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File:062 お前は足元にも及ばない

総合評価200pt突破ありがとうございます!!

むしゃむしゃ。

バクバク。

ゴクゴク。


ドンドン皿が積み重なっていく。

テロ後の打ち上げだったこともあり、食べ物はまだあった。


だが2人の食欲は異常だった。


大量の料理がまだ残っていたにもかかわらず――

二人の食欲は、明らかに常軌を逸していた。


カノン、ユーリ、アリアは言うまでもなく、普段から大食漢として知られる前崎ですら、思わず箸を止めていた。


「……どこに入ってんだ、あれ」


見た目は普通の少年。なのに、食べる量は成人男性の数倍。

唯一、平然と微笑んでいたのはルシアンだった。


「ジョン、おかわり。次は餃子がいい」


「僕はピザ食べたいかも」


ジョンが汗塗れか疲れた顔で「…分かった」といった。


正直昨日の夜から料理を作っており、もうジョンはフラフラだった。

仕込みに関しては3日前からである。


皆の勝利を願った結果らしい。


「ジョンさん!私たちが残りはやるので…!」


ジョンの弟子の一人がそんなジョンを見て介護する。


「私たちも手伝おうかしら?」


「そうだね…」


ユーリとカノンが立ち上がるがジョンは嫌がる。


『ジョン。温めたり、運んでくれるだけなら君の聖域を汚すことにはならないだろう?』


「そう…ですね。キッチンの道具には触れないで…くれ」


そういいながらジョンは机に突っ伏して寝てしまった。


「あ、待って。私も…!」


ユーリとカノン、


「…150人以上の料理をほぼ一人で作っていたのか。

 他の3人は盛り付けと料理と食器を運ぶだけ。

 だとしても流石に過労にもほどがあるだろ」


前崎が呆れたようにいった。


『こだわりが強い子だからね。弟子も渋々取ったんだよ。

 話してくれるまで一週間かかったらしいよ』


「…まあ、現代っ子といえるか?」


前崎が唸るほどの飯の技術を確かにジョンは持っていた。

だからこそ疑問に思った。


「こいつもメタトロンを使用したのか?」


『いや、これは彼の才能。

 本気で料理人を目指した結果らしいよ。

 特に彼はアレルギーとか酷くて食べれるものに制限がかかっていたらしいから

 自分でも食べれるものを極めるために一生懸命習得したんだよ』


「…それも現代っ子だな」


前崎は死んだように眠るジョンを見てそう思った。


そんなしみじみと語る前崎の隣でムシャムシャと飯を食い続ける2人。


「…そんなにエネルギーを喰うのか?記憶の受け渡しは」


『まあね。他人の記憶をインストールしたんだ。

 僕がある程度取捨選択をしたとは言えその数は膨大だよ?』


前崎はふと、二人の目をじっと見つめた。

右目だけ、かすかに色が違っていた。

光を反射する角度で、ほんのわずかに――けれど確実に、変わっている。


「……右目だけ、色が変わってるな」


『左脳に干渉したからだよ』


ルシアンが言った。


『視神経は交差していてね。左脳が処理するのは右側の視野――つまり、主に右目に反応が出る。

 一時的なものだけど、脳に深くアクセスした証拠さ』


なるほどそれが理由で目の色が変わるのか。


「……人間の構造ってのは、本当によくできてるな」


『2日もすれば元に戻るさ』


ルシアンは静かに湯呑を手に取ると、お茶をルシアンは啜る。


『それにここからどうなるかは彼ら次第だしね』


「どうなるか?」


『まあそれがいい方向にいくか悪い方向にいくかどちらかわからないという話さ』


「悪い方向に行くとどうなる?」


『簡単にいうと反逆する恐れもある』


「……過去に例が?」


『……まあね。人の記憶や経験というのは、時として倫理や忠誠を壊すんだよ。』


そういってルシアンは遠い目をした。


餃子やステーキがユーリやカノンの手で配膳される。

