合の構えが麻袋面の背後から明らかになる。


やり方は単純だ。死角を利用し、襲撃者の間隙を縫って一閃する。

神経外骨格ファストトラックのスペックを応用した機械的精度で叩き込む斬撃。


準備期間の間に開発したシュウの必勝パターンである。


「くたばれっ!!」


渾身の居合抜刀のはずだった。

だが、当たらない。


それどころか、彼らはガードすらせず、ただ身体能力と反射神経で体を逸らし、シュウの殺意をいなす。


それどころか、シュウの斬撃という死線を切り抜け、次の刃を繰り出してくる。


「……化け物か!」


遊ばれているのではないかという相手の超絶技巧に悪態をつく。

思わず叫ぶシュウに雨宮の声が響く。

まるで心を読んだように。


「別に遊んでいるわけではない、小僧。

 こっちの方が俺には合理的なんだ。

 後手に回らずに済む。

 ……それだけだ」


言葉と同時に、正確無比な銃撃がシュウを襲う。


「ぐっ!!」


何とか電磁バリアの展開が間に合った。

遠距離、近距離。


あらゆる間合いを使い分け、完全な連携でヒット&アウェイが繰り返される。


頭がガンガンする。


国を敵に回す――それは、こういう連中と戦うということだ。


俺たちがこれまで勝ってこれたのは、ただ「先手必勝」「即離脱」

ホログラム転送装置の奇襲の賜物だっただけだ。


そんなネガティブな思考が頭を染めていく。


(こんな化け物共が……日本にいたなんて…!!)


気づけば、息が乱れている。

胸が焼けるように痛む。


体感だが戦闘が開始して10分も経っていない。


(バカな!?この程度動いただけで!?)


眼下に閃くナイフの軌跡。

視界がぼやける。

それがシュウには、もうただの光の残像にしか見えなかった。



「……お前、この部屋の空気の濃度を……薄めているのか?」


前崎の額に汗が滲む。肺が苦しい。

思考が霞む。


「正解♡」


坂上の瞳が妖しく光り、次の瞬間、苛烈な連撃が叩き込まれた。

その動きはまるで機械じみていて、寸分の迷いもなく、止まる気配がない。

確実に前崎の急所を抉っていた。


顔にナイフが掠り、目に血のカーテンが襲う。

どうやら瞼が切れたらしい。


それでも前崎は必死にナイフで捌く。

刃が閃くたび、空気を裂く音が広い地下のドームに響いた。

だが――攻めているのは坂上だ。

完全に、坂上のペースだった。


電磁バリアは使えない。

使ったところで削られて終わる。

そんなスキを、この男がくれるわけがない。


「あっちは……もう少しで片がつくな」


坂上が横をチラッと見る。

シュウの動きはフラフラであり、雨宮が最後の止めを刺す所だった。


前崎は答えなかった。

息を整える余裕すらなく、ただ視線を坂上に食い込ませる。

シュウの様子を気にすることすら億劫だった。


まさか、坂上一人にここまで追い詰められるとは。

かつて一緒に訓練した中ではあるがあの時とは比べ物にならない。

今まで戦ったどんな相手よりも、強い――。


こちらの装備は坂上のそれを凌駕しているはずだった。

だが坂上は技術と経験、そして圧倒的なセンスだけでなく何よりも基礎の体力や集中力で、その差をねじ伏せてくる。


空気は薄い。

酸素不足で視界の端が暗くなる。

それでも坂上の息は、まるで乱れていなかった。


特に第一空挺団は高地トレーニングや低酸素トレーニングなど腐るほどしているはずだ。


訓練。訓練だけが、この化け物を作り続けてきたのだと前崎は悟った。

俺が辞めた後、こいつはどれほどの訓練をこなしてきたんだ?


「不動のように装備だけで戦ってるやつと一緒にするなよ!」


坂上がナイフの斬撃をフェイントに、バックスピンキックを繰り出す。

それはかつて前崎が坂上に教えた技の一つだった。


急激なリーチの変化。

前崎は一瞬バランスを崩した。


その隙を、坂上が逃すはずがなかった。


前崎の片手のナイフが弾かれる――その一瞬の動揺。

集中の糸がわずかに乱れた。


だが、超人的な反射神経も、鋼の集中力も、

環境と状況ひとつで価値を失う。


次の瞬間、坂上の両脚が前崎の首を挟み込んでいた。

脚が首筋を刈り取るように回転し、坂上は自らの体重を軸に大きく旋回。

遠心力と重力を乗せたまま、前崎の全身を地面にたたきつけた。


ゴッ!

鈍い音とともに後頭部がコンクリートにめり込む。

脳が頭蓋の内側で揺れ、視界が一瞬にして白く弾け飛ぶ。


ヘッドシザースホイップ

――本来はショーとしてのプロレス技。

だが坂上はそれを、関節の可動域、頸椎の弱点、回転のタイミングまでを徹底的に計算し、殺傷のための一撃へと昇華させていた。


倒れ込んだ前崎の腕がわずかに動く。

だがそれすら許さない。


坂上は素早く膝を滑り込ませ、前崎の片腕を床に押し潰すように固定。

もう一方のナイフもこれで封じられた。


そのまま体を入れ替え、馬乗りになる。

脚はなおも前崎の首に巻きついたまま。

喉をえぐるように内転筋が締め上げ、気管と血流を圧迫する。

足は蛇のように絡みつき、首を折るか、窒息死するまで離れる様子はなかった。


「公安じゃ、ここまでの訓練はなかったよな?

 ……畑が違うとはいえ、お前……少し、老いたか?」


「……っ!!」


喉が圧迫され、声にならない。

言い返す言葉すら、思いつかない。


「国会議事堂での活躍、見たぜ?

 正直……あの時は嫉妬した。

 超人的な動きで政治家を救い、一時期英雄として祭り上げられたお前をな。

 ……俺たちを差し置いて。」


意識が遠のく。光が滲む。


「……それに比べて、俺たちはどうだ?

 評価もされず、給料も上がらず、やって当然と言われる始末だ。

 なあ……どうして、お前は特別なんだ?」


目の奥が暗くなり、坂上の顔が滲む。

遠くで声が響いた。


「……残念だ」


それが、前崎の耳に届いた最後の言葉だった。


「対象沈黙」


「こちらも沈黙」


坂上は立ち上がり、冷たく言い放つ。

ちょうど向こうも終わったようだ。


「装備は回収、外しておけ。その後、両手両足を縛れ。」


「了解」


坂上は前を向いた。


「……あのガタイの良いやつを狩る。雨宮、ついてこい。」


「了解です」


ジュウシロウに、死神たちの刃が迫る。


その時だった。


空気を裂くような音とともに、銀色の軌跡が走る。

ナイフだ。


「……何!?」


坂上の瞳がわずかに揺らぐ。

反射的に身を逸らすが、ナイフはわずかにその足の裏を掠めた。


鈍い痛みと共に、靴底がわずかに裂ける感触が伝わる。


床に落ちた刃を見て、坂上は気づく。

それは、弾き飛ばされたはずの――前崎のナイフだった。


(……まさか、あの一瞬で……)


坂上の脳裏を戦慄が走る。


前崎は、ナイフを失う寸前、意識の奥底で自動的に反撃に転じる仕掛けを組んでいたのだ。


それはまるで、アラームのように――意識を手放す前にセットした、最後の牙。


「……相変わらず、小細工がうまいな。」


坂上は苦笑した。


目の前の男――前崎は、完全に気を失っていた。


それでもなお、その身体は、敵に喰らいつこうとしていた。


坂上は一歩、そしてもう一歩と前崎に近づき、その顔を見下ろす。

相変わらず気に入らない顔をしていた。

だがその男が汗に濡れ、血にまみれ、なおもどこか誇り高い表情をしたその顔に敬意を抱いた。


全力で後頭部をぶつけたつもりだったがまだ息はあるようだ。

だが現場の人間としての再起は不可能だろう。

障害が残ってもおかしくない。


「……終わったら、また汚ねぇテントで缶詰でも食おうぜ」


低く、誰に聞かせるわけでもなく、坂上は呟いた。

それは皮肉だったのか、別れの言葉だったのか、自分でもわからなかった。


坂上は踵を返し、無言でエレベーターへ向かう。


足音だけが、静まり返ったフロアに響いていた。

ヘッドシザースホイップについて詳しくはこの動画を参照!

https://www.youtube.com/shorts/-loFVhM0sU0?feature=share

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