アリアはなぜか大きなパフェを手に取っていた。


「デザート?」


前崎が不思議そうにアリアを見る。


「これは私用だもん!悪い!?」


「いや、そんなデカいもん……よく入るなと思ってな」


テーブルにドカッと置かれたパフェは、

アリアの顔がすっぽり隠れるほどのサイズだった。


そのボリュームを見て、前崎は胃がひゅっと縮むような感覚を覚えた。


「ふん…!おじさんになると大変ね!」


「…まだおじさんではないぞ。35だぞ」


「えっ!?」「は?」「え?」「嘘っ!?」『本当?』


一斉に全員が前崎の方を見た。


「おい。待てどういうことだ?何をそんな疑問に思うことがある…?」


「……大臣って肩書きがあるから、

 てっきり40は超えてると思ってました」


ソウが、冷静に、しかし遠慮なく指摘する。


「…別に。その大臣に意味はない。

 お前らの処理で押し付けられた結果がそのお飾りの役職なだけだ」


「でも給料高いんでしょ?」


カノンが興味本位で聞く。


「そうでもないさ。1000万もないさ」


「え…意外と少ない?」


「あんたの見てきた男とは違うって!」


ユーリがカノンに思わず突っ込みを入れる。

違法を合法に仕立て上げる連中と比べられたら前崎でなくてもほとんどの人類であれば勝ち目がない。


「…前崎。あんたはなんで公安になったんだ?」


餃子を箸でつまみながら、シュウが唐突に尋ねた。


「…」


前崎は少し眉をひそめ、顎に手を当てたまま黙り込んだ。

数十秒が過ぎても、答えは出てこない。


「官僚から公安になったってことは、最初は官僚だったんですよね?

 じゃあそのときの動機があったのでは?」


ソウが助け船を出すように口を挟む。


「…」


しかし、それでも前崎は思案を続けた。

長い沈黙の末、彼が口にしたのは――


「……成れたから、成った。じゃダメか?」


「へっ?」「は?」「え?」

予想外すぎる答えに、あちこちから呆れや驚きの声が飛ぶ。


様々な声が飛び交う。


「前崎…さんでいいのかしら?夢とかなかったわけ?」


ユーリが呆れたように聞く。


「夢、か……そういえば、あったな」


前崎はぽつりと呟いた。


「強いて言うならミュージシャン、だ」


その言葉に全員が笑う。


『そ…その見た目でミュージシャン…!』


ルシアンまで笑いを堪えきれず、肩を震わせる。


「あー、言わなければよかった…」


前崎は頭を掻きながら、椅子にもたれた。


「目指さなかったんですか?」


ソウが訊く。

ジャンルは違えど、音楽という響きに親しみを覚えたのだろう。


「…なんというか、アイドルが好きだからってアイドルになりたいとは限らない、って感じか。

 楽器の練習にそこまで熱を入れられなかったんだよな」


「ふん。弱虫ね」


アリアが胸を張る。


「その代わり、公安に移動してから自衛隊の特殊訓練を受けた。

 格闘術も徹底的に身につけた。

 ……その中でよくわかったんだ。

 才能とか能力とか、得意なことってのは、好きって感情と必ずしも比例しないんだってな」


その言葉に、シュウの目が鋭く光る。


「…あんたに勝てば、俺は自衛隊の特殊訓練を超えたと言えるか?」


「言えない」


前崎は断言する。


「自衛隊求められるのは作戦実行力であって英雄はいらない。

 シュウといったな…お前ではジュウシロウの足元にも及ばない」


「…なんだと?」


シュウの手が止まる。

皿の上の餃子が、静かに冷めていく。


「無事だったら、対戦してやるって話だったよな?」


前崎が立ち上がる。

戦士の顔だった。


「いいぜ? 相手をしてやるよ。

 ……俺も腹、減った。おい、まぜ蕎麦一個くれ」


そして――

二人は最後の一口を胃に流し込み、ゆっくりと立ち上がる。


戦いの場へと、向かった。

次回!シュウVS前崎

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